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説得の時間②
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「一つは、君をむしばんでいる病気について。
調べたところ、君が悩まされている症状は、緘黙症という心の病気に該当するみたいだ。
むちゃくちゃ簡単に言うと、人前で話したいのに話せなくなる病気。声帯とか脳とかに障害があるせいではなくて、ひとえに精神的な問題から。
誰が相手でもしゃべれない全緘黙と、家で家族相手ならしゃべれるけど、学校でクラスメイトや教師に対してはしゃべれない、みたいな、相手や状況によってしゃべれる・しゃべれないが変わってくる、場面緘黙の二種類があって、美咲ちゃんの場合は全緘黙なのかな? お母さんやのどか相手に筆談ならできていたから、場面緘黙っぽくもあるんだけど――僕は医者じゃないから明言するのは控えるよ。
大事なのは、美咲ちゃんを苦しめているのは緘黙症という名前がついた精神疾患で、日本人の二百人に一人がその患者で、治療可能な病気だということ。
美咲ちゃんは考え込みがちな性格みたいだから、きっとこう思っていたんじゃないかな。こんなつまらないことで思い悩んで、学校に行けなくなって、部屋にひきこもって、誰ともしゃべらなくなった私は、なんて異常な人間なんだろう、そんな人間は地球上で私くらいのものだろうって。
でもね、美咲ちゃん。違うんだよ。君は二百分の一に過ぎない。日本国内だけでも、六十万人もの仲間がいる。決して多い数字ではないかもしれないけど、特殊な存在と呼べるほど希少でもない。原因は精神的なもの、対人関係のつまずきだから、誰であっても発症する可能性がある。まずはそれらの事実を胸に刻んでほしい。自分の苦しめている症状の正式名称が分かったとしても、病気の回復に直接結びつくわけではないけど、なんとなく気持ちが楽にならないかな?」
万人に通用する法則ではないのは承知している。誘導尋問をされているのではという不信感、押しつけがましさを感じさせるだけの結果に終わるのでは、という危惧の念がなくもない。
草太朗がリスクを覚悟であえて「自分を苦しめている症状の名前が分かったら、気持ちが楽にならない?」と述べたのは、自身の経験があったからこそだ。
妻のはるかを交通事故で失い、一人娘ののどかとの二人暮らしが始まったが、草太朗はのどかを力強く支えるどころか、自身がまともな生活を送ることさえままならなかった。
親戚に無理矢理連れていかれた総合病院の精神科で、彼は鬱病という診断を下された。
生来、図太さとある種のずるさを兼ね備えていて、大きな悩みとは無縁。それゆえに、心の病に対してある種の偏見を持っていた草太朗は、衝撃を受けた。ああ、僕はとうとう精神疾患を患ったのか、と。
しかし同時に、肩の力が抜けた。心の病を罹っていたのだから、妻を失ってからの僕があんなにも無様だったのも仕方がない。そう開き直れたのだ。
調べたところ、君が悩まされている症状は、緘黙症という心の病気に該当するみたいだ。
むちゃくちゃ簡単に言うと、人前で話したいのに話せなくなる病気。声帯とか脳とかに障害があるせいではなくて、ひとえに精神的な問題から。
誰が相手でもしゃべれない全緘黙と、家で家族相手ならしゃべれるけど、学校でクラスメイトや教師に対してはしゃべれない、みたいな、相手や状況によってしゃべれる・しゃべれないが変わってくる、場面緘黙の二種類があって、美咲ちゃんの場合は全緘黙なのかな? お母さんやのどか相手に筆談ならできていたから、場面緘黙っぽくもあるんだけど――僕は医者じゃないから明言するのは控えるよ。
大事なのは、美咲ちゃんを苦しめているのは緘黙症という名前がついた精神疾患で、日本人の二百人に一人がその患者で、治療可能な病気だということ。
美咲ちゃんは考え込みがちな性格みたいだから、きっとこう思っていたんじゃないかな。こんなつまらないことで思い悩んで、学校に行けなくなって、部屋にひきこもって、誰ともしゃべらなくなった私は、なんて異常な人間なんだろう、そんな人間は地球上で私くらいのものだろうって。
でもね、美咲ちゃん。違うんだよ。君は二百分の一に過ぎない。日本国内だけでも、六十万人もの仲間がいる。決して多い数字ではないかもしれないけど、特殊な存在と呼べるほど希少でもない。原因は精神的なもの、対人関係のつまずきだから、誰であっても発症する可能性がある。まずはそれらの事実を胸に刻んでほしい。自分の苦しめている症状の正式名称が分かったとしても、病気の回復に直接結びつくわけではないけど、なんとなく気持ちが楽にならないかな?」
万人に通用する法則ではないのは承知している。誘導尋問をされているのではという不信感、押しつけがましさを感じさせるだけの結果に終わるのでは、という危惧の念がなくもない。
草太朗がリスクを覚悟であえて「自分を苦しめている症状の名前が分かったら、気持ちが楽にならない?」と述べたのは、自身の経験があったからこそだ。
妻のはるかを交通事故で失い、一人娘ののどかとの二人暮らしが始まったが、草太朗はのどかを力強く支えるどころか、自身がまともな生活を送ることさえままならなかった。
親戚に無理矢理連れていかれた総合病院の精神科で、彼は鬱病という診断を下された。
生来、図太さとある種のずるさを兼ね備えていて、大きな悩みとは無縁。それゆえに、心の病に対してある種の偏見を持っていた草太朗は、衝撃を受けた。ああ、僕はとうとう精神疾患を患ったのか、と。
しかし同時に、肩の力が抜けた。心の病を罹っていたのだから、妻を失ってからの僕があんなにも無様だったのも仕方がない。そう開き直れたのだ。
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