切言屋

阿波野治

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遼と美咲④

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「俺も草太朗さんから同じことを言われたよ。……俺さ、ずっとずっと、美咲に直接なにかをしてあげられなかったことを気に病んでた。だけど、草太朗さんに労ってもらえて、そしてこうやって美咲からも褒めてもらえて、俺も貢献できたんだなっていう実感がようやく湧いたよ。役立たずではなかったんだって、美咲の力になってあげられたんだって、やっと自分で認めることができた。だから、俺からも礼を言わせて。ありがとう、美咲」
「どういたしまして」

 二人は目と目を合わせ、白い歯をこぼした。心が大幅に楽になったのを遼は感じた。それから先はほぼ自然体で会話できた。

「学校、行くことにしたんだって? 無理してない? 綿貫さんが協力してくれるそうだけど」
「そうなの。さっきまで通話していたんだけどね、『美咲にああだこうだ言ってくるやつがいたら、ぶっ飛ばしてやるから安心しろ』って言ってた。『そういう乱暴なのはやめてほしいかな』って苦言を呈したら、『言葉の綾だよ』とは言っていたけどね」
「美咲は綿貫さんの歯に衣着せぬ物言いが嫌だったんだよな。そのことについても話したの?」
「これからは気をつける、直していくようにするって約束してくれたよ。だから私は心配していないし、遼も心配しなくていいよ」
「それはよかった。……ところで、草太朗さんから聞いたんだけど」
「うん」
「綿貫さんの家って、美咲の家からは遠い場所にあるんだろ。だから、教室の中では綿貫さんに守ってもらうとしても、学校の行き帰りにいつもいっしょは難しいよね。だからさ、提案なんだけど、明日からは俺といっしょに登下校しない? ていうか、しようよ」
「いいの? うれしいけど、友だちといっしょのほうが楽しいでしょ」
「美咲も友だちだよ。というか、俺に美咲以上の友だちなんて存在しないから」
「……遼」
「お前が二週間ひきこもっているあいだに、いろいろ話したいこともできた。付き合ってくれると助かる」
「分かった。約束だよ」
「ああ、約束。できれば手も繋ぎたいかな……なんて」
「いいよ」
「えっ、マジで?」
「うん。だって高校生の男女って、それくらい当たり前にやってない? 私たちが遅すぎるんだよ」
「そっか。なんていうか、思った以上にオトナなんだな、美咲は」
「遼がコドモなんだよ。――ああ、でも待って。みんなの前だと恥ずかしいから、周りに人がいるときは離すようにしよう。……やっぱりコドモだね、私」

 美咲は眩いばかりの白い歯をこぼした。
 今は「中途半端に親しい」止まりかもしれない。でもいつかは、いや近いうちに絶対、美咲にとってかけがえのない存在になってみせる。
 西の空は茜色がにじみはじめている。笑顔が絶えない立ち話はいつまでも、いつまでも続いた。
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