ヒモ男と新幹線

阿波野治

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 滅多に乗らない電車に乗り、大型ホームセンターまで買い出しに行った。じっくりと商品を選び、リリカの帰宅時間に合わせてアパートに帰宅する。
 レジ袋を手に自室のドアを開けると、台所にリリカが立っていた。肉が焼ける美味そうな匂いが鼻孔を刺激する。豚肉の生姜焼きか、鶏肉の照り焼きか、はたまたチンジャオロースか。何にせよ、俺のために作られている料理ではないのだと思うと、微かに苛立ちも混じったような寂しさに襲われたが、押し殺し、黙して己の陣地へと移動する。
 俺が六畳間の出入り口を潜る瞬間、リリカが菜箸を動かしながら肩越しに振り返り、俺の手元を注視したのが目の隅に映った。

 今晩の総菜は、鰺のフライ、鶉の卵のベーコン巻き、シーザーサラダ。卓袱台の横にホームセンターのレジ袋を下ろす。リリカがトレイを手に六畳間に入ってくる。彼女の今宵の主菜はピーマンの肉詰めらしい。付け合わせには、茹でたものだろうか、一口サイズのニンジンとジャガイモが添えられ、別の皿にはダイコンの千切りサラダが盛られている。かかっているドレッシングは当然のごとく、胡麻ドレッシング。
 視線が交わったが、リリカはすぐさま目を逸らし、黄色い線を跨いで自陣に入っていった。盆を丸テーブルの上に置き、着席し次第、箸を動かし始める。俺はリモコンでテレビの電源を入れ、飯と茶と箸をとりに台所へ向かう。

 ほぼ同時に食い終わった。リリカが先に食器を洗った。俺が自分の分の茶碗と箸とコップを洗い終えて自陣に帰還した時には、リリカは自分の布団の上で壁に背を預け、膝の上のファッション雑誌に目を落としていた。
 俺は卓袱台の前に座ってリリカの方を向き、リモコンの電源ボタンを押した。白身魚のムニエルに舌鼓を打つ男性芸能人のわざとらしい歓声が一瞬にして消える。リリカはテレビ画面を見て、それから俺を見た。俺がリリカを見つめていたことに驚いたらしく、表情が揺れたが、すぐさま無表情に戻った。

「リリカ、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

 そっぽを向かれるかもしれないと危惧したが、リリカの視線は俺から外れない。

「このアパートの庭に、変なものあるだろ。あれ、何なんだろうな。お前はどう思う?」

 床に貼られた黄色いビニルテープを挟んで、俺たちは無言で見つめ合う。
 数秒後、リリカは視線を雑誌に戻した。そして、これ以上話しかけてくるなと警告するかのように、不必要に大きな音を立ててページを捲った。

 回答は得られなかったが、落胆や失望はなかった。リリカが問いかけに答えなかったことで、自らが進むべき道が明確になったからだ。

 再びテレビを点け、万年床に体を横たえる。リリカの視線は手元のファッション雑誌ではなく、俺に注がれているらしい。
 だが、話しかけたところで無視されるのは分かり切っているので、面白くもないテレビを視聴し続けた。

*

 自らが進むべき道。
 それは、新幹線をぶっ壊すことだ。
 壊れるものなのか、壊れたとしてリリカとの関係が改善に向かうのか。それは分からないが、とにかくぶっ壊す。
 新幹線をぶっ壊すためにホームセンターで調達したハンマーで、ぶっ壊す。
 ただそれだけのことだ。
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