惣助とアラバマ

阿波野治

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ママの到着

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 二つあるうちの左側のブランコにアラバマが、右側のブランコに惣助が、それぞれ腰を下ろす。

 アラバマは大きく漕ぐ。惣助はまったく漕がない。

「お留守番していたの?」

 言葉をかけると、アラバマは足でブレーキをかけてブランコをとめた。ゆっくりと発言者のほうを向く。

「電話の話を聞いた限り、そういうことなのかな、と」

 アラバマは何往復かブランコを小さく漕ぎ、また動きをとめる。今度は惣助ではなく、前を見て言う。

「ママね、男友だちのところに行ってる」
「男友だち……」
「うん。何人かと会ったことあるけど、おじさんばっかりだよ。やさしいんだけど、みんな変なしゃべりかたして、ちょっと気持ち悪いんだ」

 沈黙。

「お留守番をすることになって、ごはんの用意をしてもらっていたんでしょ。なんでお菓子を万引きをしようとしたの」
「……わかんない」
「え……」

 アラバマは口を尖らせている。また漕ぎはじめたが、すぐにやめた。

*

「ううん、わかってる。ほんとはね」

 惣助の視線が再び注がれたのが分かった。少しためらって、続ける。

「家にいたくなかったから。ママね、自分は友だちと遊びにいくくせに、ぼくには大人しく家にいろって言うから、それがいやで。だから、ぼくも外に行った。万引きしようと思ったのはね、おこづかいをもらっていないから。……それだけ」

 またもや、沈黙。人の声も、車の走行音も、犬の吠え声も、なにも聞こえてこない。 
 
*

 無音状態の中で、不意に聞こえてきた音がある。
 音はだんだん大きくなる。近づいてくる。惣助は顔を上げた。
 公園を囲う金網の向こう側に、人の姿が見えた。視界の左から右へ、全力疾走で移動し、出入り口の前まで来て足が止まる。 

*

「ママ!」

*

 アラバマは歓声を上げて立ち上がり、母親のもとへと走っていく。
 アラバマママは肩にかかる長さの髪の毛を金色に染めていて、胸に「NEVADA」と綴られた黒いパーカーを着ている。
 アラバマママは肩で息をしていたが、娘が走り寄ってきたのに気がつくと、娘へと歩み寄った。惣助も腰を上げる。

「ちょっと、てぃあら! なにやってんの、こんなところで!」
「ママを待ってた」
「違う! そういうことじゃない!」

 それに続いてなにか言おうとしたが、下唇をぐっと噛みしめ、惣助を睨みつける。

*

「てぃあら。あの男が、あんたを誘拐した極悪犯罪者?」
「悪い人じゃなくて、ちゃんとした人だよ。ゆうかいっていうか、いっしょに遊んだだけだし。楽しかった!」

 花のような笑顔。アラバマママの表情は険しいままだ。

「あの男になにかされなかった? されたのなら、正直に言って。あの程度の男なら素手で殺せるから」
「べつにー。ママ、さっきから勘違いしてる。そうすけはぼくの友だちだよ」
「ストックホルム症候群ね。そんなのは真の友情なんかじゃないから」
「すとっく……? なにそれ」
「ああ、もう、噛み合わないなぁ! じれったい!」

 アラバマママは髪の毛をがしがしとかく。再び惣助をにらみ、アラバマが持っているものを見下ろし、
 みたび惣助をねめつけ、つかつかと歩み寄る。
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