わたしの流れ方

阿波野治

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蛍狩り

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 息子二人を連れて蛍狩りに出かけた。息子たちが行きたいと要求したわけでも、わたし自身が行きたかったわけでもない。蛍狩りという言葉が持つ、風流で典雅な響きに惹かれたのだ。
 河原に到着すると、無数の緑がかった光が緩やかな速度で飛び交っていた。テレビなどで見る、蛍が飛び回る光景そのものだ。
 蛍は自ら人間の体にとまった。息子たちの体にも、わたしの体にも。二の腕にとまったきり動こうとしない一匹を観察する。蛍は一般的には「かわいらしい虫」というイメージだが、やはり虫は虫と言うべきか、グロテスクな印象を禁じ得ない。
「この蛍は、ゲンジボタルだよ」
 上の息子が、自らの手の甲にとまった一匹を指差して言う。
「違うよ。ヘイケボタルだよ」
 下の息子は、二歳上の兄に対して、怖じることなく真っ向から反論を述べる。
「なにを言っているんだ。ゲンジボタルだよ」
「ヘイケボタルに決まっているだろう」
 兄弟は言い合いを始めた。また始まったな、と思っているうちに、二人は掴み合いを始めた。
「こらこら、こんなところで喧嘩をするんじゃない」
 すかさず間に割って入った。頻繁に喧嘩をする代わりに、あっさりと仲直りすることも多いのだが、どういうわけか、今日の二人はしつこい。
「いい加減にしなさい!」
 声を荒らげ、上の息子の頭を叩いた。嫌な手応えがした。蛍がとまっていたが、発光していなかったため、気づかずに潰してしまったのだろうか? 叩いたばかりの頭の上を凝視する。
 潰れていたのは、蛍ではなく、親指ほどの大きさのわたしの妻だった。
「うわぁ! お父ちゃんがお母ちゃんを殺したぁ!」
 わたしが指でつまんだものを見て、息子たちは泣き出した。
「残酷なことをしてしまったが、死んでしまったものは仕方がない。あまり悪く言いたくはないが、留守番を頼んでいたにもかかわらず、勝手に小さくなって、勝手にお父さんたちについてきたお母さんが悪いとも言えるし」
 わたしは淡々と二人に言い聞かせる。
「さあ、埋葬しよう。三人で穴を掘ろう」
 妻は親指ほどの大きさだった上、三人で作業したので、墓穴はすぐに完成した。穴の底に遺体を横たえ、土を被せる。墓標として石を置き、合掌。
「もう遅いから、帰ろう」
 沈痛な面持ちの二人を促し、河原を後にする。
 行きとは打って変わって、兄弟は一言も口を利かない。洟をすする音が絶え間なく聞こえている。大人とは違い、彼らにとって人間の死は、大切な人間の死は、簡単に受け入れられるものではないだろう。どうにかして息子たちを元気づけてやりたいが……。
 しばらく歩くと、道端に移動屋台が停まっていた。匂いと暖簾の文字から、ラーメンの屋台だと分かった。
「よし、父さんがラーメン奢ってやる。一緒に食べよう」
 母親の死のことがあるから、喜びを露わにすることこそなかったが、息子たちの表情はいくらか明るさを取り戻した。二人はラーメンが好物なのだ。
 店主は愛想のいい親父だった。ラーメンの味は上々で、しみじみと美味い。息子たちも夢中になって麺をすすっている。
「実は先程、妻を殺してしまいまして」
 半分ほど食べたところで唐突に切り出した。
「あ、そうですか」
 親父はにこにこ顔で応じる。
「実は私も、三日前に殺したばかりです。お客さんが食べているスープのダシは、妻の骨でとったんですよ」
「なるほど。だからこんなにも美味しいんですね」
「喜んでもらえて光栄です。妻も喜んでいると思います」
 妻を殺した理由は互いに訊かなかった。互いに大人だったからだ。
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