わたしの流れ方

阿波野治

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駒の意味

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 アスファルトの道が真っ直ぐに西へと続いている。その所々に馬が突っ立っている。競走馬だろうか。栗毛の馬もいれば黒毛の馬もいて、割合は六対四といったところだ。
 馬はみな、その場から一歩も動こうとしない。足元に草がないか探したり、景色を眺めたりと、酷く退屈そうだ。それにもかかわらず、彼らは一頭たりともその場から動こうとしない。動きたいが動けないのではなく、動こうという意志を持っていないように見受けられる。
 わたしは一頭の黒毛の馬の傍らを通り過ぎた。瞬間、文字に起こせば「ボバンッ!」という音と共に、その馬の足元に四角い穴が開き、馬は穴に落ちた。
 穴を覗き込んだが、底が見えない。生臭い臭いを帯びた微風が吹き上がってくる。途轍もなく深い穴底に、夥しい数の馬の死体が折り重なっている、そんなイメージが脳裏に浮かんだ。足を踏み外して、折り重なる一員になっては堪らない。歩みを再開する。
 今度は栗毛の馬の傍らを通った。すると黒毛同様、栗毛の足元にも四角の穴が「ボバンッ!」と開き、落下した。その穴も黒毛の時と同じく、底が見えず、生臭い風が放出されている。穴から遠ざかり、二頭目の黒毛の馬を横切ると、その馬も穴に落ちてしまう。
 自らのせいで生き物の命が奪われるのは、やはりいい気持ちではない。馬がいない道を歩きたかったが、脇道はどこにもない。
 都合二十三頭が穴に落下したところで、道路沿いに一軒の民家が建っているのを発見した。素朴な外観をしているせいか、周囲に住宅は一軒もないにもかかわらず、孤立している印象を受けない。
 玄関の前で足を止めると、ひとりでに戸が開いた。現れたのは、老人のように頭髪が真っ白な若い男性。彼はわたしを一目見た瞬間、わたしの心中を察したらしい。
「あの馬たちはね、文字通り駒なんですよ」
 頼んだわけでもないのに、男性は語り出した。
「馬は駒とも言うでしょう。それがこの世界の馬は、駒は駒でも、将棋やチェスの駒と同等の存在なんです。つまり、定められた役割をこなすだけの存在なんですね。この地区の場合だと、あなたが横切ると穴に落下する、というわけです。単純明快でしょう?」
 確かに単純明快だが、なにかが間違っている気がする。
 返事がないのを怪訝に思ったのか、男性は顔から表情を消してわたしを見つめたが、すぐに笑みを浮かべ、
「そういうことでしたか。では、僕も役割に徹することにしましょう。ついてきてください」
 わたしに背を向け、家の中に引っ込む。後に続くと、土間になっていて、すぐさま壁に行き当たった。男性が手をかざすと、扉が開くように壁板が左右に割れ、奥へと続く道が生まれた。
 壁板の扉を潜った先は桑畑だった。空き地に桑が疎らに生えている、といった方が正確かもしれない。桑の葉の上には、何匹もの蚕の姿が認められる。どの個体もでっぷりと太っていて、絹糸をとるのではなく、食用にするのが目的で飼われているかのようだ。
「見てください」
 男性は一匹の蚕の真上に手をかざし、撫でるように横に動かした。するとたちまち、白い幼虫は煌びやかな宝石に変じた。男性はどこか得意げに宝石を指し示す。
「もう完結しているんですよ、この蚕たちは。だから手をこう動かすだけで、宝石になる。手品ではありませんよ、手品なんかでは」
 男性は次から次へと蚕を宝石に変えていく。
 マジックの類を披露しているのではないことは、感覚的に分かる。しかしながら、なにかが違う気がしてならない。
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