わたしの流れ方

阿波野治

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廃墟にて

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 廃墟を探検するのに夢中になっていたら、いつの間にか友人がいなくなっている。町外れにある二階建ての住宅内でのことだ。応接室が無闇に広かったり、食堂が土間になっていたりと、歩を進めるごとに新たな発見があり、興が乗ってきた矢先の出来事だった。驚き、混乱、恐怖、不安。様々な感情が押し寄せたが、この場にいない者のことを考えても仕方がない。
 隅々まで見つくしてやるぞ。
 気合いを入れ直し、探検を再開する。
 居間らしき場所に出た。床全体に物が雑然と散らばっている。部屋の隅に、扁平な、幼児用のプールほどの大きさの紙箱が蓋を外した状態で置かれ、薄汚れた冬物の衣類が詰め込まれている。収納容器として適当とは言えない入れ物に、新品ではない服が乱雑に入れられている有り様は、いかにも血の通った人間の仕業だという感じを受ける。同時に、いかにもすぎて、演出された人間の仕業らしさかな、という気がしないでもない。もしかすると、この住宅に人が住んでいた時期などなくて、最初から廃墟だったのかもしれない。
 居間を抜けると上り階段があった。薄く積もっている埃に滑らないよう、慎重な足取りで一段一段上がる。建物は二階建てのはずなのに、階段がやたら長い。あまりにも長いので、友人について考えなければならないような心境になった。元々同行していなかったのか、それとも、探検中に突如として行方不明になったのか。
 真相について真剣に思案し始めて間もなく、真っ直ぐだった階段が螺旋階段になった。上がる動きに加えて、カーブに合わせて進む方向を細かく調整する動きを要求されたことで、友人について考える余裕が失われた。
 その螺旋階段もやがて尽き、二階に到達した。計測していたわけではないので定かではないが、上り始めてから上り切るまでに十五分はかかったのではないかと思う。
 廊下が真っ直ぐに伸びていて、左右に部屋が並んでいる。どの部屋の襖も開いていて、室内はがらんとしている。まるで畳の上に幽霊が座っていたが、わたしが覗き込んだ瞬間に消えてしまったかのようだ。
 気味が悪いな。
 そう思った後で、この感情は廃墟に足を踏み入れた瞬間に抱いていなければならなかったのではないか、と思った。
 突き当りの一室に明かりが灯っている。中に入ると、そこは二十畳ほどの宴会場とでもいうべき広間で、二十人くらいの人間が部屋のあちこちに三・四人ずつ固まり、盛んに言葉を交わしている。
「ご協力お願いしまーす」
 入ってすぐのところに待ち受けていた青年からビラを押しつけられた。白黒柄の子猫の写真の下に、細かな文字で長文が記されている。要約すれば、子猫は八月に生まれたため、親猫がちゃんとおっぱいを与えているにもかかわらず、暑さにやられて死んでしまいそうだ、という内容だった。
「えーと、協力というのは、なにをすればいいんですか?」
 尋ねると、そう質問されることを予期していたかのように、青年は間髪を入れずに答えた。
「同情してください。ただただ同情してください。真夏に生まれてしまったのは仕方がないことだ、ではなく、暑い最中に生まれてしまって可哀想だ、と」
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