わたしの流れ方

阿波野治

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近道

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 近道をするには屋外プール場のウォータースライダーを滑り降りればいいのだが、まさか鈴を鳴らさないと使用できないシステムに変更されているとは思いも寄らなかった。ただ鳴らせばいいのならばなんの問題もないのだが、「チーン」という澄んだ音を響かせる必要があるから厄介だ。
 とはいえ、すごすごと引き下がるのは癪だし、入場料だって惜しい。当たって砕けろの精神で挑戦してやろうではないか。
 早速麺棒を手に取り、鈴を叩いた。しかし鳴ったのは、耳を防ぎたくなるような汚い音。この音を澄んだ音に改善させるのは不可能ではないかと思わざる得ない、そんな絶望的な音色だ。
 叩く強さ、角度、麺棒の持ち方。試行錯誤したが、結果は芳しくない。音色が多少綺麗になることはあっても、澄みきった「チーン」からは程遠い。
 今のところウォータースライダーを利用する客は他にいないため、後続を気にする必要がないのは不幸中の幸いと言える。しかしこの調子では、澄んだ「チーン」を出すことなど夢のまた夢だ。
 なにか良案はないかと必死に頭を巡らせていると、たまたま通りがかったビキニギャルが、友人のビキニギャルにこんなことを話しているのを耳にした。
「鈴がいい感じに鳴らない場合は、食べ物をお供えすればウォータースライダーを滑ってもいいらしいよ。ほら、プールの神様、食いしん坊だから」
 いいことを聞いた。これを試さない手はない。麺棒を水着の尻に挿し、売店へ走った。更衣室などが入っている、無駄に広くて全体的に汚い建物の最奥、そこに売店はある。
 売店は確かにあった。しかし肝心の店番のババアがいない。「所用のため外出中」の貼り紙はされていなかった。あのババアめ、どこまで怠惰になれば気が済むんだ?
 苛立ちに任せて売店の外壁を蹴飛ばし、立ち去ろうとして、気がついた。売店の窓口が開いている。商品や金銭をやりとりするための穴で、潜り抜けるには狭すぎるが、腕ならば入る。手が届く範囲に一つくらい食べ物が置いてあるはずだ。
 窓口に手を突っ込み、中を引っ掻き回すと、箱らしきものを掴んだ。振ってみると、中で無数の軽い物が動く。菓子が入った箱かもしれない。腕を引き抜こうとした瞬間、
「こら! なにをしとるんじゃ!」
 声がした方を向くと、ビキニ姿の老婆が憤怒の形相でこちらに駆け寄ってくるのが見えた。――ババアだ。
 逃げよう。
 改めて腕を引き抜こうとしたが、抜けない。焦っているから、ではない。腕を突っ込んだ時よりも窓口が狭くなっているのだ。どう足掻いても手首を抜くことはできない、そんな狭さに。
「泥棒! 泥棒!」
 ババアとわたしの距離は見る見る縮まる。
 わたしは不意に、水着の尻に麺棒を挿していることを思い出した。
 ババアは、身動きの取れないわたしを滅多打ちにするに違いない。
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