わたしの流れ方

阿波野治

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マストドン狩り

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 武器は槍一本しか持っていない。それでもわたしはマストドンを狩りに行く。八千年前に絶滅したはずの古代生物がなぜ生存しているのかは分からないが、とにかく槍を手にマストドンを狩りに行く。
 誰かにマストドンを狩れと命令されたわけでも、狩ってくださいと懇願されたわけでもない。大型動物であるマストドンを槍一本で倒すことで、強さと勇敢さをアピールしたいわけでもない。マストドンを狩った者に「協会」が報酬として授与する、特製のトイレットペーパー、それが目当てだった。
 特製トイレットペーパーは、従来のトイレットペーパーと比べて吸水力がかなり高いらしい。一回に使用する紙の量が少なく済めば、年間消費量にはかなり差が出る。
 そう。楽とはいえない家計を助けるために、わたしはマストドンを狩りに行くのだ。
「協会」で聞いた話によると、マストドンは夕方になると草を食むために草原に現れるらしい。
 草原から程近い木陰に潜んで待ち構えたが、いつまで経っても獲物は姿を見せない。待ちぼうけを食らううちに、段々眠くなってきた。
 やがて、夢現にこんな声を聞いた。
「来週の『協会』のマストドン狩りの報酬、缶詰のセットらしいぞ。都合がつくようなら行ってみようかな」
 一気に目が覚めた。
 缶詰。なんの缶詰かは知らないが、食べ物だし、保存がきくし、報酬としてはかなり魅力的な部類に入る。ジャンルが異なるので単純に比較はできないが、トイレットペーパーよりもお得な気がする。最近はレシピサイトが充実していて、簡単に、なおかつ美味しく缶詰を賞味するための調理法も盛んに研究されているとも聞く。
「いや、トイレットペーパーの方がお得だ。軽いから持ち運びが楽だし、賞味期限もない」
 自らに言い聞かせるように声に出し、その場に居座り続けることを選ぶ。しかしマストドンは一向に現れない。やがて太陽が地平線に没した。
 マストドン狩りは夜も行っていいのか。それとも、日没と共に撤収すべきなのか。報酬に目が眩んで狩りに参加したに過ぎない、マストドンの習性に詳しいとは言えないわたしは、判断に迷った。
 真っ暗闇の中、槍一本で巨大な生物と戦う己を想像してみる。闇に乗じた奇襲が成功を収める気もするし、夜目がきくマストドンに返り討ちにされる気もする。熟考に熟考を重ねても正答が見えてこない。
「八千年前に絶滅したマストドンが、そもそもいるはずがない」
 吐き捨てるように呟き、草原を後にした。
 一週間後、わたしが再びマストドン狩りに出かけたのは言うまでもない。
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