沈むカタルシス

A奈

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ソラ

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 恐る恐る中に入ると、エイプリルは笑みを深めた。

「さあ、座って。疲れたでしょ? クッキーもあるよ」

 意図が分からなくて、怖い。少し躊躇ったものの、浅くソファに腰かけた。高級ホテルというだけあって部屋は華美でとても綺麗だった。もっとも、ちゃんと目に焼きつける余裕はなかった。

「…何が目的なんだ?」

 そういうと、エイプリルは大きな目を更に見開いた。変な質問はしていないと思うが、その反応に少々不安になった。

「僕、言ったと思うけどなあ。絶対諦めない、って」

 綺麗な顔が段々迫ってきて、目が離せなくなる。強い力で縛られているわけでもないのに、体が動かなくなった。

「一目見た瞬間から、絶対に僕が幸せにするって決めてた。あんな浮気野郎に絆されてさあ、僕本当におかしくなりそうだったんだよ。ソラさんと付き合ってるのに、毎日毎日僕の姉とセックス三昧。何なら僕のことまで襲おうとしてたし。死んだ方が良くない? あんな奴。何はともあれ別れてくれてよかった。まあソラさんの初めてを僕以外の男が奪ったのも許せないけど」

 エイプリルの独白は非常に重たくて、ドロドロとした愛情を絡みつかせていた。正直驚いたし、今の自分には彼を受け止めきれそうにない。ただ、不思議と嫌な気持ちはしなかった。心が弱っているからだと頭では分かっているのに、どんどん心は高揚していく。
 その俺の心情に気づいたのか、エイプリルは急かすように囁いてきた。

「僕がよそ見したら目を潰して。僕が誰かに触れたら腕を切り落として。僕が他の誰かに心を向けたら…どんな形でもいいから殺して。勿論そんなことさせない、ソラさんの手は汚させない。だから、僕の恋人になるって、言って?」






















 パンの香りで毎日目覚める。
 台所に行ったら愛する人がいて、大きな手で寝癖を直すように頭を撫でてくれる。

 そんな幸せを俺は手に入れた。夢が叶ったのだ。

「おはよう、ソラさん」

 恋人になってから三年、俺の頭二つ分も大きくなった愛する人。俺だけをみてくれる人。
 彼の告白を受け入れたときは、こんなに長く続くと思っていなかった。キサキに浮気されたトラウマが残っていて、どうせ裏切られるとひそかに思っていた。

 しかし彼──エイプリルは誠実だった。仕事が終わればすぐ帰ってくるし、俺以外には吹雪が見えるくらいの塩対応。愛の言葉も欠かさないし、記念日も大切にしてくれる。まさに理想。今では俺の方が好きかもしれない。

「どうしたの、そんなじっと見て?」
 
 俺に見つめられると照れたように頬を赤くするのが可愛い。
 微笑みながら、「何でもないよ」と、つま先立ちをして形のいい唇にキスをした。





(了)





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