12 / 15
ソラ
12
しおりを挟む恐る恐る中に入ると、エイプリルは笑みを深めた。
「さあ、座って。疲れたでしょ? クッキーもあるよ」
意図が分からなくて、怖い。少し躊躇ったものの、浅くソファに腰かけた。高級ホテルというだけあって部屋は華美でとても綺麗だった。もっとも、ちゃんと目に焼きつける余裕はなかった。
「…何が目的なんだ?」
そういうと、エイプリルは大きな目を更に見開いた。変な質問はしていないと思うが、その反応に少々不安になった。
「僕、言ったと思うけどなあ。絶対諦めない、って」
綺麗な顔が段々迫ってきて、目が離せなくなる。強い力で縛られているわけでもないのに、体が動かなくなった。
「一目見た瞬間から、絶対に僕が幸せにするって決めてた。あんな浮気野郎に絆されてさあ、僕本当におかしくなりそうだったんだよ。ソラさんと付き合ってるのに、毎日毎日僕の姉とセックス三昧。何なら僕のことまで襲おうとしてたし。死んだ方が良くない? あんな奴。何はともあれ別れてくれてよかった。まあソラさんの初めてを僕以外の男が奪ったのも許せないけど」
エイプリルの独白は非常に重たくて、ドロドロとした愛情を絡みつかせていた。正直驚いたし、今の自分には彼を受け止めきれそうにない。ただ、不思議と嫌な気持ちはしなかった。心が弱っているからだと頭では分かっているのに、どんどん心は高揚していく。
その俺の心情に気づいたのか、エイプリルは急かすように囁いてきた。
「僕がよそ見したら目を潰して。僕が誰かに触れたら腕を切り落として。僕が他の誰かに心を向けたら…どんな形でもいいから殺して。勿論そんなことさせない、ソラさんの手は汚させない。だから、僕の恋人になるって、言って?」
♢
パンの香りで毎日目覚める。
台所に行ったら愛する人がいて、大きな手で寝癖を直すように頭を撫でてくれる。
そんな幸せを俺は手に入れた。夢が叶ったのだ。
「おはよう、ソラさん」
恋人になってから三年、俺の頭二つ分も大きくなった愛する人。俺だけをみてくれる人。
彼の告白を受け入れたときは、こんなに長く続くと思っていなかった。キサキに浮気されたトラウマが残っていて、どうせ裏切られるとひそかに思っていた。
しかし彼──エイプリルは誠実だった。仕事が終わればすぐ帰ってくるし、俺以外には吹雪が見えるくらいの塩対応。愛の言葉も欠かさないし、記念日も大切にしてくれる。まさに理想。今では俺の方が好きかもしれない。
「どうしたの、そんなじっと見て?」
俺に見つめられると照れたように頬を赤くするのが可愛い。
微笑みながら、「何でもないよ」と、つま先立ちをして形のいい唇にキスをした。
(了)
66
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる