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第一部
第三章:02
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「……ホオリは、いないのか」
CETの施設で過ごすようになって、一ヶ月近く過ぎた。
その間、ノー・フェイスは一日の大半を鍛錬に費やし、
残りの時間はホオリと共に施設内を歩き回るのが日課となっていた。
しかし今日はホオリが現れない。訓練室でアルカーとの組み手が
終わった後、尋ねてみる。
「んー。お姫様はね、"学校"だよ王子様」
「学校?」
確かにホオリは中学生。まだ学校教育を受ける(受けさせる)義務が
あることは、知っている。だが、確か本部の方針でフェイスダウンに
見つからないよう、まだこの施設から外にでることは禁じられているはずだ。
……年齢を考えればこの閉鎖された施設――本部は広大な地下シェルター内に
設置されている――に閉じ込められるのは苦痛のはずだ。大きな不満がでないのは、
彼女の感情が希薄になっているからだろうか。……幸い、とは言えないが。
まるで、籠の中の鳥だ。
「そうそう。ほんとうはちゃんとした学校に通わせてあげたいし、そのために
本部長も色々奔走してるけど当分目処はたちそうにないし。
でもせめて、一般教養としての教育はあたえないといけないからねー。
施設内に個人学校を用意したのよ」
「なるほど」
ジュース片手に組み手を見学していた桜田が説明する。
彼女はこのCETで偵察を担当しているそうだ。フェイスダウンも偵察部隊の情報は
認知していたが、どうもアルカーに執着するあまりそちらは軽視する傾向にあった。
しかしこうして裏から見ると、アルカーの行動は彼女たちによって
支えられてきたことが、よくわかる。
ぴこぴこと、口にくわえたストローを動かしながら器用にしゃべる。
「といってもねー、ホントに勉強教えるだけだし。友達もいないし」
「……本人は"いつものこと"だそうだ。友人がいないのは……」
上半身裸で座り込んでいる火之夜が、さみしそうに呟く。
学校という概念はよくわからないし、友人というものもよくわからない。
だが彼の横顔を見れば、それが彼女にとって自然な状態とはいいがたいと、察する。
「だから、ね。ノーちゃんがあの子の相手をしてくれて、とってもうれしいの。
……私にも、あの子が喜んでるってわかるから」
「……そうか」
めずらしく真面目かつ柔和な顔で、桜田が微笑む。火之夜もだ。
不思議な気持ちだった。悪の組織で戦闘員として生まれた俺が、
――こうして、人から笑顔を向けられるとは。
ふと、気になってたずねる。
「……ところでノーちゃんとはなんだ」
「――ノー・フェイスはいるか?」
……たずねたところでタイミング悪くCET作戦本部長――御厨が入室する。
自分はともかく、本当なら火之夜たちは立ち上がって迎えなければならない
相手のはずだが、まったくフランクな態度を崩さず軽く手をあげて挨拶する。
「ノー・フェイスならそこにいますよ、御厨女史」
「……………………そうか」
普段の様子から、この二人には並々ならぬ絆があることは感じていたのだが
今はなぜか、火之夜から微妙に目をそらして答える御厨。
「何の用だ?」
「ああ。先日から話している通り、今後フェイスダウンが現れたとき
アルカーと共に対応にあたってもらう。――その話は了承してもらえたな?」
「むろんだ」
すっ、と立ち上がる。フェイスと戦うのは望むところだ。
ということは、フェイスダウンが現れたのか?
「ああ、早合点させてすまない。そうではなく――出動時の話について、
おまえに紹介するものがある」
「おおおぉぉぉッッ!」
なぜか桜田が目を輝かせてとびつく。子供のようにはしゃぎながら、御厨に聞く。
「てことは! アレの手配が済んだんですな!?」
「フ……まがりなりにも官給品としてはいささか高価だが、そこはまあアレな?
権力者のアレソレでな?」
「くぅぅーーッッッ! この悪代官! 愛してるぅッ!」
よくわからないテンションでよくわからない話が盛り上がる。
なにか得体のしれない居心地悪さを感じ、火之夜に助けを求めるが――
「――苦労するぞ、これから」
……なぜかやたらと疲れ果てた顔で、同情するような視線を送られてしまった。
・・・
「おおおおぉぉぉおぉぉッッッ! I-I2! Tsuzaki社製の1000CC
"モンスターバイク"ッッッ!!」
「厳密には1000CCを越えていないがな……ああ、この光沢。素晴らしい」
CETの整備工場。そこには二大の大型バイクが並んでいた。
一台は、猛禽のような面構えの赤いバイク。もう一台は鏡面仕上げにより
美しく輝く黒いバイクだ。どちらも、そこにいるだけで周囲を圧倒するような
威圧感がある。
「"Xinobi I-I2"。水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒に
スーパーチャージがついた怪物マシンだ。圧縮された空気を送り込むことで、
高い出力をひねり出す。みろ、この禍々しい鼻先を。
まるで牙を剥いたドラゴンだ」
なるほど、見ようによっては竜の頭に見えなくもない。機械はその機能以外
気にしたことがなく、意匠などまじまじと見たことはないが――
「なるほど、悪くない」
「おッ!? いいねぇノーちゃんわかるかい? バイクはやっぱり
見た目がいいに越したことないよ! まあ愛嬌のある子も好きだけどさ」
くねくねと悶えながら桜田がばんばんと肩を叩く。
「……で、これがどうしたのだ?」
「うむ、その赤いバイクは火之夜のものだ。アルカーはコレに乗って
現場に駆けつける」
なるほど道理だ。アルカーにせよ、ノー・フェイスにせよ数十mを一秒で
駆け抜ける。時速で言えば二百kmを越える。(瞬間的にはその何倍も出るが)
が、その速度で何十kmも駆け抜けられるわけではない。一人しかいないアルカーが
あちこち引きずり回されるとなると、足が必要だとは思っていた。
これが、そうだったとは。
「で、だ。基本的に、アルカーとお前は二人一組で行動してもらう。
そのためには足並みをそろえる必要がある」
「……つまり、これにオレが乗れと?」
話を察してたずねる。御厨は妙に自信たっぷりに頷く。
「そうだ。これに乗っていれば、おまえの姿でもちょっと変わった
バイクスーツ姿として見咎められまい」
「……一応、擬態機能はあるのだが」
フェイスには人間に欺瞞する機能がある。人間社会に潜伏する専門連中と比べると
きわめて簡素なものだが、それでもその気になればそのあたりの道を
歩いてもバレはしない。
もっとも、それはあまりやらない方がいいだろう。戦闘用のフェイスに備えられた
擬態機能は、数種類のテンプレートを組合わせることしかできない。フェイスなら、
すぐに見つけてしまうおそれがある。
「おい、ちょっと待て……待ってください。いきなりそんな、
扱いづらそうなものをあてがうのは……」
「問題ない。乗れる」
「……え?」
火之夜が珍しくほうけたような声をだす。
「フェイスは、生まれたときにあらかじめさまざまな知識と技術を
インプットされている。機械操作もそうだ」
供与されたということで遠慮なく黒いバイク――I-I2にまたがり、
キックペダルを蹴ってエンジンをかける。
グオォォォォン! と重厚かつ甲高い響きをあげて、バイクがうなる。
「熟練者と張り合うには、相応の習熟が必要だが。
一般的な操縦なら、最初からできる」
周囲の人間を促して退かすと、軽く試乗してみる。
ほんの少し、加速させただけだが確かに早い。
低速からでも一気にスピードをあげられそうな気配が感じられる。
やや癖はあるものの、抑えられないほどでもなさそうだ。
「悪くないな」
「おーー! いいねえサマになってるじゃん!」
「ほう。初見でこいつを乗りこなすとは。――なかなかやるではないか」
なぜか得意げになる桜田と御厨。そんななか、火之夜だけは
ぽつねんと取り残された子犬みたいな表情をしていたのが、印象に残った。
・・・
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