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第一部
第三章:05
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「ッッハァ~~~~……」
虚脱したかのように、蛇男が腕をだらんと垂らしてため息をつく。
流石に暴れまわって疲弊したのだろう。
「くっそぅ……どうすっかな……やっちまったよ。
あー……やっちまったなぁ……」
「――ああ、やってしまったな」
同意する声にぴくり、と反応し大儀そうに頭をめぐらす。
「……んああ? アンダ、てめぇ」
フェイスと違い、兵器らしきものを体内に内蔵しているあの蛇男だが、
アルカーはひるむことなく真正面から近づいていく。
「やってくれたよ、貴様は。ここは人々が休日を過ごす、商業施設だった。
――貴様は彼等を傷つけ、殺した」
「ああぁ――……そうだよ? そうさ。オレがそうしたかったからな」
こともなげに言い捨てると、蛇のような口でにやり、と笑う。
「……おまえ、アルカーだな? 聞いてるぜ。あの木偶人形どもを
ぶっ壊して楽しんでるそうじゃないか」
「……楽しんだことなど、一度もない」
剥きだしの怒気をはらんで、静かに返すアルカー。
「へへっ……そりゃ、つまらん奴だな。おまえは人間なんだろ?
オレら人間は人間らしく、楽しみゃいいのによ」
「……貴様は人間なのか?」
ばっ、と両腕をひろげ得意げに語る蛇男。
「そうさ! あの木偶どもとは違う! ああ、凡百のクズどもとも違うな。
オレはヤー・トー! オレたちは改造人間……"改人"サマさ!」
「改人……」
ノー・フェイスは無事に残っていたビルの屋上で、二人の会話を聞いていた。
ちょうど蛇男……"改人"の背面に位置する建物だ。
アルカーが気を引いている間に、敵の観察をする。散々戦ってきたフェイスとは違い
全く未知の敵が相手だ。慎重に情報を集める必要がある。
アルカーと改人が戦闘を開始する。
まだ、様子見の段階だ。アルカーは相手の周囲をまわるように移動しながら
少しずつ距離を縮めていく。それに対し改人はその場からほとんど動かず、
体中に備えられたミサイルを乱射する。
アルカーが一定の範囲に近づくと、ミサイルから両腕の攻撃に切り替える。
鞭の様にのびてしなる腕だ。アルカーも迂闊には近づけず、距離をとる。
(……動かないのではなく、動けないのか)
観察して、察する。あのミサイルは発射の反動がある。
それを抑えるためには大地を踏みしめている必要がある。あの場を動けば、
自身が持つ武装の大半がただのデッドウェイトになるだろう。
(……本来は、後方射撃か物陰に潜んで面制圧するのが役目か?)
だとすれば、こうして自身の姿をさらけだすのは間が抜けた行動だ。
陽動か囮の類かと思い周辺をサーチする。しかし熱赤外線や電波、磁力線など
さまざまなセンサーにも、周囲で待機しているフェイス以外あやしいものは
見当たらない。
(何が目的なんだ……?)
皆目見当がつかない。つかないなら――まずはこいつを仕留める。
じっとアルカーと改人の戦いを見つめる。改人は、相当の実力者だ。
あのジェネラルと比べても、遜色ない。白兵戦にむいていないに関わらず、だ。
それだけにアルカーもやや焦りが見えている。すぐにも助力に行きたい衝動を
抑え込み、改人を見つめ耐え続ける。
(まだだ……)
屋上の縁にかがみこみ、機を待つ。まだ、まだ、まだ……
(――今だッ!)
ざっ、と壁を蹴り、一直線に改人に向けて空中を突進する。
アルカーをのばした両腕で絡め取ったため、回避も迎撃もできない態勢だ。
「――んおぉッ!?」
風切り音に気づいて振り向くも、遅い。
そのまま空中で一回転し、その肩口に強烈なかかと落としを繰り出す。
「ぎゃああぁぁあぁぁぁッッ!!!」
めきぐしゃっ、と嫌な音をたてて改人の肩から肋骨にかけてまでが砕ける。
たまらずアルカーを手放すが――覚悟が足りない。
激痛が襲っても、離すべきではない。
「"フラカン・リボルバー"ッッッ!!」
"力ある言葉"で炎をまとい、地面をすべるように回転しながら、
改人に向かって突撃するアルカー。その勢いのまま――
改人に、炎の回し蹴りを叩き込む!
「ケェェェーーーッッッ!!!!」
強烈なスピンがかかって宙を舞い、火だるまになる改人。これで終わりか――
いや、まだ生きている。息も絶え絶えながら、健在なようだ。
ノー・フェイスは驚愕していた。二人の連携を、それもアルカーは
必殺の"力ある言葉"を用いた一撃だ。それを喰らって、まだ戦えるとは。
「なんてタフな奴だ……」
珍しく、アルカーが吐き捨てるように愚痴をこぼす。
内心ノー・フェイスも同感だった。
「ヒ……ヒヒ、ヒ。や、やってくれるじゃねぇか……やってくれるねぇ!」
ふらふらと立ち上がりながら、全身に今までの倍以上ミサイルを生やす。
その姿はまるで多肉植物のようですらある。
「――壊してやる。てめぇら皆、ぶっ壊してやるぜぇ!!」
「あら。今ので死ななかったのね。それは重畳」
しゃらん、と。
戦場にすずやかな声音が響く。
びくり、と改人が肩をふるわせ、恐る恐る振り向く。
そこには――
カマキリのような見た目の、女? がたたずんでいた。
「ヒッ――シターテ・ルさま……」
「死んでなくてよかったわぁ。死んでたら――粛清、できないものね」
スパッ!
――と、軽い音を立てて剣閃が走る。ノー・フェイスはほとんど反応できなかった。
が、斬られたのはアルカーでもノー・フェイスでもない。
蛇男が首をおさえ、ぱくぱくと口を動かしてうめく。
「シ、シ、シターテ・ル……さま……」
「まったく。アナタが暴走したせいで、私が出張らなきゃいけなくなったじゃない。
反省してね? ――あの世で」
ぱたり、と糸の切れた人形のように崩れ落ちる。その亡骸は一瞬にして
燃え上がり灰となって消えた。
「貴様……」
アルカーが警戒もあらわに身構える。それはノー・フェイスも同じだ。
違う。
明らかに、今までの相手とは格が違う。それが肌の感覚だけで
ひしひしと伝わってくる。この改人は――危険だ。
そんな張り詰めた空気とは対照的に、くすくすとカマキリ女が笑う。
「あらあら、そんなに緊張しちゃって。かわいらしいこと。
ま、こんなことになっちゃったからには自己紹介しておきましょうか。
――私は"フェイスダウン"三大幹部、大改人シターテ・ル。
覚えておいてくれると嬉しいけど、すぐに忘れちゃうわよね。
――この世の記憶ごと」
あっ、と思う間もない。全身を切り刻まれる痛みにうめきながら
その場を飛び退るのが精一杯だ。
横目でみるとアルカーもわずかながら手傷を負っている。
(あのアルカーが……被弾するだと!?)
自分の怪我よりその方が衝撃的だった。アルカーが痛手を負うのは、これが初だ。
突風のように攻撃をしかけてきた大改人は、きょとんとしたようにその場で止まる。
「――あら? あら、あらあら?
まさか――今の、避けたの? 思ったよりすごいじゃない、アナタたち」
ころころと少女のように笑うカマキリ女。だがこちらは笑い事ではない。
(今の斬撃――ほとんど、見えなかった!)
深刻な問題だ。これまで、ノー・フェイスはアルカーの攻撃も、ジェネラルの動きも
ギリギリのところで見えていた。
あとは経験則と分析で敵を先読みし、対応してきた。
だが見えないのでは読みようがない。これではなすすべもなくやられるだけだ。
アルカーにも焦りがうかがえる。だが、全く対応できていないわけでもないらしい。
(なんてことだ……これでは、アルカーの足を引っ張るだけだ)
ぐっ、と体を引き絞る。せめて、敵の一撃を防ぐことができれば――
が、この大改人はそれ以上攻める気配がない。それどころか戦闘態勢をとき、
手を口に当てて哄笑する。
「ほほほほほ……面白い。面白いじゃない。
ここは住みやすいけど、戦闘では中東より退屈かと思ってたけど――
意外と、楽しめそうじゃない」
さっと身を翻し、宙に浮かぶ。――こいつは、飛べるのか?
「いいわ。今回は、イレギュラーだったし。総帥にも大目玉くらっちゃうかもね。
今日のところは、見逃してあげる」
ふざけるな、と怒鳴りたい気持ちをおさえて押し黙る。
……もしその挑発にのって気を変えられたら、対抗できる自信がない。
「ふう……じゃ、私はもう行くわ。
せっかくの好敵手ですもの。面白くしないと……損よね?」
甲高い嘲笑をまきちらしながら――大改人は飛び立っていった。
「よせ、虎羽! 追うな!」
おそらく桜田が追跡しようとした気配を察したのだろう、アルカーが制止する。
ノー・フェイスも同感だった。アレに気づかれたら――死、あるのみだ。
「……既に索敵範囲外に脱出している。戦闘は……終了だ」
力の抜けた声で、仲間に報告する。通信機からは御厨がPCPに
事後処理を命じるのが聞こえる。
ノー・フェイスとアルカーは同じ方向を見ていた。大改人の去った方向を。
――恐るべき、強敵のいる先を。
(三大幹部……アレと同格なものが、まだ二体いると言うのか)
自分たちは、対抗できるのか。自分は戦いについていけるのか。
ノー・フェイスは大きな不安を抱え、暗澹たる気持ちで立ち尽くしていた――
・・・
――高層ビルの一室から、天津はその戦いを見ていた。
首からさげたロケットペンダントを開き、中身をじっと見つめて呟く。
「改人――大改人。"改人計画"、か。
あれからもう、20年近く経つのだな――」
・・・
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