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第三部
第一章:03
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「……これ、なんです……?」
「……まあ、見たとおりだよ」
火之夜が茫然とした声音で問い、御厨が辟易した声で返答する。
ノー・フェイス自身はというと――特に何の感慨もなくその記事を見つめていた。
――"全空738便ハイジャック事件、フェイスダウンの仕業か"――
新聞の一面には、大々的にその見出しが躍っている。それはいいのだが……
問題は、その下に載った大写真だ。
「……オレだな」
「おまえだなぁ」
「ノーちゃんだねぇ」
「ケッ、めだちやがって」
「いやぁ、かっこいいですねぇ」
それぞれが好き勝手にさえずる。一面に載った写真は、大改人を
絞めあげ機外へひきずりだす、ノー・フェイスの姿だった。
「……へっ。一応おれらぁ機密扱いなんじゃあないんですかね?」
「……む」
竹屋がちくりと刺してくる。おそらく、あの時機内にいた誰かが
スマホで撮った写真なのだろう。あの状況でそんな余裕があるとは、
意外と人間とは図太いものだ。
「……まあ実際のところ……すでに、ネット上ではアルカーたちの
たたかいは動画でも後悔されている。時間の問題ではあった。
だから気にはしなくていいが……」
御厨がフォローする。が、言葉の割には歯切れが悪い。
なにか、言いづらいことがあるのだろうか。
「……こうして集めると言うことは、なにかあるのか?」
「……ああ。警視庁の方から要請があってな。……アルカーの存在を、
公表したいとのおおせだ」
ずいぶんと思い切った話だ。
御厨の話によれば精霊の存在は伏せ、対フェイスダウン用に開発された
パワードスーツ部隊という体で公開するのだと言う。
「フェイスダウンが表舞台に立ってから、警察の立場は悪くなるばかりだ。
連日のように、抗議の電話がかかってきてるらしい。
その事態を打開するために、アルカーの存在を公表したいのだろうな」
「……まあ、気持ちはわからなくもありませんが」
複雑な表情で腕を組む火之夜。これまで秘密裡にフェイスダウンと戦い続けてきた
彼にしてみれば、ただ困惑するばかりの話なのだろう。
「……で、具体的にオレたちにどのような関係があるのだ?」
「……うむ、その、それなんだが……
……実は、おまえたちを一般の場で公開したい、との声があがっているのだ」
「……は?」
さすがに、その言葉にはその場の全員が目を丸くした。
ようするに、セレモニーの一種を行え、ということだろうか。
「……俺たちは見世物ですか……?」
「言いたくなる気持ちは……よくわかる……」
額を押さえながら呻く御厨。彼女自身、納得は言っていないのだろう。
こめかみをもみながら、続きを話す。
「知っているとは思うが、現状警察の通常人員ではフェイスダウンンに
一切対抗できない。残念ながら、一般にもうすうす伝わっている、
そのイメージを払拭するために、大々的なパフォーマンスを
行いたいということだな」
「……まさに、見世物だな」
やや呆れてつぶやく。
しかし、仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。すでに
フェイスダウンによる被害は数え切れない。ましてや先日の原発占拠、
旅客機ハイジャック事件など、世間を不安に陥れる行為が
連続して発生しているのだ。それを無視もできないということか。
「……言いたいことや不服なことは多々あるのは承知している。
だが、どうかそこを堪えて受けてもらえないだろうか」
「……俺は、貴女がそういうのなら……」
火之夜が答えつつ、ちらりとこちらに視線を送る。
心の中で嘆息しつつ、首を縦に振る。
「……それで不安が払拭されると言うなら、やるだけの価値はあると
思っておこう」
「そうか。助かる」
ほっとしたように御厨が息をつく。とりあえず話はそれで終わりなのだが、
小岩井はどうやら不満なようだ。
「でも、納得いきません。ノー・フェイスさんたちは身を粉にして
日夜戦っていると言うのに。上の人は、そんなピエロみたいな扱いをして
なんとも思わないんですか?」
「……言ってくれるな、小岩井医師。お偉方などそんなものだよ」
御厨が肩をすくめる。小岩井も彼女に言っても仕方ないとわかってはいるのだろう。
口を尖らせつつ、退く。
しかし、気になることはある。
「……だが、フェイス戦闘員の存在は世に知れているだろう?
オレが出て行って、大丈夫なのか」
「アルカー・アテリスの状態で映ってもらう。細部については、映画スタッフの
美術班から特殊メイクでごまかしてもらうつもりだ」
……なみだぐましい努力だ。
「今回の一般公開は、戦闘力の誇示も兼ねる。
総火演と同じく東富士演習場で火力演習も行う。
しばらくは、そのための対策を練ることに専念してもらうから、
そのつもりでいてくれ」
・・・
「……ややこしいことになったなぁ」
珍しくぼやくように、火之夜がつぶやいた。
もっともノー・フェイスも同感だ。これまではただ戦っていればよかった。
しかし今回要求されているのは、言ってみればパフォーマンス。
見る者たちに、好印象を与えなければならないということだ。
(そんなやり方、オレは知らんが……)
おそらくは火之夜も同じことを考えているのだろう。
どう考えても、二人とも向いていない。
「ま、ノーちゃんとひのくんは策定どおりに戦っていればいいんじゃない?
ようは、現行兵器と戦ってその力を見せ付けてやればいいんでしょ」
後ろから気楽についてくるのは桜田だ。頭の後ろで手を組み、
どこ吹く風な様子ですこし面白がってさえ居る。
「……そりゃ、おまえはどうにでもやるだろうがな、こういうの」
「あー、ひどいなぁひのくん。どっちかというと、私もこういうの苦手よぅ?」
からからと笑いながら、火之夜の背中をバンバンと叩く。
その様子にため息をついて、不安材料を述べる。
「……大体、俺は現行兵器との戦闘などしたことがない。
話どおりなら、改人どものほうがよほど手馴れているんじゃないか?
うまくやれなくても、恨むなよ」
「まーまー。逆を言えばさ、改人たちの戦い方を理解する一助にもなるじゃん?」
屁理屈じみているが、理がまるでないわけでもないところが悩ましい。
ノー・フェイスもフェイスダウンにいたときは、アルカー対策の訓練しかしていない。
戦車や自走砲相手の戦い方など、ろくに知りはしないのだが。
「……しばらくは、通常の訓練に加えて演習の対策もせねばならんのか……」
気が重くなる話だった。
・・・
「くだらないことを考えるものだ……」
アルカー・エリニスが独白する。
渡された情報により、アルカーたちが火力演習による示威行為を
世に見せ付けるのだという。
おろかしい話だ。見世物のつもりか? それとも、英雄願望か。
いや、本人たちはどうでもいいのかもしれない。なら、
周りの大人どものつまらない面子問題か。
ばかばかしい。だが……面白い。
そんなセレモニーを台無しにしてやれば……きっと、愉快になる。
アルカーをお披露目する舞台を、アルカーが破壊してやるのだ。
豚どもがどんな悲鳴をあげるのか、楽しみだ。
そして……あの無能なノー・フェイスがどんな顔をして
自分を見るのだろうか。考えるだけで、愉快で仕方がない。
「……ほう、次の襲撃はそこを選ぶか。なかなか、センスはいいようだ」
すっ、と闇の中に何者かが降り立つ。
誰かは知っている。フェイスダウンの、処刑人だ。
真のフェイスダウン最高戦力。
大改人など、こいつに比べれば塵芥にすぎない。
「……なにしにきた?」
「ふん。オマエは改人どもとは違う。
鎖につなげない狂犬だ。一応、釘は刺しておこうかとおもってな」
処刑人はない鼻をならして辟易した声をだす。
こいつの命令など聞きたくもないが、彼女に逆らうことはできない。
それを考えると、ふつふつとした怒りが沸いて来る。
「ノー・フェイスは、殺せばいい。だが……
アルカーは、殺すなよ」
「……」
わかってはいることだ。従いたくもないが。
ノー・フェイスを殺せば、自分も用済みになる。
あっさりと始末されることだろう。……冗談ではない。
「ええ。わかっている」
だが言葉では従順に答える。相手も信用などしていないのだろう。
何も言わずにふたたび闇に消えた。
まだだ。
まだ、終わらせてなるものか。
まだまだ……自分は、この世界に悪意を撒き散らしたいのだ。
自分が育んできたこの煮えたぎり冷え切った悪意の塊を――
この世に、満たさなければ。気がすまないのだから――
・・・
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