黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

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本編

第047話 交錯する思惑④

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「ギィヤアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!」

 彼の「許可」を得たその竜は、嬉しそうに首を伸ばして顔を男に近づけ――勢いよくその牙を相手の腹に突き立てた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 鋭い痛みが身体を一瞬で駆け抜け、同時に傷口から血が沸騰したかとも思えるほどの熱が男を襲う。彼にとって不運だったのは、この一瞬で安らかな死を迎えることができなかったことだ。

 赤黒い骨の竜は、牙を突き立てただけでは飽き足らず、驚くべきことに男のはらわたを喰い千切ったのだ。そしてムシャムシャと・・・・・・・愛おしそうに何度も咀嚼そしゃくし、名残惜しそうに「吐き捨てる」。

 ベシャッ、と床を汚す大量の血液と穴だらけとなった見るも無残な臓物を視界に捉えた男の顔が絶望の色に染まる。

「ククッ……ハハッ! アハハハハッ!」
 その絶望に歪む相手の顔を見た九条は、高らかな笑い声を上げ、何度も肩を上下させながら呟いた。

「ウケるだろ? コイツ、骨だけだからマトモな食事なんてできねぇんだよ。コイツの食糧は『生き血』なんだとよ。自らが仕留めた獲物の血を骨に沁み込ませ、奪った命から漏れだすエネルギーを吸収するんだと。マァ俺には小難しいことはサッパリだが……その喰われていく相手の絶望に歪む顔は何度見ても面白いもんだな」

 彼が笑いながら解説する一方、右腕に顕現した竜は嬉々として獲物である男に喰らい付き、咀嚼と吐瀉を繰り返す。
 既に男の命はこと切れ、その表情は絶望――すら通り越し、もはや虚無に染まったものが浮かんでいた。幾度も牙を身体に突き立てられ、千切られた肉が咀嚼され、そしてゴミのように捨てられる。

 男の視界に映るのは、恐怖の象徴たる竜と床にブチ撒けられた夥しい量の血、そして変わり果てた自らの臓物だ。これを地獄と呼ばずして何と表現すればいいのだろうか。

 他方、その一部始終を上から眺めていたアザエルは、にんまりと年相応の子どもの笑みを浮かべていた。

「うん。順調そうで何よりだ! いやぁ、あの呪い竜を思いのほか気に入ってくれたようで良かったよ」
「えぇ。私もアザエル様から最初に伺った際は驚きと不安しかありませんでいたが……こうして見ると、彼にはベストの選択であったと言えるでしょう。まさにアザエル様の慧眼があったればこそ、と言えましょう」
 胸に手を当てつつ恭しくお辞儀をしながら自らの意見を述べるゼクスに、アザエルは「いやぁ~まぁねぇ~」と気恥しそうに頭を掻きながら、まんざらでもないとでも言いたげな返事をする。

「さて、アザエル様。この場の片づけを終えた後、しばらく時間を置いてまた同じような『食事』の時間となりますが……次も御覧になられますか?」
「あー、うん。そうだね、できればだけど。それより……彼の『食糧』の方は大丈夫なのかな?」
 ふと気になったアザエルは、視線を九条から外し、チラリとゼクスを見やりながら訊ねる。

「……はい。先ほど確認したところ、昨日無事にいつものところから届きました・・・・・ので、その点は問題ありません」
 眼鏡を持ち上げて事務的な口調でキッパリと伝えるゼクスに、アザエルは「そっか」と短く返答しつつ、さらに言葉を紡ぐ。

「それにしても、この地球ほしはホント食糧に事欠かないよねぇ。なんたって、総数で見ると70億を超えてるわけなんだから。これだけ多いと、公正で真っ当な司法手続きとちっぽけな正義感ゆえにその命を奪われる輩は一定数いるから、ざっくり計算してもそれなりの数は確保できるわけでしょ? いい場所だよ、ここは」
「左様でございますね。アザエル様の仰る通り、この地球には『奪われて当然』とされる人間の命が一定数は存在します。我々は、そうした輩を集め、研究の材料や魔物化を促進させるための食糧としている……いわば、捨てられる命を活用してると言っていいでしょう」
 ゼクスが微笑みながら主たるアザエルの言葉に賛同を示す。彼らの言葉には集められた人間――いや、およそ人という種に対する一切の同情もなければ憐憫の欠片さえも見当たらない。
 そこにあるのは純粋な「材料」と見做す目しかない。彼らの思考に「犠牲」という概念はない。強いて挙げるならば、材料を「消費」したと捉えるのが近しいと表現できるだろうか。

「ハハッ! 確かにゼクスの言う通りだね。僕らほど地球の『資源』を真っ当なアプローチで最大限に利用しているところはないと思うよ。こうした利用は珍しいものではないと歴史的に見ても同様のケースが散見されるしね。さてと……ついついお喋りが過ぎちゃったかな? ねぇ、次の食事まではまだ時間があるんでしょ? その間に……ズィーベン、僕の食事も用意できるかな?」
 アザエルはそう言ってゼクスとの会話を切り上げると、そのあどけない顔を傍に控えていたメイド姿の彼女に向けて訊ねる。

「かしこまりました。手の込んだものを用意するのはさすがに難しいかと思いますが、お飲み物と軽く摘まめるものくらいであればお持ちできるかと」
「ならそれでいいから頼めるかな。さっきのを見てたら僕もお腹が空いちゃって・・・・・・・・・さ。今度は僕も摘まみながら見ようかな」
「承知いたしました。それでは、すぐにお持ちいたしますので、こちらで今しばらくお待ちくださいませ」
「りょうかーい。お願いねー」
 ひらひらと軽く手を振りながら依頼するアザエルに対し、一礼して彼女はその場を去る。

「いやぁ……ホントに楽しみだよ。果たして『真に僕らの仲間となる』のか、あるいは『魔に喰われて化生の身に堕ちる』のか……」

 その視線を生まれ変わった九条に移したアザエルは、不気味な笑みを浮かべながら次の彼の食事が始まるのを今か今かと心待ちにするのであった――
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