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本編
第046話 交錯する思惑③
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アザエルたちが見下ろすその先。そこには灰色のツナギを身につけ、手首に枷を嵌められた男がポツンと立っている。
部屋の大きさはおよそ半径50メートル。広い室内ではあるが、奇妙なことに家具や設備は一切なく、あるのは頭上の照明のみという質素を通り越してもはや殺風景としか言いようがない。
そんな広い空間の中心に立つ男は、今いる場所がどこなのかを導き出そうとキョロキョロと顔を左右に振って辺りを見回している。
「っ――!?」
湧き上がる不安を押し殺しつつ周囲の様子を窺っていた男の背後。その位置にある壁が不意に左右に分かれた。と同時に苛立ちを混ぜた男の声が耳に届く。
「チィッ……何だよ。折角暴れられると思って来てみればヨォ……いかにも不味そうな男だなぁ、オイ。女だったらもうちっと楽しめるんだがな」
舌打ちをして愚痴を零しながら入ってきたのは、かつて不良集団である「アリゲーターバイト」を纏めていた九条武治であった。
「な、なぁ! 頼むよ、俺をここから出してくれないか? もし出してくれるのなら、相応の謝礼はさせてもらう! 頼むよ!」
手首に枷を嵌められた男は、現れた九条に縋り付き、幾度も頭を下げながら必死で懇願する。拘束とこの場所からの解放を願うこの男には、それなりの勝算があった。それが先ほど口から出た「謝礼」の言葉である。
この男の正体。それは警察が手を焼いたほどの詐欺師であった。
前科数犯の犯罪者であり、富裕層をターゲットに仕掛けた詐欺により、男のもとには数億にも上る金が集まっていた。ヘタを打って警察に捕まり、実刑判決を受けたものの、集めた金の大部分は未だに発見されずに残っていることはこれまでの取り調べから見当がついていた。
そう。男はその隠した財産を手札に、九条に取引を持ちかけたのだ。この状況下であれば、持ちかけられた方が「自分に有利な条件で取引の主導権を握れる」だろうと推察するのは容易い。命乞いをする相手に「相応の」謝礼。これはかなりの額の金を手に入れられる――そのように誰もが思うだろう。
それは九条に縋り付いたこの男も理解はできていた。
(大丈夫だ。8割くらい持っていかれるのは想定内。最低でも数千万あれば……数年のうちには回収できる)
男は懇願する裏でそんな言葉を呟きながら頭の中で算盤を弾く。この男のターゲットは富裕層であるため、数百万などはまさに「端金」のレベルだ。
もちろん相手を引っ掛けるには相応の資金が必要になるが、それは詐欺を数件こなせば収支は+に傾くハズ――と見込んでいた。
見るからに相手が有利――だからこそ、自分が付け入る隙が存在する。この取引で相手の心証を悪くしなければ、光明は見えてくる。
そんな考えから持ち出した取引――だったのだが
「あ゛ぁ? カネだと? 悪いが……」
男から取引を持ちかけられた九条は、片眉を吊り上げると、少し間を置いてさらに言葉を続ける。
「俺が欲しいのはあのガキをブチのめす絶対的な『力』だ。別にカネなんざ欲しいとは思ってねぇんだよ。ここにいれば大抵のことはできるからな」
「んなっ――!?」
相手に有利な状況で持ちだした取引であるにもかかわらず、アッサリと「必要ない」と言われたことに男は驚愕の表情を露わにするとともに、よろよろと九条から数歩離れて床に腰を下してしまう。
「さぁて……そろそろお前の話はオシマイか? なら――今度はこっちの番だな」
ニヤリと口の端を吊り上げた九条は、一歩男に近付くと、内から湧き上がる禍々しい空気を解放し、場を包み込んだ。
「あ、あぁ……い、嫌だ! た、助け――」
九条の気に当てられた男は、涙を浮かべ身体を震わせつつも這って離れようと試みる。しかし、そんな努力の甲斐も虚しく壁際に追い込まれた男は、顔を青褪めさせながらチラリと九条の顔を仰ぎ見る。
――いや、見てしまった。
「最近は『もっと喰わせろ』ってコイツが言うもんだからよぉ……こんな『食事』ももう慣れちまってなぁ……」
――ゴキッ、メキッ、バキッ、グジュッ……
ふと零した九条の言葉に答えるように、彼の身体が鈍い音を伴なって「作り変えられ」ていく。そして耳に残る音が止んだ時、そこにいたのは――
「まぁ、とどのつまり……お前みたいに取引持ちかけて命乞いするようなヤツは見飽きたってワケさ。さてと――準備もできたし……喰っていいぞ」
右腕を赤黒い骨だけの竜へと変貌を遂げた九条武治の姿があった。右手の部分は彼の身長ほどにも達する高さを持つ竜の頭蓋骨へと変わり、その眼窩には鬼火の如き青白い炎にもにた光が灯っていた。
部屋の大きさはおよそ半径50メートル。広い室内ではあるが、奇妙なことに家具や設備は一切なく、あるのは頭上の照明のみという質素を通り越してもはや殺風景としか言いようがない。
そんな広い空間の中心に立つ男は、今いる場所がどこなのかを導き出そうとキョロキョロと顔を左右に振って辺りを見回している。
「っ――!?」
湧き上がる不安を押し殺しつつ周囲の様子を窺っていた男の背後。その位置にある壁が不意に左右に分かれた。と同時に苛立ちを混ぜた男の声が耳に届く。
「チィッ……何だよ。折角暴れられると思って来てみればヨォ……いかにも不味そうな男だなぁ、オイ。女だったらもうちっと楽しめるんだがな」
舌打ちをして愚痴を零しながら入ってきたのは、かつて不良集団である「アリゲーターバイト」を纏めていた九条武治であった。
「な、なぁ! 頼むよ、俺をここから出してくれないか? もし出してくれるのなら、相応の謝礼はさせてもらう! 頼むよ!」
手首に枷を嵌められた男は、現れた九条に縋り付き、幾度も頭を下げながら必死で懇願する。拘束とこの場所からの解放を願うこの男には、それなりの勝算があった。それが先ほど口から出た「謝礼」の言葉である。
この男の正体。それは警察が手を焼いたほどの詐欺師であった。
前科数犯の犯罪者であり、富裕層をターゲットに仕掛けた詐欺により、男のもとには数億にも上る金が集まっていた。ヘタを打って警察に捕まり、実刑判決を受けたものの、集めた金の大部分は未だに発見されずに残っていることはこれまでの取り調べから見当がついていた。
そう。男はその隠した財産を手札に、九条に取引を持ちかけたのだ。この状況下であれば、持ちかけられた方が「自分に有利な条件で取引の主導権を握れる」だろうと推察するのは容易い。命乞いをする相手に「相応の」謝礼。これはかなりの額の金を手に入れられる――そのように誰もが思うだろう。
それは九条に縋り付いたこの男も理解はできていた。
(大丈夫だ。8割くらい持っていかれるのは想定内。最低でも数千万あれば……数年のうちには回収できる)
男は懇願する裏でそんな言葉を呟きながら頭の中で算盤を弾く。この男のターゲットは富裕層であるため、数百万などはまさに「端金」のレベルだ。
もちろん相手を引っ掛けるには相応の資金が必要になるが、それは詐欺を数件こなせば収支は+に傾くハズ――と見込んでいた。
見るからに相手が有利――だからこそ、自分が付け入る隙が存在する。この取引で相手の心証を悪くしなければ、光明は見えてくる。
そんな考えから持ち出した取引――だったのだが
「あ゛ぁ? カネだと? 悪いが……」
男から取引を持ちかけられた九条は、片眉を吊り上げると、少し間を置いてさらに言葉を続ける。
「俺が欲しいのはあのガキをブチのめす絶対的な『力』だ。別にカネなんざ欲しいとは思ってねぇんだよ。ここにいれば大抵のことはできるからな」
「んなっ――!?」
相手に有利な状況で持ちだした取引であるにもかかわらず、アッサリと「必要ない」と言われたことに男は驚愕の表情を露わにするとともに、よろよろと九条から数歩離れて床に腰を下してしまう。
「さぁて……そろそろお前の話はオシマイか? なら――今度はこっちの番だな」
ニヤリと口の端を吊り上げた九条は、一歩男に近付くと、内から湧き上がる禍々しい空気を解放し、場を包み込んだ。
「あ、あぁ……い、嫌だ! た、助け――」
九条の気に当てられた男は、涙を浮かべ身体を震わせつつも這って離れようと試みる。しかし、そんな努力の甲斐も虚しく壁際に追い込まれた男は、顔を青褪めさせながらチラリと九条の顔を仰ぎ見る。
――いや、見てしまった。
「最近は『もっと喰わせろ』ってコイツが言うもんだからよぉ……こんな『食事』ももう慣れちまってなぁ……」
――ゴキッ、メキッ、バキッ、グジュッ……
ふと零した九条の言葉に答えるように、彼の身体が鈍い音を伴なって「作り変えられ」ていく。そして耳に残る音が止んだ時、そこにいたのは――
「まぁ、とどのつまり……お前みたいに取引持ちかけて命乞いするようなヤツは見飽きたってワケさ。さてと――準備もできたし……喰っていいぞ」
右腕を赤黒い骨だけの竜へと変貌を遂げた九条武治の姿があった。右手の部分は彼の身長ほどにも達する高さを持つ竜の頭蓋骨へと変わり、その眼窩には鬼火の如き青白い炎にもにた光が灯っていた。
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