黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

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本編

第124話 支配と支配④

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「グルゥオオオアアァァァァッ!?」
 倒れても何度となく立ち上がり、幾度となく攻撃を繰り返した結果、ついに限界を迎えたドラゴンロードの深紅の骨に多数のヒビが生じる。

「は、ははっ……オイ、ようやく……終わりが見えてきたみたいだぞ?」
 ポタポタと顎を伝って滴る汗を拭うこともせず、ツグナは荒くなった息を整えながら話しかける。竜顎刀の刃先を地に突き立て、杖代わりにして身体を支えながら立つその背中は、まさに歴戦の戦士の立ち姿そのものだ。

「はぁ……はぁ…………行くぞおらああああっ!」

 ズポッと突き立てていた刃を引き抜き、身体の各所から痛みとして訴える悲鳴をあらん限りの意志力で捻じ伏せたツグナは、竜顎刀の柄を両手で強く握りしめながら吠える。

 そして、残された体力を限界まで振り絞り、弾丸の如く大地を疾駆したツグナは、その加速によって生まれたエネルギーを上乗せし、攻撃を繰り出す。

「あああああああああああああああっ! 万破、繚乱っ!」

 幾重にも繰り出される刺突と斬撃。
 それは「不可能」とも思われた相手の硬質な防御に生じた小さなヒビをさらに大きくさせる。

「いい……加減、砕け、ろおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 小さなヒビはやがて大きな亀裂となり、耐えきれなくなった深紅の骨が音を立てて崩れていく。

 そして、放たれたツグナの刃は相手の胸に収められた核へと到達し――

 ガキイイイイィィィィン!

 ガラスの破砕音にも似た響きを伴いながら、粉々に散っていった。

「ぐっ……はぁ……はぁ……」
 攻撃を繰り出した直後、加速のエネルギーを殺しきることができず、ツグナは何度も転がりながら大地を滑っていく。
 
「っ――!? ツ、ツグナ!?」
「兄さん!?」
「ツグ兄っ!?」
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
 やがて制止して倒れこんだ彼の姿に、見かねたソアラが駆け寄り、リーナ、アリア、キリアも続く。

「は、はは……悪い」
 大罪召喚を解除し、獅子闘気が消えた反動で体力・魔力ともに激減したツグナは、駆け寄ったソアラに肩を貸してもらいながらゆっくりと崩れゆくドラゴンロードに歩み寄る。

「ハッ、ハハッ……何、だよ。負けた俺を笑いにでも来たのかよ」

 さらさらと細かな砂塵へ変わり、その身体が少しずつ崩れ去っていくなか、九条武治は近寄って来たツグナに対して自嘲気味に呟いた。
「なぁ……これがお前の望みだったのか?」
 ソアラに肩を貸されながら彼と向き合ったツグナは、ポツリと掻き消えそうなほどの小さな声で訊ねる。

「望み……そうだな。俺は心のどこかで望んでいた。『自分の全力を出し切っても勝てない相手が現れること』を。力を求め、すべてを犠牲にしてまでも己の強さを求めた俺に終止符を打ってくれる存在を」
「それは魔物に成り下がったとしても、か?」
「あぁ……」

 身体の半分以上が砂塵となり、風に吹かれて消えた九条の言葉を、ツグナはどこか寂し気な表情を浮かべながら耳を傾けた。
 その命の灯火が今まさに儚く消え失せようとする九条の口から漏れる本心に、ツグナの脳裏には先ほどまでの激闘がまざまざと描かれていた。

 何度となく打ち込んでも弾かれる刃。
 当初はその圧倒的なまでの防御性能に対し、「再度、混成召喚を行うべきか?」との考えが頭を掠めた。

 だが、チラリと相手の顔を見たツグナは、最終的にその考えを却下した。

(――何だ? コイツ……笑っている?)

 それは単に彼の見間違いだったのかもしれない。
 けれども、戦闘によって研ぎ澄まされた感覚が、刃先から伝わる感情の移ろいとも感じられた相手の思いが、彼にそんな思いを抱かせた。

 彼が立ち向かう相手――ドラゴンロード、その宿主である九条武治の抱いた「強敵と出会えた歓喜」とも表現できる思い。

 その思いに応えるため、ツグナは敢えて従者たちを再召喚する選択を取らなかった。

 確かに手勢を増やす選択を放棄するのは、かなりのリスクを背負うことになる。いや、この時の相手を考えれば、彼の取った行動はむしろデメリットを敢えて抱え込んだとも分析できよう。

 しかし、ツグナは「この状況こそが相手の望んだことなのだろう」と何となくではあるが推察していた。

 力を追い求め、復讐という妄執に駆られた結果、魔喰人という化け物に成り下がった自分。
 それを討つために立ち向かってくる存在を。

 もはやそれらは戦いに身を置いているからこそ分かる、当人たちだけの直感的な感覚なため、後ろから情勢を窺っていたソアラたちには理解が及ばないものといえる。

「そうかい。ソイツは良かったな。自分の望みが叶ってよ……それで? その望みが叶った今、気分はどうだ?」
 ツグナはもうすぐで完全に消えそうな九条に、確認するように問いかける。

「ハハッ……そうだな。俺はすべての力を出し切って敗けた。もはや思い残すことはない。力を得るために散々この手を血に染めた。奪った命も一つや二つじゃない。ただ……そうだな――」

 残りわずかとなった身体で、九条は安らかな顔を浮かべながら言葉を紡ぐ。

「俺を……呪縛から解放してくれて……感謝する――」

 最期に感謝の言葉を残し、九条の身体は完全に消失した。

「っ――! 馬鹿野郎が……」
 耳に届いた九条の最期の言葉に、ツグナはぐっと強く両手を握り締めながら呟く。

 ――もっと別の出会い方をしていれば……

 今思えば「たられば」という仮定の話に過ぎないものの、どこか「コイツとだったらもしかしたら上手い付き合いができたのかもしれない」という思いがツグナの胸の中に去来する。

 しかし、それはもう二度と叶うことはない。

「俺たちにできることは終わった。さて……帰ろうか」

 込み上げてくる虚無感を呑み込み、ツグナは近くにいるソアラに声をかけた。
「う、うん……」
 どこか悲し気な声音で呟かれた彼の言葉に、肩を貸すソアラはただそう返すことしかできなかった。


 こうして急転直下を迎えた休日は終わりを告げる。
 纏装の指輪で再び偽装効果を付加したツグナたちは、多くの客や警察やマスコミ、消防・救急隊などの救急部隊が入り乱れるなか、どうにか帰途に着くことができた。

 そして、家に着いた直後、ツグナたちはリリアやシルヴィへの挨拶もそこそこにベッドに倒れ、そのまま泥のようにぐったりとしたまま眠ってしまう。

 彼らが巻き込まれ、激闘を繰り広げた事態がどのような波紋を広げているのか――それを知らぬままに。
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