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本編
第079話 魔煌石を巡る攻防(南の陣) A part①
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吐く息が荒くなり、額に浮いた汗が何度となく地面に落ちていく。
「うっ……ぐぅっ……」
ニタニタとこちらを完全に侮った笑みを浮かべる相手に、御水瀬健介は片膝で立ちながら奥歯を強く噛んだ。彼の左手は先ほどからじくじくと鈍痛を訴える脇腹に添えられ、その手の周りには滲み出した血が見え隠れしている。
健介の視線の先には、下半身が蜘蛛の身体に覚醒した女性――ガンマと、右腕を血を押し固めたような骨で形成された竜の頭蓋に変化した九条武治が並び立っている。
「なぁオイ、コレ……俺が来る意味あったのか? こいつら、てんで歯応えねぇんだが。いい加減、もう帰ってもいいか? アイツら程度、お前の方で対処できるだろ?」
「あ゛ぁ!? ダメに決まってんでしょ、ったく……つーか、そもそもそういう文句は私に言わないでくれる? アンタだって愉しそうにしてたじゃない、最初は。大体さぁ、私もアンタのお守りなんて、アルファの命令じゃなきゃ断ってたわよ。はぁ……どっかにもっと殺りがいのある相手はいないもんかしら。できれば十代前半くらいのコがいいんだけど。あれぐらいの歳のコは、イイ感じの声で鳴いてくれるから」
ため息混じりに呟く九条の苦言にガンマがキレ気味に言葉を返す。
「へいへい、わーったよ。まぁヤロウの肉なんて筋張っててあんまり喰いでは無いんだが、ちょっとは腹ごなしになるだろ。いいよなぁ、俺が喰っても!」
「あっそ、別に好きにすればぁ~」
ケタケタと哄笑して訊ねる九条に、ガンマはどうでもいいとばかりに興味なさげに答える。
「へへっ、なら好きにさせてもらうぜ……」
ガンマの返答に、九条は嬉しそうにベロリと舌舐めずりをして一歩前に進み出る。
それなりの距離は開いているものの、遠目からでも分かるその狂気は見る者に恐怖の二字を植え付ける。
「御当主様、お逃げ下さいっ!」
健介の前に蓮が立ち、強い口調で語りかける。彼らがガンマたちに会敵してから20分ほどしか経過していないのだが、既に蓮も健介も満身創痍の状態であった。
「逃げる? ハハッ……この状況で逃げるも何もないだろう。負傷した以上、ここではお前の足を引っ張るお荷物でしかない。それに、翠や叶絵がいるんだ。ならば……出来得る限り抗ってみせるさ」
厳しい表情で蓮の言葉に返した健介は、懐から二枚の札を取り出す。
「来い! 猿王! 瀑鬼!」
健介の声に応え、彼の持ち札である水式神二体が現れる。一体は全長2メートルを超える巨大な猿、もう一体は額から一本の長い角を生やした鬼だ。
「御当主様……そらならば、私も御庭番として使命を全うするまで! 支援せよ、氷極装甲っ!」
仄かに笑った蓮は、印を結び秋月家に伝えられる術――「水蓮万化」の一つを発動させる。この水蓮万化の名は、秋月家が長きに渡って「開発」してきた術法を纏めた一冊の書籍に由来する。
この術法は、水そのものが持つ「固体」・「液体」・「気体」という変幻自在な形態変化を用いた支援能力を指し、局面ごとに求められる「支援」を水の三形態を用いて陰に陽に対象を支える。
御水瀬家を支える四家のうち、秋月家は「水の体現者」とも呼ばれ、「御庭番」の役目を持つ蓮は歴代の中でも扱える術法が群を抜いている。
その彼が術を発動させたと同時、召喚された二体の水式神の両腕と両脚がパキパキと音を立てて氷の装甲に覆われた。
術式・氷極装甲――蓮が発動したこの術は、対象とした者の両腕と両脚を氷の装甲で覆い、打撃力を向上するとともに、装甲としての防御能力を付与するものだ。
秋月家は柊木家のような氷剣を用いた直接戦闘力や春日家のような式神を用いた使役能力、夏目家のような堅牢な拘束能力を有してはいない。
氷極装甲の支援を受けた健介の水式神二体が、術者を守るべく二人の前に並び立つ。その体格と威容から、現れた際には必ずと言っていいほどに相手を怯ませる猿王と瀑鬼であるが、対峙するガンマと九条はどこか「興味が失せた」とばかりに気怠そうな表情を浮かべていた。
「うっ……ぐぅっ……」
ニタニタとこちらを完全に侮った笑みを浮かべる相手に、御水瀬健介は片膝で立ちながら奥歯を強く噛んだ。彼の左手は先ほどからじくじくと鈍痛を訴える脇腹に添えられ、その手の周りには滲み出した血が見え隠れしている。
健介の視線の先には、下半身が蜘蛛の身体に覚醒した女性――ガンマと、右腕を血を押し固めたような骨で形成された竜の頭蓋に変化した九条武治が並び立っている。
「なぁオイ、コレ……俺が来る意味あったのか? こいつら、てんで歯応えねぇんだが。いい加減、もう帰ってもいいか? アイツら程度、お前の方で対処できるだろ?」
「あ゛ぁ!? ダメに決まってんでしょ、ったく……つーか、そもそもそういう文句は私に言わないでくれる? アンタだって愉しそうにしてたじゃない、最初は。大体さぁ、私もアンタのお守りなんて、アルファの命令じゃなきゃ断ってたわよ。はぁ……どっかにもっと殺りがいのある相手はいないもんかしら。できれば十代前半くらいのコがいいんだけど。あれぐらいの歳のコは、イイ感じの声で鳴いてくれるから」
ため息混じりに呟く九条の苦言にガンマがキレ気味に言葉を返す。
「へいへい、わーったよ。まぁヤロウの肉なんて筋張っててあんまり喰いでは無いんだが、ちょっとは腹ごなしになるだろ。いいよなぁ、俺が喰っても!」
「あっそ、別に好きにすればぁ~」
ケタケタと哄笑して訊ねる九条に、ガンマはどうでもいいとばかりに興味なさげに答える。
「へへっ、なら好きにさせてもらうぜ……」
ガンマの返答に、九条は嬉しそうにベロリと舌舐めずりをして一歩前に進み出る。
それなりの距離は開いているものの、遠目からでも分かるその狂気は見る者に恐怖の二字を植え付ける。
「御当主様、お逃げ下さいっ!」
健介の前に蓮が立ち、強い口調で語りかける。彼らがガンマたちに会敵してから20分ほどしか経過していないのだが、既に蓮も健介も満身創痍の状態であった。
「逃げる? ハハッ……この状況で逃げるも何もないだろう。負傷した以上、ここではお前の足を引っ張るお荷物でしかない。それに、翠や叶絵がいるんだ。ならば……出来得る限り抗ってみせるさ」
厳しい表情で蓮の言葉に返した健介は、懐から二枚の札を取り出す。
「来い! 猿王! 瀑鬼!」
健介の声に応え、彼の持ち札である水式神二体が現れる。一体は全長2メートルを超える巨大な猿、もう一体は額から一本の長い角を生やした鬼だ。
「御当主様……そらならば、私も御庭番として使命を全うするまで! 支援せよ、氷極装甲っ!」
仄かに笑った蓮は、印を結び秋月家に伝えられる術――「水蓮万化」の一つを発動させる。この水蓮万化の名は、秋月家が長きに渡って「開発」してきた術法を纏めた一冊の書籍に由来する。
この術法は、水そのものが持つ「固体」・「液体」・「気体」という変幻自在な形態変化を用いた支援能力を指し、局面ごとに求められる「支援」を水の三形態を用いて陰に陽に対象を支える。
御水瀬家を支える四家のうち、秋月家は「水の体現者」とも呼ばれ、「御庭番」の役目を持つ蓮は歴代の中でも扱える術法が群を抜いている。
その彼が術を発動させたと同時、召喚された二体の水式神の両腕と両脚がパキパキと音を立てて氷の装甲に覆われた。
術式・氷極装甲――蓮が発動したこの術は、対象とした者の両腕と両脚を氷の装甲で覆い、打撃力を向上するとともに、装甲としての防御能力を付与するものだ。
秋月家は柊木家のような氷剣を用いた直接戦闘力や春日家のような式神を用いた使役能力、夏目家のような堅牢な拘束能力を有してはいない。
氷極装甲の支援を受けた健介の水式神二体が、術者を守るべく二人の前に並び立つ。その体格と威容から、現れた際には必ずと言っていいほどに相手を怯ませる猿王と瀑鬼であるが、対峙するガンマと九条はどこか「興味が失せた」とばかりに気怠そうな表情を浮かべていた。
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