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本編
第086話 魔煌石を巡る攻防(南の陣) B part①
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時間は遡り、ツグナがリルたちを召喚して別れた直後。
「……待たせたな。お前の相手は俺たちだ」
自分のもとから去っていく召喚獣たちを見送ったツグナは、横に立つサクヅキと共に九条を見据える。
「オマエのそのツラァ……何度も何度も何度も何度も……夢にまで出て来た、『ブチ殺したいヤツ』の顔にソックリだ……」
口元を大きく吊り上げ、ギロリと鋭い目を向ける九条は、興奮した様子でそう言葉を漏らす。期待と歓喜に打ち震え、どこか蕩けたその表情は、不気味さを通り越して恐怖すら覚える。
「ハハッ、好かれてるなぁ主は。俺は絶対嫌だけど」
「何寝ぼけたこと言ってんだ。俺だってお断りだゾ、あんなイカレたサイコ野郎は。第一、あんなヤローにまとわりつかれてみろ。こっちの精神もおかしくなるわ」
「そりゃそうだ」
発せられた九条の言葉に、対峙するツグナとサクヅキが冗談混じりに会話を交わす。
「こ、の……ガキがああああっ!」
「グオアアアァァァッ!」
目の前にいるにもかかわらず、明らかにこちらのことを無視して話をする二人に、九条は怒声を上げ、彼の右腕に現れている竜が咆哮を轟かせる。
空気を震わせる咆哮に続き、九条のその外見と体外から漏れる圧力が場を支配する。
これが先ほどまで健闘していた健介や蓮ならば、この異様な空気に当てられてまともに動くことすらできなかったであろう。
しかしながら、今戦いの舞台に上がっている彼らは違った。
襲い来る不気味な圧をそよ風の如く受け流し、
心臓が鷲掴みされたと錯覚するほどの恐怖に笑みを浮かべ、
真っ直ぐに敵を見据える。
それは常に死と隣り合わせの環境で培われた強靭なる精神だ。
ツグナは知っている。いや、その身に刻んでいると言った方が正確だろう。
――恐れずに一歩踏み出すこと。そのわずかな勇気が戦況を変え得ることを。
「ヘマするなよ、サクヅキ!」
「ハッ! そう言う主こそナァ!」
身体に感じる九条の重圧を跳ね除けるように一喝したツグナは、魔闘技で身体能力を向上させて果敢にも彼我の差を詰める。
「ハッハアアアッ! 待ってたぜぇ!」
向かってくるツグナに、九条は嬉しさを爆発させながら右腕を後ろに引き、そのまま真っ直ぐに突き出す。
「グルオオオオオオオオオッ!」
突き出された右腕――その腕に宿る竜の首が「ギュルリ」と音を立てて伸び、その口がツグナを噛み砕こうとガパリと開いた。
「やらせ……る、かよぉ!」
その上顎から伸びる牙がツグナの頭に届こうとしたその時、ツグナの背後から飛び出したサクヅキが大地を蹴って飛び上がり、その両手に携えた双剣で竜の下顎をカチ上げる。
「――っ! 硬ってぇなぁオイ! 不意打ちにもかかわらず、傷一つ付かないってどんだけだよ!」
「ウラァ! よそ見してんじゃねぇゾ、ガキィ!」
下からの攻撃に頭をカチ上げられた竜は、重力に逆らわずそのままサクヅキを叩き潰そうと頭を振り下ろす。
「ガハッ!?」
空中での移動手段を持たないサクヅキは、迫る竜の下顎に対し、咄嗟に双剣を楯代わりにして防御するものの、落下スピードが加わったそれに対抗できるわけもなく、スピンボールよろしく地面に叩きつけられてしまう。
「サク!」
「いいから行けっ! どのみち主も分かってたことだろ!」
口に溜まった血をペッと吐き出したサクヅキは、再び双剣を構えながらツグナに告げる。
「……分かった。ただ、無謀なことはするなよ!」
「了解っ!」
それだけを言い残し、ツグナはサクヅキの顔も見ずに再び駆け出す。彼の前にはガラ空きとなった九条の胴体。
「はああああああああああああっ! 一閃ば――」
その胴体に向け、ツグナは流れるような所作で欄顎樟刀の鯉口を切り、抜いた黒刀を前に突き出して自身の技を放つ。
だが――瞬間、彼の身にゾクリと悪寒が走った。
「……待たせたな。お前の相手は俺たちだ」
自分のもとから去っていく召喚獣たちを見送ったツグナは、横に立つサクヅキと共に九条を見据える。
「オマエのそのツラァ……何度も何度も何度も何度も……夢にまで出て来た、『ブチ殺したいヤツ』の顔にソックリだ……」
口元を大きく吊り上げ、ギロリと鋭い目を向ける九条は、興奮した様子でそう言葉を漏らす。期待と歓喜に打ち震え、どこか蕩けたその表情は、不気味さを通り越して恐怖すら覚える。
「ハハッ、好かれてるなぁ主は。俺は絶対嫌だけど」
「何寝ぼけたこと言ってんだ。俺だってお断りだゾ、あんなイカレたサイコ野郎は。第一、あんなヤローにまとわりつかれてみろ。こっちの精神もおかしくなるわ」
「そりゃそうだ」
発せられた九条の言葉に、対峙するツグナとサクヅキが冗談混じりに会話を交わす。
「こ、の……ガキがああああっ!」
「グオアアアァァァッ!」
目の前にいるにもかかわらず、明らかにこちらのことを無視して話をする二人に、九条は怒声を上げ、彼の右腕に現れている竜が咆哮を轟かせる。
空気を震わせる咆哮に続き、九条のその外見と体外から漏れる圧力が場を支配する。
これが先ほどまで健闘していた健介や蓮ならば、この異様な空気に当てられてまともに動くことすらできなかったであろう。
しかしながら、今戦いの舞台に上がっている彼らは違った。
襲い来る不気味な圧をそよ風の如く受け流し、
心臓が鷲掴みされたと錯覚するほどの恐怖に笑みを浮かべ、
真っ直ぐに敵を見据える。
それは常に死と隣り合わせの環境で培われた強靭なる精神だ。
ツグナは知っている。いや、その身に刻んでいると言った方が正確だろう。
――恐れずに一歩踏み出すこと。そのわずかな勇気が戦況を変え得ることを。
「ヘマするなよ、サクヅキ!」
「ハッ! そう言う主こそナァ!」
身体に感じる九条の重圧を跳ね除けるように一喝したツグナは、魔闘技で身体能力を向上させて果敢にも彼我の差を詰める。
「ハッハアアアッ! 待ってたぜぇ!」
向かってくるツグナに、九条は嬉しさを爆発させながら右腕を後ろに引き、そのまま真っ直ぐに突き出す。
「グルオオオオオオオオオッ!」
突き出された右腕――その腕に宿る竜の首が「ギュルリ」と音を立てて伸び、その口がツグナを噛み砕こうとガパリと開いた。
「やらせ……る、かよぉ!」
その上顎から伸びる牙がツグナの頭に届こうとしたその時、ツグナの背後から飛び出したサクヅキが大地を蹴って飛び上がり、その両手に携えた双剣で竜の下顎をカチ上げる。
「――っ! 硬ってぇなぁオイ! 不意打ちにもかかわらず、傷一つ付かないってどんだけだよ!」
「ウラァ! よそ見してんじゃねぇゾ、ガキィ!」
下からの攻撃に頭をカチ上げられた竜は、重力に逆らわずそのままサクヅキを叩き潰そうと頭を振り下ろす。
「ガハッ!?」
空中での移動手段を持たないサクヅキは、迫る竜の下顎に対し、咄嗟に双剣を楯代わりにして防御するものの、落下スピードが加わったそれに対抗できるわけもなく、スピンボールよろしく地面に叩きつけられてしまう。
「サク!」
「いいから行けっ! どのみち主も分かってたことだろ!」
口に溜まった血をペッと吐き出したサクヅキは、再び双剣を構えながらツグナに告げる。
「……分かった。ただ、無謀なことはするなよ!」
「了解っ!」
それだけを言い残し、ツグナはサクヅキの顔も見ずに再び駆け出す。彼の前にはガラ空きとなった九条の胴体。
「はああああああああああああっ! 一閃ば――」
その胴体に向け、ツグナは流れるような所作で欄顎樟刀の鯉口を切り、抜いた黒刀を前に突き出して自身の技を放つ。
だが――瞬間、彼の身にゾクリと悪寒が走った。
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