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本編
第105話 当主会談と御神木、そして乱入者約一名⑥
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「うん? どうしたの?」
呆けていた千陽に気付いたシルヴィが、にこにこと微笑みながらも優し気に問いかける。
「えっ? い、いや……あの、大丈夫……なんですか?」
「へっ? 何が?」
「だっ、だって……継那さんは大切仲間、ですよね? ですけど、亞里亞たちは全く気にも留めてないというか……心配じゃないんですか?」
困惑の表情で訊ねる千陽に、シルヴィは「あぁ、なるほど……」と得心した様子で何度か頷いた後、再びその口を開いた。
「全くないか、と言われればウソなんでしょうけど……それ以上に信じているから」
「しん、じる……」
彼女の口から紡がれた言葉を、千陽はただオウム返しに呟く。
「えぇ。ツグナならきっと絶対大丈夫――そういう固い絆で結ばれているから、少々のことで動じたりはしない。幾度もの激闘、死闘を潜り抜けたなかで磨かれた信頼は、ダイヤモンドよりも硬い。死が身近にあり、命がまるで羽根のように軽い私たちの世界において、明日へ命をつなげてくれる仲間の存在は何よりも代えがたいものなの。それは、時として血がつながった家族よりも、ね」
日本での生活を経たシルヴィは、目の前で賑やかにお茶会の準備を始めるアリアたちの姿を眺めながら呟く。千陽はふと目にしたシルヴィの表情に、どこか寂しいものを見た気がしたが、それが何なのか具体的なことが分からず、結局それ以上訊ねることはできなかった。
「――……それに、ね」
何時の間にか消えていた微笑が戻ったシルヴィは、千陽の顔を見ながらさらに言葉を重ねる。
「ツグナの対戦相手――彼は貴女たちが苦戦を強いられた魔喰人を凌駕するほどの力を持っているのかしら?」
年上としての魅力を振り撒き、同性から見てもドキリとする笑みを浮かべながら訊ねたシルヴィに、千陽は返す言葉が浮かんでこなかった。
◆◇◆
ヴァルハラの女性陣が和気藹々とお茶会の準備を始めた頃、御水無瀬神社の本堂――その地下に広がる巨大な空間にツグナの姿があった。
健介に連れられてやって来たこの巨大地下空間は、別名「地下修練場」とも呼ばれており、健介や千陽、そして分家筋の棗や椿、蓮、萩などの一族の者たちが術式や剣術などの修練を行う場所として利用されている。
(本堂の下に広がる巨大な空間か……それにしても凄いな)
健介と共に地下修練場に初めて足を踏み入れたツグナは、キョロキョロと辺りを見回しながらポツリと胸中に感想を呟いた。
まず驚いたのは、その広さだ。ざっと見ても、この地下修練場は野球ドームとほぼ同じ広さがあった。確かに修練場としての用途としては申し分ない広さだとも思えるが、これほどまでの広大な地下空間を、一個人が保有していることにツグナは内心驚きを隠せなかった。
そして、次に目を引いたのは、かなり昔に人の手で掘られて作られた形跡が見受けられたことにある。コンクリートなどで綺麗に整地されておらず、土と岩が剥き出しではあるものの、等間隔に照明を配置するなど長い間人の手で管理されてきたことを窺わせる。
(この雰囲気は……なんだか懐かしい感じがするな)
ツグナは目の前に広がる光景に、ふとイグリア大陸で見知ったとある景色と重ね合わせる。
彼の脳裏に想起された景色――それは、数多くの冒険者たちが恐れる「魔の森」、その奥に位置する迷宮である、「カリギュア大迷宮」のそれであった。
(そういえば……しばらく顔を出してはいないけど、元気でやってるかな?)
迷宮のことを思い出したからか、ツグナの頭の中に一体の巨大な竜の顔が描かれる。その竜の名はアングレイト。「竜の試練」を受ける過程で出会ったその古代竜は、当初はとある孤島をその住処としていたが、事情によりそこから出て行かざるを得なくなったため、ツグナの提案によりカリギュア大迷宮の最下層にその住まいを移すことになった竜である。
住まいを移してからはちょくちょく雑談に興じたり、模擬戦闘をしたりと顔を出していたものの、地球での依頼を受けるにあたってここ最近は顔を見せることもできなくなっていた。
(ふむ。むこうに戻ったら一度顔を出してみるか。地球の話も面白がって聞いてくれそうだし。久しぶりに戦ってみるのもいいかもな。こっちは比較的平和だから身体も鈍りそうだし……)
竜、しかも数ある竜種のなかでも上位に位置する古代竜を、「身体が鈍りそうだから」という理由で相手に選ぶのは彼くらいなものだろう。普通の冒険者ならば「無理無理無理ィ!!」と全力で拒否するレベルなのだが、ツグナにとってはもはや日常的な出来事なのだ。
「――……それでは、双方、準備はいいか?」
地下修練場の中央、およそ10メートルの間隔を空けて対峙したツグナと尊琉に向けて健介の声がこだまする。
「えぇ、こちらはいつでも」
「あぁ、問題ない」
尊琉、ツグナの順で返って来た言葉に、健介は小さく頷くと、後でもめ事とならないよう予め今回の勝負における勝敗条件を告げた。
「時間は制限なし、勝敗はどちらかが『参った』もしくは私が先頭不能と判断した場合とします」
「「……」」
告げられた条件に、対峙する両者は沈黙でもって受け入れを表明する。
「それでは――始めっ!」
そして、リリアたちへの説明のために抜けた椿を除く棗、蓮、萩の三人が見守るなか、健介の合図とともに、ツグナと尊琉の戦いの火蓋は切られた。
呆けていた千陽に気付いたシルヴィが、にこにこと微笑みながらも優し気に問いかける。
「えっ? い、いや……あの、大丈夫……なんですか?」
「へっ? 何が?」
「だっ、だって……継那さんは大切仲間、ですよね? ですけど、亞里亞たちは全く気にも留めてないというか……心配じゃないんですか?」
困惑の表情で訊ねる千陽に、シルヴィは「あぁ、なるほど……」と得心した様子で何度か頷いた後、再びその口を開いた。
「全くないか、と言われればウソなんでしょうけど……それ以上に信じているから」
「しん、じる……」
彼女の口から紡がれた言葉を、千陽はただオウム返しに呟く。
「えぇ。ツグナならきっと絶対大丈夫――そういう固い絆で結ばれているから、少々のことで動じたりはしない。幾度もの激闘、死闘を潜り抜けたなかで磨かれた信頼は、ダイヤモンドよりも硬い。死が身近にあり、命がまるで羽根のように軽い私たちの世界において、明日へ命をつなげてくれる仲間の存在は何よりも代えがたいものなの。それは、時として血がつながった家族よりも、ね」
日本での生活を経たシルヴィは、目の前で賑やかにお茶会の準備を始めるアリアたちの姿を眺めながら呟く。千陽はふと目にしたシルヴィの表情に、どこか寂しいものを見た気がしたが、それが何なのか具体的なことが分からず、結局それ以上訊ねることはできなかった。
「――……それに、ね」
何時の間にか消えていた微笑が戻ったシルヴィは、千陽の顔を見ながらさらに言葉を重ねる。
「ツグナの対戦相手――彼は貴女たちが苦戦を強いられた魔喰人を凌駕するほどの力を持っているのかしら?」
年上としての魅力を振り撒き、同性から見てもドキリとする笑みを浮かべながら訊ねたシルヴィに、千陽は返す言葉が浮かんでこなかった。
◆◇◆
ヴァルハラの女性陣が和気藹々とお茶会の準備を始めた頃、御水無瀬神社の本堂――その地下に広がる巨大な空間にツグナの姿があった。
健介に連れられてやって来たこの巨大地下空間は、別名「地下修練場」とも呼ばれており、健介や千陽、そして分家筋の棗や椿、蓮、萩などの一族の者たちが術式や剣術などの修練を行う場所として利用されている。
(本堂の下に広がる巨大な空間か……それにしても凄いな)
健介と共に地下修練場に初めて足を踏み入れたツグナは、キョロキョロと辺りを見回しながらポツリと胸中に感想を呟いた。
まず驚いたのは、その広さだ。ざっと見ても、この地下修練場は野球ドームとほぼ同じ広さがあった。確かに修練場としての用途としては申し分ない広さだとも思えるが、これほどまでの広大な地下空間を、一個人が保有していることにツグナは内心驚きを隠せなかった。
そして、次に目を引いたのは、かなり昔に人の手で掘られて作られた形跡が見受けられたことにある。コンクリートなどで綺麗に整地されておらず、土と岩が剥き出しではあるものの、等間隔に照明を配置するなど長い間人の手で管理されてきたことを窺わせる。
(この雰囲気は……なんだか懐かしい感じがするな)
ツグナは目の前に広がる光景に、ふとイグリア大陸で見知ったとある景色と重ね合わせる。
彼の脳裏に想起された景色――それは、数多くの冒険者たちが恐れる「魔の森」、その奥に位置する迷宮である、「カリギュア大迷宮」のそれであった。
(そういえば……しばらく顔を出してはいないけど、元気でやってるかな?)
迷宮のことを思い出したからか、ツグナの頭の中に一体の巨大な竜の顔が描かれる。その竜の名はアングレイト。「竜の試練」を受ける過程で出会ったその古代竜は、当初はとある孤島をその住処としていたが、事情によりそこから出て行かざるを得なくなったため、ツグナの提案によりカリギュア大迷宮の最下層にその住まいを移すことになった竜である。
住まいを移してからはちょくちょく雑談に興じたり、模擬戦闘をしたりと顔を出していたものの、地球での依頼を受けるにあたってここ最近は顔を見せることもできなくなっていた。
(ふむ。むこうに戻ったら一度顔を出してみるか。地球の話も面白がって聞いてくれそうだし。久しぶりに戦ってみるのもいいかもな。こっちは比較的平和だから身体も鈍りそうだし……)
竜、しかも数ある竜種のなかでも上位に位置する古代竜を、「身体が鈍りそうだから」という理由で相手に選ぶのは彼くらいなものだろう。普通の冒険者ならば「無理無理無理ィ!!」と全力で拒否するレベルなのだが、ツグナにとってはもはや日常的な出来事なのだ。
「――……それでは、双方、準備はいいか?」
地下修練場の中央、およそ10メートルの間隔を空けて対峙したツグナと尊琉に向けて健介の声がこだまする。
「えぇ、こちらはいつでも」
「あぁ、問題ない」
尊琉、ツグナの順で返って来た言葉に、健介は小さく頷くと、後でもめ事とならないよう予め今回の勝負における勝敗条件を告げた。
「時間は制限なし、勝敗はどちらかが『参った』もしくは私が先頭不能と判断した場合とします」
「「……」」
告げられた条件に、対峙する両者は沈黙でもって受け入れを表明する。
「それでは――始めっ!」
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