黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

文字の大きさ
113 / 129
本編

第112話 Event & Invader⑤

しおりを挟む
火之輪尊琉あいつがいなければ、喜んで行ったんだけどね……)
 彼女の脳裏に尊琉の顔が思い描かれ、行く前にもかかわらずさらに心労が増した気がした。

(はぁ……何も無ければいいんだけど……)
 千陽は当日のことを心配して人知れず胸中にその不安な思いを吐露する。

 ――だが、彼女は知らない。

 尊琉が一緒に行くことを懸念して呟いたこの言葉が、ある意味で現実化してしまうことを。
 そして、彼女たちの言葉を、建物の間にいた一匹の黒猫が耳にしていたことを。

◆◇◆

「やあゼクス。つい暇でお邪魔しちゃったけど、大丈夫かな?」

 目の前にあるドアを軽くノックしたアザエルは、ニコニコと微笑を湛えながらノブを捻って中に入る。

「これはこれはアザエル様。このような場所にまで足を運んでいただき恐縮でございます。それで、本日はどのような御用件でしょうか?」
 部屋の奥、風格のある落ち着きのあるワインレッドの長机。その向こうに置かれた革張りの漆黒の肘掛け椅子に腰を下ろしていたゼクスは、彼よりも随分と背の低い、親子ほどの年の離れたアザエルに対し、席を立ち胸に手を当てながら恭しく頭を下げて出迎えた。

「あはは。いっつも思うけど、第六位ゼクスは几帳面だよね。同じ『七元徳』の第三位ドライあたりは部屋に行っても寝てることが多いからさ」
 ケタケタと年相応な屈託のない笑みを見せながらアザエルは話す。しかしながら、顔を上げたゼクスは彼の口から出た言葉に、不愉快そうにその表情をわずかに歪める。

「あの者はアザエル様に対する敬意が足りないのです! まったく、同じ七元徳として『位』を授かる者としてお恥ずかしい限りです……」
 ゼクスはカチャリと眼鏡を掛け直しながらため息交じりに呟く。
「ははっ、そういう融通のきかないところもまたキミの個性だよね。まぁ僕は気にしないけど、ほどほどにね」
「心得ております。さて……話は脱線してしまいましたが、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、ゴメンゴメン。僕が来た用件だったよね。キミも色々と仕事があるだろうから手短に……」
 軌道修正を図られたアザエルは、謝罪しながら端的に用件を告げる。

「僕の方での『改造』は終わったよ。後はキミのゴーサインを待つだけだ」
「っ――! それは朗報でございます。もう少し時間がかかるかと思われましたので……」
 アザエルの口から出た言葉に、一瞬だけ小さく身を震わせたゼクスは、その口の端をわずかに持ち上げながら言葉を返す。

「まぁ僕ももうちょっと時間がかかるかなぁ……とは思ってたんだけどね。何せ両腕がバッサリ無くなってた・・・・・・・・・・・・・からね。その再生には時間がかかっちゃったけど、あとは割とスムーズだったから想定よりも短い期間で終えることができたよ。まぁ、それはもともと肉体が頑健だったことが幸いしていることもあるけど、それを上回るほどの妄執が主な要因だろうね」
「……なるほど。精神が肉体を凌駕した、ということですね」
 ゼクスの指摘にアザエルは「まぁそうだね」と一定の理解を示しながら話を続ける。

「驚愕すべきは彼の持つ妄執がもたらした強靭な精神だろうね。僕の改造は壮絶な痛みが伴う。それこそ常人ならば一日と持たずに発狂するレベルだ。それは末期の癌患者を襲う人格が変わるほどの激痛とはワケが違う。それこそ本当に人格が変わる・・・・・・・・・。彼がギリギリ自我を保てたのは、このおかげだろうね。とは言え、改造が終わった途端、およそ人間らしい部分というのは一切なくなっちゃったんだけどね」

 散々弄り回し、人間としての尊厳を塵の如く吹き飛ばした張本人であるアザエルは、改造を施した相手への同情や憐憫など一切感じさせない、先ほどまでと同じ・・・・・・・・笑みを浮かべながら説明を終えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 会社員の俺が交通事故に遭いました。二か月後、病院で目覚めた時、ほぼ全身不随。瞼と瞳が動かせるものの、手足も首も動かない。でも、病院で寝ると異世界の別人の身体で憑依し、五体満足で生活している。また、異世界で寝ると現代世界に目が覚めるが体の自由は利かない。  睡眠の度に異世界と現代世界を行ったり来たり、果たして、現代社会の俺は、元の身体に戻れる方法があるのだろうか?  そんな男の二重生活の冒険譚です。  毎週水曜日午後8時に投稿予定です。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...