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第5章

1話 【黒弧族】

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 東北地方の夏は、駆け足で終わる。早くも吹く風に秋の気配を感じるのだった。
 夏休みは、関東以南より日数が少なかった。その代わり、冬休みは豪雪をかき分け、大変な思いをしながら歩いて登校して来る生徒を休ませるために、より多くの日数が費やされた。
 夏休みが終わり、二学期が始まった。
 新学期が始まっても、亡くなった留美の机と椅子が片付けられることはなかった。
 それは留美の事件のあと、学校で職員会議が開かれ、希和たちの担任の、「留美さんの席はそのままで、卒業まで花を絶やすことなく、クラスの皆と一緒に卒業させてあげましょう」という意見が支持されたからだった。そういった学校側の配慮もあり、留美の机の上には今朝も可憐なコスモスの花が飾られていた。それを活けたのは、もちろん希和だ。
 希和は、東京などの都会でコスモスが花屋で売られているのをテレビで見て、驚いたことがあった。しかも、オレンジ色の新種のコスモスが主流になりつつあるらしい。
 しかし、田舎のこの辺では、初秋の頃になると、あちこちの家の庭先や田んぼのあぜ道に雑草に交じってコスモスが咲き、白・ピンク・赤紫色の花が、ここかしこで揺れているのだった。
 二学期に入っても、留美のために花を活け続ける希和を、クラスメートも見守っていた。
「希和ちゃん、良かったら、これ使って」
 クラスメートの小川みゆきが、希和に声を掛けた。手には、花のイラストが入ったミニタオルを持っていた。
 花瓶に付いた水滴が机の上に垂れ、それを毎回、希和が雑巾で拭いていたのを、みゆきは見ていたのだ。
 希和も難儀していたので、快く、
「みゆきちゃん、ありがとう」
 と、そのミニタオルを花瓶の下に敷いた。
 中学生ぐらいの女の子は、どこへ行くにも必ず二人以上でつるんで歩きたがるらしいが、希和もみゆきも一人でいるのは平気だったし、必要であれば、誰とでも一緒に行動できるタイプだった。
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