恋まで0センチメートル

高羽流生

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「伊織! いるんだろ? 開けろよ!」

 伊織のマンションに向かった雄大は、連続でインターフォンを鳴らし、ドアを叩いた。けれど、伊織の応答はない。

(居留守か?)

 何も予定はないと言っていたのだから家にいるはずなのに、と思いつつ電話を鳴らす。ドアの向こうからわずかに着信音が聞こえた。

(電話も無視かよ……)

 雄大がきていることがわかっていて、電話に出ないのだろう。インターフォンも鳴らしたし、ドアも叩いている。気がつかないわけがない。だんだんと腹が立ってきて、雄大は秘密の道具を鞄から取り出した。

 伊織宅の合鍵である。

 鍵穴に鍵を突っ込んで回し、ドアを開けようとした。けれど、ドアは十五センチほどしか開かなかった。

「勝手に開けんなよ。行かないっつったろ?」

 開いた隙間から、不機嫌そうな伊織の声が聞こえた。

「納得いかない! なんで別れんの?」

「はぁ? もともと遊びなんだし、納得も何もないだろ?」

「それでも納得いかねえの! だって伊織好きって言ったもん」

「言ってない」

 ドアを閉めようとしてくる伊織に対抗してドアを引っ張る。

「絶対言った! 『聞いてどうすんの?』ってどういう意味⁉ 別れんのと関係あんの⁉」

 一週間考えて、それでもわからなかったのだ。わからないなら、本人に直接きいたほうが早い。意味がわからなくてモヤモヤするのは苦手だ。

「うわっ、……ってぇ」

「雄大!」

 聞きたいことを言ったら、ドアを引いていた伊織の力が弱まった。同時にドアが勢いよく開いて、バランスが崩れる。

 尻もちをついた雄大に向かって伊織が手を伸ばしてくる。手を掴んで立ち上がり、雄大は尻を撫でた。

「急に緩めんなよ……」

「……悪い」

「ま、引っ張ったオレも悪いんだけど……、入っていい?」

「あー、……うん」

「お邪魔しまーす」

 靴を脱ぎ、伊織の横をすり抜けて中に入り、雄大は定位置のようになっているソファに座った。あとから歩いてきた伊織が、ベッドに座る。

「伊織」

「何?」

「理由、教えてよ」

「何の?」

「別れる理由」

 理由がわからないのは気持ち悪い。乗り込んできたのは聞きだすためなのだ。伊織の答えを聞くまでは、帰るつもりはない。


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