仙年恋慕

鴨セイロ

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2章

48.S級ハンター達とエド sideエドヴァルド

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「もう行くのか?」

 井戸から水を汲み村まで騎乗して来た小竜に水を与えていると、深緑の鱗が美しい小竜の背を撫でながらオジロが話しかけてきた。

 この熊獣人の男と俺が初めて顔を合わせたのは、イレギュラータイプの飽和魔素解消現象が初観測された掃討作戦の際で、その時は俺たちが入れられた隊の隊長を任されていた。
 その後も何かと縁があり、俺がS級になってからもいくつかの依頼を共にこなしている。

「街道を通りかかった時に、逃げる途中の村人たちからアンタたちの話を聞いて、乗っていた馬車からコイツを一騎借りたんだ。早く戻らないとバルファがうるさい」

「はははっ、お前さんも無茶するわな。……大方、村に残ったハンターの中に人間の若いのがいると聞いて飛び出して来たんだろ?」

 その問いに答えず、俺は水をたらふく飲んで満足したらしい小竜の額を撫でる。

「相変わらず探してんだな」

「…………、……あぁ」

 無言を肯定ととったのであろうオジロに、逡巡の後、俺は浅く頷いた。

 出会った頃はそのガッチリとした体格に見合った大剣を担いでいたオジロだったが、いつの間にか得物を盾に変え今は盾役をこなしている。
 以前『盾役が出来る奴が最近は減ってな。っで、仕方なく見よう見まねで始めたら性にあっててよ』とオジロは軽く話したが、得物を変え前線で指示が飛ばせる様になるにはソレなりの練度を要する。

 つまり、俺がオジロと知り合ってからそれほどの年月が経過したと言う事だ。

「もし、あんたが何処かで――」

「わーってるわーってる、見つけたら必ずお前さんに連絡するさ」

「すまない」

「なーに、しょぼくれてんだ。お前さんはもう少し自分の働きを恩に着せろ。なのにバカみたいな額の賞金までかけやがって」

 その気遣いが滲む言葉に、俺は口を結ぶ。

「まぁなんだ、こんな辺境じゃ応援も何も期待できなかったからな、来てくれて助かった。うちの隊の奴らが全員無事なのはお前さんのおかげだ。礼を言う」

「……その必要はない、俺はただ自分の為に来ただけだ」

「っはぁー、だから恩に着せとけって。まったく、お前さんはずいぶんと愛想が悪くなっちまったわな」

 小竜の背に鞍を乗せながらそっけなく答える俺に、オジロは子か孫でも見る様な目でやれやれと肩をすくめた。



「えー、エドさんもう行っちゃうのー?」

 十分に休ませた小竜に騎乗した所で、休息をとっていたはずのメディと言う猫獣人が顔を見せた。

「あぁ、俺も遠征の途中なんだ」

「そうそう、のんべんだらりA級のお前さんと違って、S級ハンターは忙しんだよ。お? ラルフとニコはどうした?」

「んとね、ニコが色々と限界だったみたいで熱が出てね、神殿でラルフが看病してるー。っで、ラルフはちょっと焼きもち焼いてたカンジ」

 オジロの皮肉などどこ吹く風で、俺を見ながらニシシと笑うメディの姿に、知り合いの猫獣人の影がよぎる。
 メディとラルフ、そしてニコの三人にかつての自分たちが重なり、俺は疼く胸の痛みをそっと息を吐いて誤魔化した。


 ***


 S級に昇級してからというもの、目に見えて指名依頼が増えた。

 指名依頼自体はAAA級の頃からありはしたが、やはりS級と言うべきか実績は勿論の事、最難関と言われる試験の他に、身元の審査も厳しい事もあり、その肩書は信頼度が段違いなのだなと、舞い込む依頼の主の名に御上の文字を見つける度に感慨深くなったものだ。

 しかし、俺には何を置いてもやるべきことがあり、よほどのことがない限り指名を受けてもその殆どを断っていた。のだが、今回の指名依頼は近年国をまたいで問題になってるイレギュラータイプの飽和魔素解消現象の件と言う事で、依頼主は国家連盟……つまりはよほどの事であった。

 大口依頼の完遂を目指すギルドマスターからの『いい加減に働かねぇとS級資格ライセンスを剥奪するぞ!』と言う脅しに致し方なく、俺はマーナムから遠く離れた山岳地帯の遺跡ダンジョン<忘れられた都アルハト>に向かっている。

 ……まぁ、S級資格を私用に使って情報を得ている分は働かなくちゃだからな。



「で、な。その屋敷の魔女様がモノすげー美女で、人間でもアレならマジになるってな!」

「そうそう! 美人だし、バストも凄い国宝級で~! エドも好きだろ~楽しみにしとけ~」

 馬車に揺られながら下世話な話をしているのは、今回の遠征依頼に共に派遣されたS級ハンター達だ。

「ったく、アカデミーのお子様かよ」

 先程から声量がデカくなってゆく二人に、俺はため息混じりで返す。

「んだよ~エド~、お前だってたわわなバストちゃん好きだろ~?」

 くしゃくしゃの金髪をぼりぼりと掻きながら、間延び声で俺に話を振るのは、猫獣人の上位種である獅子族のレオンだ。
 こいつは昔マーナムを拠点にハンターをしていた為、その頃の俺の交友関係を知っているのだ。

「あーダメダメ、駄目ですよレオンさん。エドは本命に逃げられた傷がまだ癒えてなくて、そう言う話題NGですから。ちなみに昨日、エドが血相変えて飛び出して行ったのも、村にいるハンターのうちの一人がその本命かもって思ったからです」

 それまで静かに俺の隣のシートで本を読んでいた龍人の優男、コンラートが余計な情報を提供する。

「へあっ!? そうだったのか~?」

「ぶははははは! だっせぇ! お前その面とS級資格をもってして女に逃げられたってのか? 」

 レオンは目をまん丸にして俺の顔を覗き込み、その横で髭面の龍人バルファが豪快に俺を笑い飛ばした。

「いえ、それが女性ではなく……」

「はっ、まさか男~!? エドってばいつから宗旨替えしたんだ? 俺がまだマーナムに居た頃は完全に女専門だったよな?」

「しかも人間だそうですよ」

「黙れ、コンラート。あと馴れ馴れしく俺に寄りかかるな」

 レオンとバルファを相手に、テンポ良く合いの手を入れるコンラートの肩を俺は思いきり押し返す。
 確かに俺は指名依頼を受けない理由を明確にするため己の依頼辞退の理由を隠してはいないが、こうもいちいち揶揄われては流石に鬱陶しい。

「かぁぁ、人間がエルフを振ったてのか~!? あっりえね~、一体何がどうしちゃったの?」

「人間のエルフ信仰すげぇのに、逆にどんなコトをしたら振られるんだ森の賢者エドよ?」

「……うるせぇ」

 向かいのシートから、新しいおもちゃを見つけたようなキラキラした目で見て来る二人に俺はガンを飛ばすが、何やらひらめき顔になったレオンに嫌な予感がよぎ――

「あっ~!! もしかして、夜の具合? エドくんったら~、がんばり過ぎて本命の人間ちゃん壊しちゃったとか?」


 レオンの言葉に、俺は己のしでかした過ちが脳裏をよぎりビシリと固まる。


「おやおや~、図星、仕留めちゃった?」

「がはははは! 分かるぞエドよ。人間ってやつは体力ねぇし、すぐへばるよなぁ。俺も人間の職業女を抱き潰して店を出禁になった事があったわ!」

「もう! 二人ともやめてあげてください。ほら、エドが泣いちゃいますよ」

 俺をおちょくるレオンと、斜め上のフォローを入れるバルファにコンラートが止めに入る。

 だが、元はと言えばコンラートが余計な事をぬかすのが悪いのだ。
 付き合いはS級同士のよしみで数回顔を合わせた事がある程度だが、事ある毎に俺にねちっこいウザ絡みをしてくるのがこのコンラートと言う男で……。

 俺の本能が告げていた。
 絶対に、こいつは性根が歪んでいると。

「エド、元気を出してくださいね。たとえ夜が不得手でも、私は味方ですよ!」

 尚もぬけぬけと言い放ち、にこりと善人面を向ける優男に、俺の忍耐はとうとう臨界に達した。

「……お前が、一番、黙れ! コンラァァァトォォォ!!」

「わ~、珍しい! エドがキレた~」

 俺が声を荒げた途端、きゃーと、黄色い声を上げるアホのレオンと、何故か喜色満面のコンラートが何事か口を開こうとした時だ。


「もっ申し訳ありませんハンターさま方! あまり大きい声を出すのはご遠慮ください、小竜が怯えてしまいます」


「おっと、失礼」

 どうやら俺の大音量に小竜が怯えた様で、御者台の小窓から御者の控えめな苦情が入りコンラートが軽く詫びる。

「いえいえ滅相もございません。もうあと一時間ほどで魔女様のお館に到着しますゆえ、もう少々ご辛抱くださいませ」

 御者は恐縮でございますと言って、そっと小窓を占めた。

「っという訳で、しぃ~だよ、エド」

 こちらに向かって人差し指を立てるレオンに、俺が微笑みながら拳を鳴らすと、バルファが咳ばらいをして一同を己に注目させる。

「そーいや、俺たちが世話になる魔女様の屋敷に人間の見習いが二人いるんだが、男の方は中々見込みあったな。あれなら人間の長生き魔法? とらやも習得できるかもしれんな」

 急な話題の転換に、それ以上はやめろと言う意図をくみ取り俺は握り込んだ拳を開く。
 別に俺もレオンも本気でやりあう気はなかったが、あの恐縮しきりだった御者をこれ以上怯えさせるのは確かに良くない。

「あぁあの子ね、えーっとセス君! 前調査した時に屋敷から遺跡まで案内してくれた子! まだまだ子供なのに魔法の技術が高かったよね~。あっエド、その人間の男の子ね、顔も綺麗だったからエドの好みかもよ?」

「レオン、その気遣いやめろ」

 俺は懲りないレオンに毒気を抜かれ、肩を落としてため息を付く。

 バルファとレオンは先に現地入りをして事前調査を行い、遺跡ダンジョン<忘れられた都アルハト>の攻略に必要なメンバー、つまり俺とコンラートをそろえて戻って来たのだが、先の調査で拠点を提供してくれたのが、人里離れた山奥に館を構える魔女様と言う事だった。
 ちなみに、今回もその魔女様にしっかりお世話になる。

「しっかし、女の方は魔法は全然ダメそうだったな、何で魔女様はあんなのを弟子にしたんだか」

「イリアちゃんだね~! イリアちゃん魔法は残念だけど、お料理上手だし、めっちゃ可愛いし、見てると癒される俺のお気に入り~」

 話しが逸れてきた気配を察知して、俺はごそごそと外套のフードを被る。

「まぁ顔は上玉かもしれんが、魔女様に比べるとてんでお子様なんだよなぁ」

「でもでも~、おっぱいはまだ成長する可能性があるから~!」

「お二人共、それ絶対に現地で口にしないでくださいね! 私まで品性が疑われたくありませんので。ったく、エドもなんとか言って下さいよ」

 女性の胸の話に花を咲かせる二人にジト目でコンラートが訴えるが、俺はそ知らぬ顔で到着までひと眠りの姿勢に入る。

「興味ない。それよりお前は俺に寄りかかるな」

 俺は本日何度目かのため息を付きながら、再び寄りかかってきたコンラートを力いっぱい押しやった。

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