仙年恋慕

鴨セイロ

文字の大きさ
61 / 75
2章

61.手紙をしたためる

しおりを挟む
「うーん、うーん」

 朝のひと仕事を終え、S級ハンター達を調査へと送り出したお昼前のひと時。
 俺はエミリア師匠にあてがってもらっている自室の物書き机に向かっていた。

「うむ」

 心ゆくまで長考した俺は、胸の前で組んでいた腕を解き、真っ白な便箋にカリカリとペンを走らせる。


 ――拝啓、エドヴァルド様
 春分の候、貴殿におかれましては、益々ご隆昌のこととお慶び申し上げます。
 この度ご連絡しましたのは、貴殿が私にかけられました捜索願いの取り下げについてご相談いたしたく――


「んむー、これは何と言うかビジネスがライクしすぎか? もっとこうフレンド感のあるラフな感じの方が良いよな。うむ、書き直しだ!」

 ひとりごちりながら書きかけの便箋を机の端に寄せ、俺は新しい便箋を前に再度ペンを走らせる。


 ――親愛なるエドへ。
 やっほー! 元気してるか? 俺は色々変わりありつつも元気してるぞ!
 つーかエド、お前ってば俺に捜索願かけてるだろ! 最近その事実に気が付いてびっくりしたわ!
 まぁなんだ、こっちは元気でやってるから捜索願は取り下げてもらえると助かる。
 ちょっと色々あって、今はまだマーナムには帰れそうにないんだけど、俺の事は気にせず捜索願は取り下げてくれよな! (←ここ大切な事なので二回言いました)
 そう言えばお前、風の噂で全然マーナムにも帰ってない~とか何とか聞いたんだけど、仕事ばっかしてないで、たまには家に帰って家族サービスとかした方が良いと思――


「いやいやいや、待て待て待て。これじゃあ感嘆符が多過ぎだし、俺のキャラ不自然にぶれてる!」

 俺は走らせていたペンを再び止め、頭を抱えて机に突っ伏す。

 エドが他のS級ハンター達とこの屋敷に来て、すでに三日が経つ。
 初日はエミリア師匠の無茶ぶりにより、俺はフリフリのワンピースを着せられエドにお茶を振る舞うなどさせられた。
 ほとんど罰ゲームのような仕打ちではあったが、その際にモノのついでの様にエドの口から語られた言葉で、エドが行方をくらませた俺を探して、ろくにマーナムに帰っていないと聞かされた。奇しくも俺はエミリア師匠による、エドの素行調査の裏付けをエド本人からとる事となったのだった。
 その後すぐ、まさかと思いながらも念のためと、エミリア師匠にギルドへ問い合わせをしてもらえば、八年も前からエド名義でイオリの失踪人捜索願が出されていたのだ。

「マーナム出て二か月後には捜索願出されてたって事は……エドの奴、結婚してからほとんど家にも帰らないで俺を探してたって事だよな」

 おそらくエドは八年前のあの夜、俺を襲った件で負い目があるのだろう。
 しかしアレはエドの過失と言うよりは、エドに如何わしい薬を盛ったあのサティ―リアとかいう兎獣人が諸悪の根源だし、そのとばっちりで俺はエライ目にあった上に、自業自得もあるとはいえ女の子になっちゃったんだよな……。

「あー、改めて思い返したらむしゃくしゃして来た。今なら俺もか弱い女の子だしあの兎獣人めの頬っぺた引っ叩いてやりたい。往復ビンタで」

 俺はペンを置いた右手でシュッシュッと素振りをし、ありえないだろういつかに想いを馳せ兎獣人サティ―リアを叩き飛ばすイリアの姿のイメトレにしばし励む。
 とは言え、俺がマーナムを出て直ぐに携帯端末を壊すようなことが無ければ、少し旅をしてるだけだから心配するなとか何とかエドに伝えられていたので、現状の様なエドが家庭を犠牲にして俺を捜索すると言うこんな事態は避けられたはずだ。
 いや、端末が無くたってもっと早く手紙の一つでも書けばよかったのだ。俺の事は気にするなと。

「……でも、まさか探してくれてるなんて思わないじゃん」

 自分の新婚生活をめちゃくちゃにしてまで、俺を探し続けてくれていたエドには本当に申し訳ない事をしてしまったと思っている。

「……うん、申し訳ないはずなのになぁ」

 この心苦しさは紛れもなく本心なのだが、相反する様に俺の口角はムニムニと上がってしまう。

「エドがいまだに俺なんかを忘れてなかった……」

 エドに迷惑をかけといて何を言っているんだと自分でも思うが、八年前に自覚したエドへの片想いもまた俺の本心で、今だ胸の中でくすぶり続けている。
 つまり、エミリア師匠の『だってイリアちゃん、エド君の事が好きでしょう』は、恥ずかしながらまさしくその通りでございます。なのであった。

「しかし、これはあくまで俺の片想いで、初恋と言う強烈インパクトを拗らせているだけ」

 そもそもエドはもう既婚者なわけだし、拗らせてる分には俺の勝手だけど、妻帯者に好意を告げるなんて……エミリア師匠の言葉を借りるとこのエドを落とせだなんて、俺の常識ではありえない。
 まぁ俺が言い寄ったトコで、初日から一貫してイリアを未成年者扱いしているエドが靡く事はまずないだろうが……。

「靡く事はないだろうけど、あそこまで脈無しだとちょっと悔しいんだよなー」

 正直言って、今の女の子の姿の俺はなかなかに可愛いと思う。
 何と言っても俺、元々男だから女の子の容姿に対する男目線での美的感覚は的外れじゃないはずだし、エミリア師匠に散々叩き込まれた女性らしい振る舞いとかもちょっと自信があったのだ……が、やっぱ胸か、胸が足りないからなのか……。

 俺は改めて自分の胸部に手を当ててみるが、そこは相変わらず慎ましやかで、服の上からだとかろうじて柔らかさが分かるかな? 程度の主張しかない。
 むしろここ最近は、少し痩せでもしたのか更に控えめになっている気さえもする。

「と……まー、胸の話は置いておこう」

 胸部から手を離し、俺は書きかけの便箋をもう一度端に寄せて新しい便箋を置く。

「あいつはマーナムを飛び出して八年も経った今も、俺の事を心配して探していてくれた訳だ。それだけで充分」

 最後はちょっと微妙な別れ方になってしまったけど、少なくとも俺は、エドの友達としてちょっとは特別枠だったと自惚れるくらいは許されるだろう。
 そして、いまだに俺を探してくれていたエドに、友として今の俺が出来ることは……。

「そう言えば結局、エドは誰と結婚したんだろうな。まぁ、エドが選んだなら素敵な人なんだろうけどさ」

 俺は再びペンを持つ。
 チラリと部屋の隅の化粧台を見れば綺麗に磨かれた鏡に映る女の子イリアの姿。
 化粧を落としたその顔は、血の気が無く紙のように白い。

「ったく。いつになったら戻れるんだろうな、俺は」

 そもそも、この体がいつまでもつのかも分からない。八年前に受けた呪いは今も尚、俺の体を蝕んでいるのだから。
 あの日、エミリア師匠に拾ってもらえなかったら、とっくにこの命は尽きていた事だろう。つまり、こうして手紙を書く事も叶わない今もあったかもしれないのだ。

「うっし! 文面は気を付けないとだな、余計な事は書かず簡素に」

 俺がマーナムを飛び出した原因となった、あの雨の夜の話はあえて飛ばそう。エドが気にしてると可哀想だからな。その代りに連絡をしなかった件は謝罪せず、簡素な挨拶と共に俺は元気でやってるから探してくれるなと書くいた。
 エドならこれで、俺が捜索願も不要だから取り下げろと言っていると分かるだろう。
 次にマーナムでハンターになった俺を色々と気にかけてくれた事への感謝と、ちょっとした思い出話。最後にしばらく考えてから、エドの幸せを願っていると書き添え手紙を締めくくり、久方ぶりに本名であるイオリ・ヒューガの名でサインをした。

 このアルハト跡地の片田舎から送る手紙は、かつての宗主国であるエルドラド王国の管轄下として一括りにまとめられるので、細かい出何処はそうそう割れないだろう。
 この手紙が届いたらエドは安心してくれるだろうか、そして家に帰って奥さんと幸せに暮らすのだろか……。
 そんな事を考えながら、俺は少しぼやけた視界で便箋を封筒に入れて丁寧に封をした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...