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2章
69.答え合わせと反省会と sideエドヴァルド
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コンラートの件をバルファへ報告するため、俺はバルファが主に居座っているリビングへと向かっていた。
にしてもだ、全くどうして気が付かなかったのか、少しもピンと来なかったのかと、自分自身に対して疑問しか湧かない。
先程、治療にかこつけて確認したイリアの右の足首には小さな三つの黒子が並んでいた。それは以前、イオと共に風呂に入った際にイオの足首に見つけたモノと同じで……過去の俺は、その小さな三つを星座みたいだなと思ったのだ。
「間違いない、あのイリアと言う少女は、イオだ。イオリ・ヒューガだ」
言葉にすれば、興奮でぶわりと毛が逆立つ。
八年間、生死も分からぬまま探してきた相手をやっと見つけたのだ。溢れそうな歓喜に叫び出したい気持ちを、俺は拳を握って押さえ込んだ。
「落ち着け、落ち着け俺、ここで急いて、事を仕損ずる訳にはいかないからな」
喜ぶのはまだ早い。俺がイオを傷つけたあの愚かなしでかしは、何も解決していないのだから。
「ふぅ」
俺は足を止めて、深呼吸をする。
それにしたって、あの柔らかな癖のある栗毛に、朝露に濡れた若葉のような優しい色合いの瞳。
似ているどころか、それがまったく同じ色合いだったのだ。たとえ性別が違うとしても、もう少し観察すればあの分かりやすさだ、もっと早くに何かしら気が付つけただろうに。
「……あー、違う。あまりに同じで、 逆に無意識に目を逸らしてしまっていたんだ。イリアを見ているとイオを思い出して厄介だとか何とかって俺は!」
バチンと額に手を当て、思わず天を仰ぐ。
必ず見つける。そう想う気持ちに偽りはなかった。どんな些細な手掛かりだって見落とさないと思っていたはずだった。
しかし、この八年間で幾度となくあったイオではないかと言う人物の情報を得る度に足を運んでは、ぬか喜びと落胆を繰り返して来た精神は目の前の情報もろくに精査出来ぬほど疲弊していた様だ。
俺は自分で思っている以上に、弱っていたのかも知れないな……。
「なりふり構わず探し回って、それで本物を見逃してたんじゃあ、あまりにも愚かが過ぎるだろうが」
カタンと窓を揺らす風の音に振り向けば、廊下の窓ガラスに映る情けない顔が目に入った。
表情はともあれ、窓に映ったその顔色がこの屋敷に来た日より目に見えて良くなっている事に、今更ながら俺は気がつく。年単位で居座り続けていた目の下の隈は消え、くすんでガサついていた肌は以前の張りを取り戻しつつあった。
「……これは間違いなく、ここ数日間の質の良い食事と、バルファにとらされた十分な睡眠の結果だよな」
そんな些事に気がつけば、思考はますますクリアになる。
「はぁ……。いつからか分からんが、かなり頭の回転が鈍っていたんだな俺は」
食事など死なない程度に腹を満たせば何でも良いと、感慨もなく詰め込んでいたが、この屋敷で出された食事の数々が、自分が好んでいたメニューばかりだったと言う事に、ここに来てやっと気がつくとは。
「それに、あのお茶だって」
あの月夜にイリアが淹れてくれたお茶や持たせてくれたボトルの中身、砂糖を入れなくとも、ほんのりと甘く飲みやすいそれには馴染みがあった。
「アレは、アンラが持ち歩いてる水筒に入ってるモノと同じだったじゃないか」
イオが消えてから、時間を見つけてはイオの代わりに面倒を見ていた人間のハンター三人組。そのうちの一人、アンラがイオに茶葉の配合と淹れ方を教えてもらったと言って水筒に入れていたお茶、今思い返せばあの夜に出されたモノは殆ど同じ味だったのだ。
「俺にだけドライフルーツの入ったレーションを持たせたのだって、完全に意図してだろ。……にしても、アイツ何で俺の好きなモンそんなに詳しいんだ? 確かに果実や甘味はちょいちょい食っていたが、好物だなんてイオにもメイリンにもマイロにも言った覚えないぞ? そんな露骨だったのか俺?」
今になって、イオが俺の嗜好を当然の如く知り尽くしていた事実を知り、その面映さに思わず耳が下がる。
しかし、どうせ甘党で果実類が好きだとバレているのならもっと堂々と甘味をオーダーしていれば良かったな、その方が潔かった気がする。そうだよ、俺はイオには些細な事だって格好つけたかったんだよ。
とまぁ、色々と思う所もあるが、冷静になってみればいくつもヒントはあったのだ。なのに俺の脳みそは、その一つ一つをちっとも結びつけられなかった。我ながら阿呆としか言いようがない。
「でもまさか、性別が変わっているとは思わなかっ……ん、って待てよ。と言う事は、あのどーせ忘れられちゃってるって友達って俺のことか!?」
『友達……は一応いたけど、多分、私の事なんか忘れちゃったと思うし』
頭の中であの晩の会話が思い出されて、俺は手で口を覆った。
「無い、俺がお前を忘れる訳ないだろーが!」
いや、まだその『友達』と言うのが、アイツをあんな目に合わせた俺のことでは無いかもしれない。もしかしなくとも、メイリンや、アンラ達の事かもしれない。だが、だけど!
「この俺を前にしてわざわざ言ったんだ、少しくらい期待してしまっても仕方ないじゃ無いか……」
俺はヘナヘナとその場にしゃがみ込む。
大の男がみっともない事この上ないが、膝から力が抜けてしまったのだ。こんな姿、情けなくて誰もにも見せられやしない。
「……だが、イオは俺に正体を教える気がない」
食堂で最初に対面した時は、俺が動揺していたせいで、イリアの反応がぎこちなかったのかと思っていたが、アレはいきなり俺が目の前に現れて、普通に動揺していたのだと今なら理解できる。
つまり、イオは記憶喪失という訳でも無く、意図して俺に正体を隠しているのだ。
この屋敷に俺が来てからのイオの行動を見るに、食事などへの配慮から友人として俺の事を気遣ってくれているのは確かだとは思う。しかし、俺にその正体を明かす気は無いらしく常に女の子として振る舞い、接触だって必要最低限の会話しかなかった。
俺が知るイオの性格ならば、迷惑や心配をかけたくないと正体を隠すかもしれないが、イオにとって俺は頼っても良いそこそこ気安い関係だったはずだし、やらかした俺に対しても、先の治療時の反応を見た感じでは拒絶している雰囲気は……無かった。と、思いたい。
で、あれば魔導関係でのトラブルで、ひとまず俺に相談しない手は無いはずなのに。
「もしかして俺に話したくないとか、遠慮をする理由があるって事か?」
俺はそこまで考えたが、一度思考を切り替えた。今はそれよりもいの一番に解決すべき問題がある。
「兎にも角にも、あの呪いを解かねばならない」
イオのあの姿は、呪いによるものだ。おそらくイオにかけられた呪いは、姿が異性に……性別が反転する方がメインで、エミリアが話した呪いによる弱体化で回復魔法を受け付けないと言うのは、その二次作用だろう。
裏庭で氣を使うイリアに対して、彼女こそがイオだと思い至った瞬間、同時に性別の違いについては呪いによるものだろう事は検討がついていた。
この世には、変身変化の魔法の類が無きにしも非ずだが、髪色を変える程度ならともかく、性別を変える程の高位魔法は魔導魔術の技術以外にも素質が必要であり、誰にでも再現出来るモノではない。故に魔法が苦手なイオが変身魔法を使った可能性は極めて低い。
そして先程の治療時に、回復魔法と並行して出した大量の魔導陣。実は、その大半はフェイクでイオが魔導陣に目を奪われている隙に、俺は女の子になってしまったイオの身体構成の情報の回収をしていた。
次に、以前治療の際に回収していたイオの魔力回路情報と、回収したばかりのイリアの魔力回路情報の照らし合わせを行った。二つは、一見別人の魔力回路だ。しかしイリアのそれを反転させれば、寸分違わずイオの回路と重なった。俺はもう驚きはしなかった。
あとは手持ちの解呪の魔導陣をいくつか展開させてみたが、どれも呪いの型が合わず簡単に解呪は出来そうになかった。確かに俺は呪術は専門外ではあるが、近代から最新の解呪の魔導陣は一応揃えている。つまり、イオにかけられた呪いは俺の守備範囲外、中世や古代の呪いか何かだと言う所までは絞れたのだ。
結果的に勝手に身体の情報を盗み見ることになったが、謝罪は後でいくらでもしよう。
今はなによりイオの命が最優先だ。エミリアの尽力によって呪いの進行はかなり抑え込まれてるが、いつまた今回の様に魔力の供給源である龍脈が乱れるか分からない。現にこの地に龍脈が現れたのはつい十数年前の話で、過去に俺がアルハト戦争に派遣された時にはこの地に龍脈なんぞ無かったのだから。
「次に龍脈が乱れればイオは死ぬかもしれない。急ぎ王都へ向かい、禁書棚を閲覧許可を取る」
今やるべきことを結論付け俺は歩き出す。まずはバルファにコンラートの件を報告し――
ふにゅ
「ん?」
強く握りしめた左手に柔らかい感触があった。
そう言えば何かずっと握っていたなと、ペロッと手の中の布切れを両手で開くと同時に子供の声が響く。
「あー! それ、イリアの靴下だろ!」
廊下の突き当りから飛び出て来た子供、セスが指さす俺の手の中にあるモノは、確かに先ほど女の子の姿をしたイオから剥いだ花の刺繍が入った三つ折り靴下だった。どうやら俺は靴下を握ったまま部屋を出て来てしまったようだ。
「……返しに行く」
至極……冷静を装い回れ右をした俺に、セスは駆け寄って来てギュッと腕を引く。
「って、そんな事より! エルフの兄ちゃんどうしよう! イリアが屋敷を飛び出しちゃった!」
酷く慌てたセスの言葉が脳内でこだまする。言葉の意味は理解できるが、意味が分からない。
イオが、屋敷を? あの弱体化した姿で? 屋敷の敷地外じゃ回復魔法で治療も出来ないのに? こんな日暮れ時に? この辺、街道しかないのに? あの可愛いなりで??? 飛び出しーー
「はぁぁぁ!? 何やってだアイツ!! 危機管理能力まで呪われてんのか!!??」
にしてもだ、全くどうして気が付かなかったのか、少しもピンと来なかったのかと、自分自身に対して疑問しか湧かない。
先程、治療にかこつけて確認したイリアの右の足首には小さな三つの黒子が並んでいた。それは以前、イオと共に風呂に入った際にイオの足首に見つけたモノと同じで……過去の俺は、その小さな三つを星座みたいだなと思ったのだ。
「間違いない、あのイリアと言う少女は、イオだ。イオリ・ヒューガだ」
言葉にすれば、興奮でぶわりと毛が逆立つ。
八年間、生死も分からぬまま探してきた相手をやっと見つけたのだ。溢れそうな歓喜に叫び出したい気持ちを、俺は拳を握って押さえ込んだ。
「落ち着け、落ち着け俺、ここで急いて、事を仕損ずる訳にはいかないからな」
喜ぶのはまだ早い。俺がイオを傷つけたあの愚かなしでかしは、何も解決していないのだから。
「ふぅ」
俺は足を止めて、深呼吸をする。
それにしたって、あの柔らかな癖のある栗毛に、朝露に濡れた若葉のような優しい色合いの瞳。
似ているどころか、それがまったく同じ色合いだったのだ。たとえ性別が違うとしても、もう少し観察すればあの分かりやすさだ、もっと早くに何かしら気が付つけただろうに。
「……あー、違う。あまりに同じで、 逆に無意識に目を逸らしてしまっていたんだ。イリアを見ているとイオを思い出して厄介だとか何とかって俺は!」
バチンと額に手を当て、思わず天を仰ぐ。
必ず見つける。そう想う気持ちに偽りはなかった。どんな些細な手掛かりだって見落とさないと思っていたはずだった。
しかし、この八年間で幾度となくあったイオではないかと言う人物の情報を得る度に足を運んでは、ぬか喜びと落胆を繰り返して来た精神は目の前の情報もろくに精査出来ぬほど疲弊していた様だ。
俺は自分で思っている以上に、弱っていたのかも知れないな……。
「なりふり構わず探し回って、それで本物を見逃してたんじゃあ、あまりにも愚かが過ぎるだろうが」
カタンと窓を揺らす風の音に振り向けば、廊下の窓ガラスに映る情けない顔が目に入った。
表情はともあれ、窓に映ったその顔色がこの屋敷に来た日より目に見えて良くなっている事に、今更ながら俺は気がつく。年単位で居座り続けていた目の下の隈は消え、くすんでガサついていた肌は以前の張りを取り戻しつつあった。
「……これは間違いなく、ここ数日間の質の良い食事と、バルファにとらされた十分な睡眠の結果だよな」
そんな些事に気がつけば、思考はますますクリアになる。
「はぁ……。いつからか分からんが、かなり頭の回転が鈍っていたんだな俺は」
食事など死なない程度に腹を満たせば何でも良いと、感慨もなく詰め込んでいたが、この屋敷で出された食事の数々が、自分が好んでいたメニューばかりだったと言う事に、ここに来てやっと気がつくとは。
「それに、あのお茶だって」
あの月夜にイリアが淹れてくれたお茶や持たせてくれたボトルの中身、砂糖を入れなくとも、ほんのりと甘く飲みやすいそれには馴染みがあった。
「アレは、アンラが持ち歩いてる水筒に入ってるモノと同じだったじゃないか」
イオが消えてから、時間を見つけてはイオの代わりに面倒を見ていた人間のハンター三人組。そのうちの一人、アンラがイオに茶葉の配合と淹れ方を教えてもらったと言って水筒に入れていたお茶、今思い返せばあの夜に出されたモノは殆ど同じ味だったのだ。
「俺にだけドライフルーツの入ったレーションを持たせたのだって、完全に意図してだろ。……にしても、アイツ何で俺の好きなモンそんなに詳しいんだ? 確かに果実や甘味はちょいちょい食っていたが、好物だなんてイオにもメイリンにもマイロにも言った覚えないぞ? そんな露骨だったのか俺?」
今になって、イオが俺の嗜好を当然の如く知り尽くしていた事実を知り、その面映さに思わず耳が下がる。
しかし、どうせ甘党で果実類が好きだとバレているのならもっと堂々と甘味をオーダーしていれば良かったな、その方が潔かった気がする。そうだよ、俺はイオには些細な事だって格好つけたかったんだよ。
とまぁ、色々と思う所もあるが、冷静になってみればいくつもヒントはあったのだ。なのに俺の脳みそは、その一つ一つをちっとも結びつけられなかった。我ながら阿呆としか言いようがない。
「でもまさか、性別が変わっているとは思わなかっ……ん、って待てよ。と言う事は、あのどーせ忘れられちゃってるって友達って俺のことか!?」
『友達……は一応いたけど、多分、私の事なんか忘れちゃったと思うし』
頭の中であの晩の会話が思い出されて、俺は手で口を覆った。
「無い、俺がお前を忘れる訳ないだろーが!」
いや、まだその『友達』と言うのが、アイツをあんな目に合わせた俺のことでは無いかもしれない。もしかしなくとも、メイリンや、アンラ達の事かもしれない。だが、だけど!
「この俺を前にしてわざわざ言ったんだ、少しくらい期待してしまっても仕方ないじゃ無いか……」
俺はヘナヘナとその場にしゃがみ込む。
大の男がみっともない事この上ないが、膝から力が抜けてしまったのだ。こんな姿、情けなくて誰もにも見せられやしない。
「……だが、イオは俺に正体を教える気がない」
食堂で最初に対面した時は、俺が動揺していたせいで、イリアの反応がぎこちなかったのかと思っていたが、アレはいきなり俺が目の前に現れて、普通に動揺していたのだと今なら理解できる。
つまり、イオは記憶喪失という訳でも無く、意図して俺に正体を隠しているのだ。
この屋敷に俺が来てからのイオの行動を見るに、食事などへの配慮から友人として俺の事を気遣ってくれているのは確かだとは思う。しかし、俺にその正体を明かす気は無いらしく常に女の子として振る舞い、接触だって必要最低限の会話しかなかった。
俺が知るイオの性格ならば、迷惑や心配をかけたくないと正体を隠すかもしれないが、イオにとって俺は頼っても良いそこそこ気安い関係だったはずだし、やらかした俺に対しても、先の治療時の反応を見た感じでは拒絶している雰囲気は……無かった。と、思いたい。
で、あれば魔導関係でのトラブルで、ひとまず俺に相談しない手は無いはずなのに。
「もしかして俺に話したくないとか、遠慮をする理由があるって事か?」
俺はそこまで考えたが、一度思考を切り替えた。今はそれよりもいの一番に解決すべき問題がある。
「兎にも角にも、あの呪いを解かねばならない」
イオのあの姿は、呪いによるものだ。おそらくイオにかけられた呪いは、姿が異性に……性別が反転する方がメインで、エミリアが話した呪いによる弱体化で回復魔法を受け付けないと言うのは、その二次作用だろう。
裏庭で氣を使うイリアに対して、彼女こそがイオだと思い至った瞬間、同時に性別の違いについては呪いによるものだろう事は検討がついていた。
この世には、変身変化の魔法の類が無きにしも非ずだが、髪色を変える程度ならともかく、性別を変える程の高位魔法は魔導魔術の技術以外にも素質が必要であり、誰にでも再現出来るモノではない。故に魔法が苦手なイオが変身魔法を使った可能性は極めて低い。
そして先程の治療時に、回復魔法と並行して出した大量の魔導陣。実は、その大半はフェイクでイオが魔導陣に目を奪われている隙に、俺は女の子になってしまったイオの身体構成の情報の回収をしていた。
次に、以前治療の際に回収していたイオの魔力回路情報と、回収したばかりのイリアの魔力回路情報の照らし合わせを行った。二つは、一見別人の魔力回路だ。しかしイリアのそれを反転させれば、寸分違わずイオの回路と重なった。俺はもう驚きはしなかった。
あとは手持ちの解呪の魔導陣をいくつか展開させてみたが、どれも呪いの型が合わず簡単に解呪は出来そうになかった。確かに俺は呪術は専門外ではあるが、近代から最新の解呪の魔導陣は一応揃えている。つまり、イオにかけられた呪いは俺の守備範囲外、中世や古代の呪いか何かだと言う所までは絞れたのだ。
結果的に勝手に身体の情報を盗み見ることになったが、謝罪は後でいくらでもしよう。
今はなによりイオの命が最優先だ。エミリアの尽力によって呪いの進行はかなり抑え込まれてるが、いつまた今回の様に魔力の供給源である龍脈が乱れるか分からない。現にこの地に龍脈が現れたのはつい十数年前の話で、過去に俺がアルハト戦争に派遣された時にはこの地に龍脈なんぞ無かったのだから。
「次に龍脈が乱れればイオは死ぬかもしれない。急ぎ王都へ向かい、禁書棚を閲覧許可を取る」
今やるべきことを結論付け俺は歩き出す。まずはバルファにコンラートの件を報告し――
ふにゅ
「ん?」
強く握りしめた左手に柔らかい感触があった。
そう言えば何かずっと握っていたなと、ペロッと手の中の布切れを両手で開くと同時に子供の声が響く。
「あー! それ、イリアの靴下だろ!」
廊下の突き当りから飛び出て来た子供、セスが指さす俺の手の中にあるモノは、確かに先ほど女の子の姿をしたイオから剥いだ花の刺繍が入った三つ折り靴下だった。どうやら俺は靴下を握ったまま部屋を出て来てしまったようだ。
「……返しに行く」
至極……冷静を装い回れ右をした俺に、セスは駆け寄って来てギュッと腕を引く。
「って、そんな事より! エルフの兄ちゃんどうしよう! イリアが屋敷を飛び出しちゃった!」
酷く慌てたセスの言葉が脳内でこだまする。言葉の意味は理解できるが、意味が分からない。
イオが、屋敷を? あの弱体化した姿で? 屋敷の敷地外じゃ回復魔法で治療も出来ないのに? こんな日暮れ時に? この辺、街道しかないのに? あの可愛いなりで??? 飛び出しーー
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