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2章
73.反省と感謝を
しおりを挟む「軽率過ぎる」
「……はい」
「魔力切れで倒れたら半日も持たないと、エミリアに散々と言われていたらしいな」
「……はい」
「仮に、森の中で人知れず倒れていたら……どうなっていたか分かるよな?」
「……はい」
ベッドサイドの椅子に座ったエドは腕を組み、ジト目でこちらを見つめていた。
その痛いくらいの視線から逃げるように、ベッドの上の俺は背中を丸め、しょんぼりと返事をする。
いやね、俺だってカバンを回収して帰るだけなら魔力を使い果たす事は無かったんだよ。ただ目の前の光景にかなりテンパって後先考えられなくなったんだよなぁ。
って言うか、俺がしゃしゃり出なくても、エドだけで対応出来たみたいなんだけどね、なんか俺が気がつく前に一発、既にあの銃みたいなやつで撃たれてたらしいよ。で、難なく弾を叩き落としたんだってさ。うんうん、お前ならそれくらい朝飯前ですよねー。
下げた顔からチラリとエドの様子を伺えば、窓から入る木漏れ日が、エドのアッシュブロンドの毛先をふわりと光らせていて、場違いにも綺麗だなぁと見惚れてしまう。
「魔力を使い切るなんて、一歩間違えれば命を落としていたんだぞ。本当に分かってるのか? イオ」
「そ、それはもう! 反省しております! です! ……へへ」
名を呼ばれて思わずヘラリと笑ってしまった俺に、エドは片手で額を抑え、それはそれは大きな溜息を吐き出した。
森で気を失った俺が、次に目覚めたのは三日後の自室のベッドの上だった。
不審なローブの男からエドに向けられた殺意に、俺は咄嗟に全力で体内の魔力を氣に変換し打神鞭を振るった。
その結果、魔力が生命維持分もすっからかんとなって俺はその場に倒れてしまった——のだが、直ぐにエドがローブの男を追うことをやめ、倒れた俺に駆けつけ魔力を注いでくれたおかげで、俺は今もこうしてピンピンしていると言う訳だ。
まぁね。俺だって危なかったなーと思うけど、喉元過ぎれば何とやら、それよりも今はエドとこうして話しているだけで気を抜くと頬が緩んでしまう。
あーんな探さないで下さい的な手紙まで書いたってのに、自分でも驚くほど浮かれてニコニコヘラヘラしてしまい先ほどからエドにやや引かれている。
人を好きになると気持ちがコントロール出来ないとか、ちょっとお馬鹿になるって聞いたことあるけど、今なら実感をともなって分かるって言うか……。
いやしかし、本当の自分の名を呼ばれただけで、こんなに嬉しくなっちゃうなんて我ながらチョロ過ぎ感が凄いです。
「俺の目には、反省の色がまったく見えないのだが?」
エドの疑りの眼差しを、俺は緩んだ頬で受け流しながら考える。
いやー、エドの事を好きだって実感する前から顔が良いなーとは思ってたけど、こうして改めて見ると、エドってこっちがちょっと照れ臭くなるくらいカッコいいよなぁ。好みとか気にした事無かったけど、俺って好きになった人が好みのタイプって感じなのかも? これが惚れた欲目ってやつ?
「イオよ、人の顔を見て妙な事を考えるのはやめろ」
ふんふんと目の前の御尊顔を右から左へと観察したり、下から上へと見惚れてた俺に、エドが不信感溢れる声を出す。
うん、そのジトっと低く出される声も良きかな。
「妙なことじゃ無いです。ちょっと再確認してただけで……あ。それよりも! エドはいつから俺が俺だって気がついてたんだ? 自分で言うのもアレだけど、そこそこ上手く女の子してたと思うんだけど」
そう。当然の如く俺はエドから本名で呼ばれているのだが、どうやらエドは俺の正体に気が付いていた様で、目覚めた瞬間に『おはよう、イオリ・ヒューガ(とても良い笑顔)不調は無いか?』って、やられたからね。起き抜けに心臓に悪いったらない……まぁつまり、俺が危険をおかしてまでカバンを回収したところで、既にその意味はなかったという訳だ。
バレちゃったのならもう仕方ないと、俺は自分がイオリ・ヒューガであるとあっさり認めた。
だってさ、ベッドサイドのテーブルにこれ見よがしに俺の打神鞭やカバンが置いてある以上、しらばっくれる事は不可能だったからな。往生際悪く醜態をさらす隙も無かっただけとも言えるが。
しかし、一体どのタイミングでエドに俺の正体がバレたのかと俺は首を傾げる。
「ん~~~っとに、お前はまだそんなのん気な事を言うてからに! 事の重大さを本当に分かってるのか!?」
俺の頭にエドの粛清チョップが小言とともに打ち込まれるが、振りの大きさに対してそれはひどく優しい。
「分かってる! ごめんって! でもホントいつ気が付いたの? もしかして俺が女の子してるの分かってて観察とかしてたり? えー、やだーエドヴァルドさんの助兵衛!」
「いまさら女子ぶるな! てか、スケベエ?って誰だよ! ったく……オレンジだよ。スカートで木登りするお転婆が裏庭でオレンジを熟させてるのを見た。あと、治療してる時に回収した身体構成の情報や、足首の三つ並んだ黒子でお前だって確信した」
かわいい子ぶって口元に軽く握った手を添える俺に、エドは律儀にこれまた手加減した裏拳で突っ込みつつも俺の疑問に答えてくれた。
「あー、オレンジの見てたのかぁ。で、確認の為に靴下脱がせたと。にしても、俺の足首の黒子なんてよく覚えてたな自分でも言われればあったかも? って感じなのに、流石エドと言うか何と言うか」
素直に感心する俺に、エドは眉間にギュッとシワを寄せ怒ったような困ったような何だか不思議な顔をした後、ガックリと肩を落とし、ついでに先程よりデッカい溜息も吐いてから、のそりと口を開いた。
「お前ホント、全然緊張感がない。大体、俺を庇おうとして生命維持に必要な魔力まで使うなんて……」
「あ、いや、それはあのローブの奴の変な武器にビックリして無我夢中でと言うやつでして」
「こんなに近くに俺がいて、もしも、お前を死なせていたらと考えるだけで俺は……俺は、生きた心地がしないってのに」
エドらしくないボソボソとした歯切れの悪い喋り方と、前髪をくしゃっと掻き上げたその手で目元を覆う姿に、俺の頭はようやっと思い至る。
そっか。俺は自分の事だから、自身の選択した行動で己がどうなろうとそれは自己責任だ致し方ないで割り切れる。と言うか、割り切るしかない。
けど、俺とエドの立場が逆で、もしもエドが危ないことしたら心配するし、それなのに当人がヘラヘラしてたら……いや、まぁエドがそんな振る舞いをするとは思えないど。
てか、そう考えると俺の今の振る舞いホントダメじゃん。
本当にアホほど考えなしな行動をとってしまったけど、俺だって別に死にたいわけでは無かった。
落ち着いた今は、俺の遺留品を見つけたエドが俺は死んだものする。と結論を出してしまったら寂しくて悲しくて毎日泣くだろうなと思っているので、正体バレて結果オーライでしたね! と言う結論に至っている。
今回の件でどうやら俺は、エドに自分が死んだと思われるのは凄く嫌なようだ。と、言う気付きを得てしまったんだよなぁ。これ、どう言う感情なんだろう。
「あ、あの、エド。あのな、心配かけてごめん。助けてくれた事、本当に感謝してる……ます」
己の幼稚な振る舞いに恥じ入りながら、俺がエドに負けず劣らずの歯切れの悪さで、心から反省と感謝を口にすれば、エドの眉間からゆっくりとシワが薄れて目元が和らぐ。
「感謝ならセスに言えよ、お前が屋敷を出た時にいの一番に俺に知らせてくれたんだからな。あと、エミリアもとても心配していた」
呆れを滲ませながら、けれども優しく笑みを浮かべるエドに、こんな時にも現金な心臓はギュッと高鳴る。
「わ、分かってる。ます。」
照れを隠す様にぎこちなく頷く俺の頭を、エドの大きな手がくしゃりと撫でた。
こうして俺とエドは、感動とは程遠いが実に俺たちらしい、まぁ、ちょっぴりのすったもんだはあったものの、八年ぶりの再会を果たしたのだった。
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