夢から覚める時間です

くろいぴあすのひと。

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記憶編

夢に堕ちた

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私は山本李奈ヤマモトリナ

とある高校に通う女子高生・・・だった。

私は同じ天井しか見ていない。

あの日から・・・

車に轢かれたあの日から、私は記憶と自由を奪われたのだ。

覚えているのは自分の周りの情報と一般常識。

別に足がないわけじゃない。

体がひたすらに重いのだ。

動きたくない。動く必要もない。だから私は同じ天井しか見れない。

・・・それはわかっているのだけれど。

「山本さーん、お見舞いの方が来ましたよー」

・・・また親だろうか。出来が悪い、早く歩け、とまた言われるのだろうか。

ガラ・・・と音を立てて扉が開く。

「・・・おはよう。李奈。」

そこにいたのは親ではなかった。

水色の髪の和服を着てピアスと口元に布をつけた、

・・・私と同じくらいの少女だった。

「・・・誰?」

首をその少女に向けて傾ける。

その少女は淡々と続ける。

「・・・私は、荻堂燐オギドウリン

 あなたの失われた過去の記憶を知っていて、あなたの味方。」

失われた過去の記憶、

その言葉だけで心臓が跳ねたのがわかる。

そういうと少女・・・荻堂燐は私の目を覗きこんでこう言った。

「あぁ・・・李奈。随分と濁った眼をしてしまっている・・・

 私が・・・助け出してあげるからね・・・」

荻堂燐は・・・

友人を懐かしむような声でそう言ったのだった。

「・・・私はもう行くよ。

 ・・・また、会う時まで・・・」

そう言って荻堂燐はドアを閉めると、音もなく帰っていった。

「・・・なんだったんだ・・・」

そう呟くと、また看護士が

「山本さーん、ご両親ですよー」

・・・次は両親だったか。

また口うるさく言われるのだろうか

と、思いながら扉を背にして寝直す。

またもやガラ・・・と音を立てた扉。

「李奈!また寝ているのか!」

「早く歩きなさい!お医者さんだって歩けるって言ってるのよ!」

ああ、うるさい・・・

すごく騒々しい・・・!

「うるさいなあ!」

気付くと私はいつもは起き上がらなかった固いベッドから起き上がっていた。

「李奈・・・」

「あなた・・・起き上がっているじゃない!」

その時、両親はすごく喜んでいた気がする。

私も嬉しかったし、なにより起き上がれた充実感があった。

体のだるさはもうなかった。

これなら、荻堂燐など言う少女に教わらなくても記憶を取り戻せるだろう。

・・・この時は本気でそう思っていた。



そしてこれを見ていたのは、

彼女の敵か味方かーーー

それともーーー?

彼女が最後目にするものはーーー?

夢に堕ちた、彼女の話。
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