戦国自衛隊 小田原の戦い

サキモリ

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第1話 時を超える

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夕焼け色に染まった空の下。鮮やかな色合いに不似合いな硝煙が辺りに存在する家屋から立ち昇り、風に流されては辺りに焦げ臭さを漂わせている。煙が立ち昇っている場所は何も数箇所というわけではなく、現在その状況にある家屋が増加しているようだ。ひとつの町、全体が何かしらの干渉を受けて事案が発生してると見て取れる、まさにそのような様相であった。
 
「.....。」
 
迷彩服姿の男達が、等間隔に隊列を組んで周囲を警戒しながら市街地方向へ進む。彼らは、陸上自衛隊東部方面隊東部方面混成団隷下の部隊、第48普通科連隊の隊員達だ。武器を携え、その顔は緊張に汗がにじみ、命のやり取りをしている時のその形を成しているようだ。列の最前列からそう遠くない位置を歩く1人の青年自衛官、佐々木良太は、ローレディの状態を維持したまま小銃をいつでも敵に指向出来るようにと心に言い聞かせる。
 
「....!」
 
いよいよ市街地に入る頃、列の先頭を行く中隊長と思われる男が、ハンドシグナル(手信号)でもって後方の隊員たちに停止指示を出す。停止と同時に付近の建物等の陰に身を潜め、散開し警戒に当たる。中隊長の傍についていた小隊長ともう1人、無線機を背負った青年。吉田啓介は、周囲を見渡しながら、ひときわ汗をかき恐怖を感じているように見えた。
 
「全小隊に通達しろ。町に潜伏中の工作員を駆逐し、民間人の保護を実施せよ。」
 
「りょ、了解...!」
 
町からは怒号や悲鳴が響き、それに銃声、爆発音までもが木霊している。ただならぬ状況である。民間人が襲われている。先程から立ち昇っていた硝煙の原因は、工作員による略奪行為によるものだった。命令を受けた啓介もただ事ではないと認識したようだ。焦りが見え始めた彼の後ろから、1人の男が様子を伺っていた。小出高志、中隊の火器陸曹である。
 
「(えらく緊張しているな....。無理もない、こいつも含めた、俺たち初の実戦だからな....。)」
 
手の震えを必死に抑えながらも、ほかの小隊へ無線連絡を試みる啓介。そう、啓介自身も怖いだろうが、この戦いが48連隊、いや陸上自衛隊初の実戦なのだから。
 
「10(ヒトマル)より全小隊、工作員を排除し、民間人を救出せよ。」
 
「いくぞ!続け!」
 
 
中隊長を先頭に市街地へと突入していく隊員達。辺りに漂う血と火薬の香り、そして聞こえてくる日本語とは違う言語。間違いなく工作員の攻撃がこの市街地に及んでいることは明白であった。鼻につく臭いを他所に半長靴の靴音を響かせて颯爽と駆けていく。良太は駆けている途中、家屋から飛び出してきた小銃を携行している男に目を向けた。明らかに装備が異なり、更には私服を着て武装をしている。工作員に違いない、そう思った彼は89式小銃を男に指向。射撃を開始した。
 
「!」
 
こちらの射撃に反応した男も、走りながら持っていた自動小銃、AK47で見出しをせずに撃ちまくってきた。切り替え軸部(セレクター)を操作して、「タ」まで持っていく。
 
「ふー.......っ。」
 
確実に頬付けと肩付けをしてから呼吸を整え、照星照門上(アイアンサイト)に敵を捉えてから、射撃を開始した。彼が伊の1番に引き金を引いた隊員だった。敵工作員が放つ弾丸は良太に当たることはなく、地面や家屋の壁面に着弾し跳弾した際の甲高い音を鳴らす。タンッ!タンッ!と良太の正確な射撃を受け、疾走していた工作員の男は転倒し動かなくなった。
 
「おいっ、憲法9条を忘れたのか?」
 
後ろから冗談交じりな口調で良太に喋りかける、1人の青年。矢野進は64式狙撃銃を構え、窓から身を乗り出し、今にも逃げ出そうとしている工作員に狙いを定めた。先程敵1名を射殺した良太は、一瞬驚いた顔を浮かばせた。と同時に引き金を引き、工作員を射殺する進。89式よりも増してる反動と射撃音を体に受けて、その後に彼はスコープ越しに敵が地面に倒れ伏したことを確認した。頬付けを解いた後、更に躍進をする2名の青年。
 
「憲法は改憲されただろ。それに俺はあの憲法は好きじゃない。あんな、日本を解体する為だけに作った憲法なんか.....!」
 
「あーあー悪かったよ、今は実状況中だ。熱く語るなら後でにしてくれや!」
 
冗談交じりに言った進の言葉に少々機嫌を悪くした様子の良太だが、今は彼の言う通り状況中だ。鉛玉がすでに飛び交う戦場に、自分たちが置かれていることを認識しなければならない。そう気を改めて温まった頭を冷やす。隊員達は道路上から家屋に接近し、生存者の確保と敵残存兵力の掃討を開始した。
 
「各家屋に潜伏している敵を制圧しろ!単独で行動するな!確実に最低2人で固まって行動しろ!!!」
 
「.......。」
 
市街地戦闘へ突入していき、この場所では民間人と工作員が入り乱れている。ある1室に突入しようとする、良太と進。進がドアを開け、良太が閃光発煙筒(フラッシュバン)を投擲する格好である。
 
「(準備はいいか?)」
 
「(ああ。)」
 
ドアを瞬間寸分だけ開放して、その隙間から投擲。床面に落ちた瞬間にけたたましい炸裂音が部屋に木霊して多人数のうめき声が聞こえたのを確認するやすぐさま突入する2名。うずくまっていた工作員数名を射殺したのち、付近に倒れている女性を横目で確認。部屋の制圧を確認し、良太がその女性の下へ歩み寄る。
 
「クリア!....どうだ?」
 
「.....脈がない。呼吸も止まってる。」
 
「....そうか。...まだ居る筈だ、次に行くぞ。」
 
部屋を出る前に、女性に手を合わせる良太と、それを見届ける進。引き続き市街地での掃討戦は続けられ、相次ぐ工作員との戦闘で常即含めた隊員に死傷者が出始めていた。工作員の掃討と同時並行的に進められていた民間人救出作戦も順調な経過を見せており、軽微であれど出てしまった死傷者の数と比して順調な推移である。
 
日が沈む時刻、地平線に太陽が隠れてからそう経っていない頃、小隊長の傍についていた無線手の啓介は、ただならぬ報告を無線を介して聞くことになる。
 
「10より全小隊、偵察部隊より報告。敵の大規模部隊が付近に接近中。部隊は救助した民間人を伴い、以下の地点へ集結せよ。繰り返す.......。」
 
「.....えっ!!!?」
 
なんと敵の工作員が大規模部隊を編成してこちらへ接近中との連絡が、啓介の耳に飛び込んできたのだ。これには緊張と恐怖に慄いている啓介の耳にはずいぶん堪えたことであろう。恐怖を必死に堪え、啓介は汗を吹きだしながら小隊長に報告した。その旨はすぐに中隊全部に広まり、車輌等に民間人を同伴させる形で後退することとなった。
 
「要救助者はどうするんですか?」
 
3t半トラックに乗車して回収地点にまで向かう間、小銃をおおむね敵方へ向けながら1人の青年が言った。白井祐希。彼はトラックの後部座席の最後尾へ腰を掛けて、絶えず後方を警戒している。その向かい側の席に腰かけている中年程の大柄な男が、先程まで居た町の方を見ながらそれに答えた。
 
「本来ならば後送して丁寧に弔ってやらねばならんのだが、状況が状況だ。のうのうと弔いをやっている時間はないということだ。」
 
「ですがこれでは...!」
 
 
喰ってかかってくる祐希に対し、落ち着いた様子で話す中年の男。佐藤浩二は、続けて言葉を放つ。
 
 
「祐希よ。これは災害派遣じゃない...。これは有事、実戦なんだ。敵は自然じゃない、人間だ!俺たちは、災害救助隊ではない。軍人だ!今は敵と殺し合いをしているんだ!...弔いや家族への御言葉は、ことが終えてからにでもするしかない。今は1日でも多く戦い抜いて、1人でも多くの敵を殺し、1人でも多くの日本人の命を救う!...それ以外に、救えるものを見たり、納得いかないことがあれば、手を差し伸べればいい。だがな....。」
 
「はい.....。」
 
「俺たちは、軍人だ。自衛隊という呼称は、愛着があって呼ばれている。災害派遣用の部隊。そう捉えられても俺は構わん。だが、俺はこの国を守る軍人だ。」
 
「.....。」
 
「....お前も、お前の目指す自衛官の姿があるんだったら、その通りにやれば良い。何も俺が言ったことが全てじゃないからな。」
 
「.....はい!」
 
 
 
少々言い過ぎたかなというようなそぶりを見せた後に、浩二は目線を再び町の方へと向けた。祐希はこの時から心の中に葛藤を抱え込む。自衛隊は、軍人、それともそれ以外の何かか。その組織に入っている自分は一体何者なのであろうか、そういった思考をこれから巡らせていくのである....。
 
 
 
 
 
「あれが回収地点だ。」
 
「ヘリが2機...、間違いないな。」
 
 
大型輸送ヘリ、チヌーク2機が駐機した状態で一行を出迎えた。指定された回収地点に到着した48連隊第1中隊の一行は、同伴していた民間人をヘリまで誘導し、民間人を乗せた2機のヘリが無事に飛び立つまで見送った。その後の行動に中隊は移行する。
 
「10より全小隊。事後は、群馬相馬ヶ原へ前進する。了解か、送れ。」
 
「11、了。」
 
「12、了。」
 
「13、了。」
 
 
中隊は連隊本部であり、部隊集結地に指定された相馬ヶ原駐屯地へと車を走らせる。
夜間は行動の秘匿をする為に車輌に遮光、偽装処置を施す。ゴムバンド、遮光板を車体に取り付け、すすきの葉などを括り付ける。ドライバーは個人暗視装置を装着し、夜間操縦をしなければならない。
 
「(良いよなあ、後ろの連中は....。有事の時にでも後部座席で居眠りとは.....。)」
 
暗視装置を付けながら夜間操縦を行う、村田大輔はバックミラーで後部座席の様子を一瞬伺い、心の中でそうぼやき捨てた。全員寝てるというわけではないが、1人2人は散見されたのでそれが気になったのだ。命のやり取りをしているのに、お前らは....。である。
 
「(まあ、言わないけどねえ。無駄に体力使いたくないし....。)」
 
「村田、この先はトンネルだな....。注意して進め。」
 
高機動車の助手席に座って前後左右の警戒をしているのは、小出高志。手には地図を持っており、相馬ヶ原駐屯地までの経路を遮光処置をしたライトで照らし確認しながら大輔に話をかけている。車内に赤い光が灯り、地図を僅かに照らす。
 
「了解。」
 
やがて前方に巨大な口を開けたトンネルが、第1中隊の到着を待ち侘びていたかのようにその場所で佇んでいた。
 
「(何回も通るが、やはり不気味な場所だなここは。)」
 
暗視眼鏡を通して警戒しつつ、慎重に前に進んでいく。暗視眼鏡に敵の姿は見えず、人の気配も感じない。やはりこのような不気味な場所には、敵も一切近づかないというわけだ。
トンネルの中へ入る前に暗視装置を一旦解除して、通常状態で操縦を開始する。
 
「......。」
 
続々とトンネルの中へ入っていく、第1中隊の車輌。最後尾の3t半トラックがトンネルに入ったところで、異変が起き始めた。
 
「....ん?」
 
 
先頭を走る中隊長車を操縦していた根室正平が、無線や車輌の異変に気付き声を上げた。交信するためのプッシュトークボタンを押していないのに、勝手に反応し、更には車輌の計器類まで意味不明な挙動をし始めるにまで至った。
 
「....なんか起きたな。」
 
3t半トラックに乗車していた真田義孝は、状況の変化に気付き周辺を見渡した。隊員個々の健康状態は異状なしと認められるが、状況がいまいち把握出ない。しかし何かが変わったことは直感で感じ取ったようで、幌の隙間から外の状況を観察する。先程まで点灯していたトンネル構内の電灯もすべて一斉に消えている。そして一斉に止まる1中隊の車列。急ブレーキ気味な挙動のおかげで後部座席で寝ていた隊員達もこれで目が覚めたらしく、辺りをきょろきょろと見まわしている。
 
「.....どうなってる?」
 
全車輌が一気に同じタイミングでエンジンが強制的に止まり、そして無線を含む電気機器系統全てが機能停止という事態に陥った。つまり部隊の足である車輌も動かなければ、夜の目として必要な暗視装置や懐中電灯も使用出来ない。携帯電話、スマホも例外ではない。
 
「....トンネルの中から動けないということか。俺たちは。」
 
「ああ。敵が両脇から来たら袋の鼠だな。」
 
点呼確認の為、一旦車輌から下車する隊員達。トンネル両脇に対して歩哨要員を6名程つかせ、無数の声が構内に.....響かなかった。周囲は暗闇で明かりが全くない状況。人がいるかもわからない状況なのだ。トンネルと言えば、声が反響する場所であるがその現象が全く起きない。どういうことか全く理解できない隊員達は、辺りをしきりに見渡した。
 
「.....。」
 
歩哨についていた隊員の1人が、音を聞いた。田園などでよく聞く、カエルの鳴き声だ。まさかトンネルの中でこんなにカエルが鳴くワケないだろうと思いながら別の方角を見やると、そこには理解しがたい光景が広がっていた。.....
 
「....なんで.....、こんなことが。」
 
辺りは、見渡す限りの田園風景に囲まれ、ちょうど第1中隊の立つ位置が田んぼのあぜ道となる格好で存在していたのだ。
 
 
「.......ガチかよ....!」
 
 
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