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ハジマリの章
閑話休題 -束の間の休息-
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初等科での日々は驚くほど穏やかに進んでいった。
レモシエルを通し、何人かの友人もできた。
みんなと仲良く、なんてのはフィフィの性格上無理なことだが五人の友達はみな高飛車な態度に隠れている言いたいことを理解してくれている。
今日は学園はお休みの1日。
フィフィも友人達と出かける予定だ。
「もえ!そろそろ時間だわ。出られる?」
お弁当を包み終えたもえはフィフィに声をかけられ笑顔を輝かせる。
「うん、今終わったところ!じゃあ行こっか」
二人で立派な馬車に乗り込み、たわいのない話をする。
そうこうしているうちに目的地である大きな湖が姿を見せた。
「わぁぁぁぁ!」
珍しくフィフィが子供らしい行動をとったことでもえは我に帰った。
「フィフィ!あんまり乗り出したら危ないよ!?」
焦った様子でもえはフィフィを回収した。
学園に入る前までは外に出る機会がほとんどなかったため、湖や海を見るのは初めてなのだ。
目をキラキラと輝かせ、嬉しい様子を隠しきれていないフィフィ。
きっとあれもこれも初めてのことばかりなのだ。
でも、それでもきっと。
辛いことだけではないはずだから。
もえはフィフィの頭を優しく撫で、まだ始まったばかりの一日に思いを馳せた。
今日は学園の友達とピクニックなのである。
友達と!!!ピクニック!!!
とても悪役とは思えない字面にもえは笑みを抑えられない。
「レモシエル!!皆さまも…!お、お待たせしてしまったかしら?」
目的地に友人の姿を見つけ、思わず大声で呼びかけた。
その声は彼女達にも届いたようで喜びを顔に浮かべ手を振り返してくれた。
「いいえーー!待ってなどおりませんわ!!」
フィフィに負けない程の声量で応えてくる。
普段なら側仕えに注意されるところだが、今日はそれぞれが数人しか連れてきておらず、その顔は一様に穏やかだ。
まるでサンタさんを待って起きている子供を見ているような顔といえば伝わるだろうか。
クロバット家のケビン様が婚約を考えているらしいわ。
相手はアンナ様かしら。
いいえジェリア様ではないかしら。
レモシエル様にも打診が来るかも…!
私は結構ですわ…ほら、だってあの家は…ね?
9歳といえど侮ることなかれ。
彼女達は社交界の華となるべく日々情報収集を欠かすことはないのである。
もえが密かに顔を引きつらせているのを見てか、はたまたフィフィの気がそれたのか。
会話は徐々に収束を見せ、そのままお昼ご飯を食べることに。
マリー様のは何が入っていらっしゃるの?
これは…ツナ、かしら。エミリー様は?
私はハムとチーズですわ。
アルエア様のは…茶色、ですか?
えぇ、サクサクとしてて美味しいわ。何かしら、これ。れもシエル様のも同じかしら?
そうね、私のものもサクサクとしておりますし、同じかしら。
アルエア様の具はカツといいますの。
レモシエルのはコロッケですわ。
中身は違いますわよ。
まあまあまあ!
という具合だ。
もえが本日作ったのはサンドイッチ。
ふわふわとした白パンに様々な具を挟み込んだ。
令嬢達が笑顔で食べているのを見て大満足である。
その後も五人は楽しく歓談を続けたが、夜が近づくにつれて一人、また一人と帰路についた。
残ったのはレモシエルとフィフィの二人。
「フィフィリア様。本日は楽しいひと時を本当にありがとうございました。是非また構ってくださいまし。」
悪戯っぽく笑いながら立ち去ろうとするレモシエルをフィフィが引き止める。
「お、お待ちなさい!」
高圧的な態度に驚いたようで真剣な顔で振り返る。
「……フィー。フィーとお呼びなさい。わ、私も…貴女には、感謝している、の…。」
素直にありがとうと感謝を告げること。
当たり前のようで、素直になれないフィフィには何より難しいことかもしれない。
服の間から覗く白い肌がピンク色に染まっているのをみてレモシエルは柔らかく微笑んだ。
「…はい。フィー様。私のことも、レモシーと呼んでいただけますか?」
返された言葉にフィフィは喜色満面という様子で高飛車に返してみせた。
「え、えぇ!そう呼んであげましてよ!光栄にお思いなさいな!!」
悪役令嬢フィフィリア・イディアは少しだけ素直になり、親友を手に入れた。
今までの人生からは考えられない程穏やかで暖かな時間。
異端の竜は願う。
この少女が少しでも多くの幸せを感じられますように。
長い、長い人生の中で今日という日の思い出が彼女を救う日もくるかもしれないから。
自分が、この時間を守れますように。
どうかどうか、もう少しだけ。
この幸せに浸らせてください。
やっとのことで与えられた、束の間の休息なのだから。
レモシエルを通し、何人かの友人もできた。
みんなと仲良く、なんてのはフィフィの性格上無理なことだが五人の友達はみな高飛車な態度に隠れている言いたいことを理解してくれている。
今日は学園はお休みの1日。
フィフィも友人達と出かける予定だ。
「もえ!そろそろ時間だわ。出られる?」
お弁当を包み終えたもえはフィフィに声をかけられ笑顔を輝かせる。
「うん、今終わったところ!じゃあ行こっか」
二人で立派な馬車に乗り込み、たわいのない話をする。
そうこうしているうちに目的地である大きな湖が姿を見せた。
「わぁぁぁぁ!」
珍しくフィフィが子供らしい行動をとったことでもえは我に帰った。
「フィフィ!あんまり乗り出したら危ないよ!?」
焦った様子でもえはフィフィを回収した。
学園に入る前までは外に出る機会がほとんどなかったため、湖や海を見るのは初めてなのだ。
目をキラキラと輝かせ、嬉しい様子を隠しきれていないフィフィ。
きっとあれもこれも初めてのことばかりなのだ。
でも、それでもきっと。
辛いことだけではないはずだから。
もえはフィフィの頭を優しく撫で、まだ始まったばかりの一日に思いを馳せた。
今日は学園の友達とピクニックなのである。
友達と!!!ピクニック!!!
とても悪役とは思えない字面にもえは笑みを抑えられない。
「レモシエル!!皆さまも…!お、お待たせしてしまったかしら?」
目的地に友人の姿を見つけ、思わず大声で呼びかけた。
その声は彼女達にも届いたようで喜びを顔に浮かべ手を振り返してくれた。
「いいえーー!待ってなどおりませんわ!!」
フィフィに負けない程の声量で応えてくる。
普段なら側仕えに注意されるところだが、今日はそれぞれが数人しか連れてきておらず、その顔は一様に穏やかだ。
まるでサンタさんを待って起きている子供を見ているような顔といえば伝わるだろうか。
クロバット家のケビン様が婚約を考えているらしいわ。
相手はアンナ様かしら。
いいえジェリア様ではないかしら。
レモシエル様にも打診が来るかも…!
私は結構ですわ…ほら、だってあの家は…ね?
9歳といえど侮ることなかれ。
彼女達は社交界の華となるべく日々情報収集を欠かすことはないのである。
もえが密かに顔を引きつらせているのを見てか、はたまたフィフィの気がそれたのか。
会話は徐々に収束を見せ、そのままお昼ご飯を食べることに。
マリー様のは何が入っていらっしゃるの?
これは…ツナ、かしら。エミリー様は?
私はハムとチーズですわ。
アルエア様のは…茶色、ですか?
えぇ、サクサクとしてて美味しいわ。何かしら、これ。れもシエル様のも同じかしら?
そうね、私のものもサクサクとしておりますし、同じかしら。
アルエア様の具はカツといいますの。
レモシエルのはコロッケですわ。
中身は違いますわよ。
まあまあまあ!
という具合だ。
もえが本日作ったのはサンドイッチ。
ふわふわとした白パンに様々な具を挟み込んだ。
令嬢達が笑顔で食べているのを見て大満足である。
その後も五人は楽しく歓談を続けたが、夜が近づくにつれて一人、また一人と帰路についた。
残ったのはレモシエルとフィフィの二人。
「フィフィリア様。本日は楽しいひと時を本当にありがとうございました。是非また構ってくださいまし。」
悪戯っぽく笑いながら立ち去ろうとするレモシエルをフィフィが引き止める。
「お、お待ちなさい!」
高圧的な態度に驚いたようで真剣な顔で振り返る。
「……フィー。フィーとお呼びなさい。わ、私も…貴女には、感謝している、の…。」
素直にありがとうと感謝を告げること。
当たり前のようで、素直になれないフィフィには何より難しいことかもしれない。
服の間から覗く白い肌がピンク色に染まっているのをみてレモシエルは柔らかく微笑んだ。
「…はい。フィー様。私のことも、レモシーと呼んでいただけますか?」
返された言葉にフィフィは喜色満面という様子で高飛車に返してみせた。
「え、えぇ!そう呼んであげましてよ!光栄にお思いなさいな!!」
悪役令嬢フィフィリア・イディアは少しだけ素直になり、親友を手に入れた。
今までの人生からは考えられない程穏やかで暖かな時間。
異端の竜は願う。
この少女が少しでも多くの幸せを感じられますように。
長い、長い人生の中で今日という日の思い出が彼女を救う日もくるかもしれないから。
自分が、この時間を守れますように。
どうかどうか、もう少しだけ。
この幸せに浸らせてください。
やっとのことで与えられた、束の間の休息なのだから。
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これからもフィフィたんとひぃちゃんをお届けできるよう頑張りますね!\\\\٩( 'ω' )و ////
わぁ、、わぁ、、( ;∀;)
感想ありがとうございます!!
フィフィたんがこの世の正義です(+・`ー'・)ドヤ
ひぃちゃんがこの世のルールです(+・`ー'・)ドヤ
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ねおさん本当にありがとうございます!