888マイルの奇跡

かふぇもか

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親切な暴力女

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 俺は、ゆっくり頭の中で状況を整理することにした。

 まず、昼間に姉貴からゲームのデバッグを頼まれ、無理やりADVゲームをやらされる羽目になった。
 実際に、そのゲームをやってみると、ゲーム終了ボタンというものが一切無い、どこかのデスゲームのように、ゲームの世界に閉じ込められることとなった。

 ここが、例えば異世界だと仮定しても、セーブ&ロードの画面があるから、その信憑性は限りなく薄い。

 では、やはりゲームの世界に迷い込んだ? 
 しかし、ゲーム終了画面が無ければ、起動できないはずだ。

 こういったケースは、本来起こりえないことだから、ゲーム自体がバグった?
 そう考えるのが一番妥当な気もした。
 そして、そう仮定したとき、もう2つだけ、この世界から抜け出す方法がある。

 1つ目、現実世界で、極度の空腹状態や、生理現象に陥れば、勝手にゲームが終了する。
 これは、ゲームに没頭しすぎて死なないようにするための措置である。

 2つ目、ゲームクリアと同時にゲームがいったん終了する。

 まだ、ゲームを始めて、1時間ほどしか経っていないから、今日1日様子を見て、ゲームが終了することが無ければ、2つ目の、『ゲームをクリアする』しか、俺がこの世界から抜け出す方法は無いことになる。

 VRMMORPGが出来ないこの世界は地獄だ。
 なんとしても、この世界から抜け出さなければならない。

 とりあえず、7時50分に家の玄関でセーブを行った。
 そのため、今は何をしても取り返しがつくから、今日一日机で寝ることにした。
 咎められても、一切無視してやり過ごす。

「ねー海人」
 女の声が聞こえた。
 無視だ無視、俺は寝てるんだ。
「ちょっと寝てんの?」
 そう言って、身体を揺すってきた。
 無視。
「あんた、いい加減にしなさいよ」
 女の声に怒気がはらんできた。

「いい加減にしないと、ぶん殴るわよ?」
 俺の意識がまどろみに落ち始めてきたころ、頭に強い衝撃が加わった。

「いってええ!! 何すんだこのクソアマァ!!!!」
 俺は、そう言い立ち上がった。

 目の前には、ショートヘアの女が立っていた。
 身長は、163㎝ほど、わりと可愛い顔をしているが、なんとなく勝気な女の子なんだろうと察した。
 その女は怒っていて、眉を吊り上げていた。

「あんたがいい加減起きないからでしょっ!!」
「ぐふぉっ!!」
 そう言って、少女は、俺の腹めがけて膝蹴りをしてきた。

 一瞬意識が飛びかけたが、何とか持ちこたえた。
 ていうか、こいついきなり頭殴って飛び膝蹴りしてきたぞ?! サイコパスかよ!!!
 彼女を見据えると、今度は、右腕を振りかぶって、顔面めがけてグーパンチをしようとしていた。
「ひ、ひいっ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
 間抜けだが、その少女に恐怖心を覚え、両手で顔を隠して謝った。

「そうよ、ちゃんと謝ればいいのよ」
 俺の謝罪を聞いて満足したのか、彼女は殴るのをやめた。
 暴力女は、さっきの表情と一変して、にっこりしながら口を開いた。

「今年も、あんたと同じクラスね、よろしく!」
 彼女は、握手を求めてきた。

「いや、お前みたいな暴力女と今後仲よくする気はサラサラないんだが……」
「あ゛あ゛? なんか言った?」
「ひぃっ!! ごめんなさいごめんなさい!!」

 その手を取って、ほぼ強制的に彼女を交わした。
 彼女の手は柔らかくて、一瞬ドキドキしたが、数秒前にこの手で頭をぶん殴られたことを思い出して、胸の高鳴りは一気に冷めた。

「ま、まあ、いきなり殴ったのは悪かったと思ってるわよ。ごめんなさい……」 
 なんだこのテンプレツンデレキャラ、リアルに遭遇すると鳥肌が立つんだが。
 謝るなら殴るなよ。

「俺は早く寝たいから、さっさと散ってくれ」
「なんか今日海人冷たくない? 言葉づかいも変だし」
「変なのは、てめぇの頭の中だろ?」
「あ゛あ゛?」
「ごめんなさい。なんでもないです……」

 不毛な会話を続けていると、担任と思しき、女教師がやってきた。

 スーツを着ていて、眼鏡を掛けていて、美人。
 いかにも、インテリ系な風貌を漂わせている。

「みんな自分の席に着きなさい! 出席取るわよー!」

「ほらほら、席もどれ」
 そう言って、手であっち行けという仕草をした。
 彼女はむーっと頬を膨らませたが、それを無視して、俺は机に突っ伏した。

「じゃあ、出席確認取るわよー 1番、阿澄海人!!」

 無視。
「阿澄海人、いないの? 初日から遅刻?」
 もうどうでもいいから、早く欠席ってことにしといてくれよ。

「先生、阿澄海人くん、ちゃんといます、窓側の一番前で寝てます!!」
 さっきの彼女の声だ。
 親切に代弁してくれた。
 なんだ、ちゃんといいとこあるじゃん。
 心の中でそう思ったが、やがて眠気が本格的に襲ってきて、先生の声は聞こえなくなっていた。
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