目が覚めると、オネェ大将軍のお茶専用給仕に転職することになりました。

やまゆん

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お湯の温度 60℃
茶葉の量  6g

湧いたお湯を湯呑に一度注いでから急須に移し、更に別の湯呑に移し替えて湯冷ましをする。その後茶葉を入れて、湯冷ましをした湯を注ぎ、二分ほどまつ。
これが最高の茶葉でお茶を飲むためのコツだ。
まもなく時間は正午。
そろそろ、あの方は休息の為に私を呼ぶ時間だ。
時計の針がカチっと音を立てて動くと正午を知らせる金が国中に響き渡る
と、同時に厨房の電話が鳴り
すでに電話の前で待機をしていた私はすぐに受話器をとった。


“「心さーん、お茶が飲みたいわーん」”

「準備は出来ておりますのですぐにお持ちいたします。」

“「やっだー!さすがは心さん!!楽しみにしているわね」”

「はい」


向こうが受話器を置いた音を確認し、
私、焙治 心はお盆に乗せたお茶セットを持ち厨房の出た。
最上階まで続く階段を上がりその奥にある
大きな扉の前へとやってきた


「心です。玉露大将軍にお茶をお持ちいたしました。」


声をかけると扉が開き、心は頭を下げる。


「いらっしゃーい、心さん」

「失礼いたします。」


部屋に入り中央の大きなデスクに座っている大柄な男性の元へ歩み寄る


「んー・・貴方の入れた玉露茶は本当にいい香りがするわね」

「恐れ入ります。」

「んもう!そんな堅苦しいのやめて頂戴よ」

「ですが、ここは軍議室でもありますから」

「軍議は終わったのよ!!そら、野郎共は帰りなさい」


手で家臣達を払いのける動作をすると
お邪魔虫は退散しますとでも言っているような顔で部屋から出て行った


「さ、虫も消えた事だしね。心さん」

「もう・・玉露様は」

「だって、今朝だって忙しくて貴女の顔を見れていないのよ?」

「お茶専門給仕の顔なんて見なくても良いですよね」

「だーめ。私が心さんを一目見ないと枯れちゃうのよ」


可愛らしく口を尖らせながら机の書類をまとめ、おぼんを置くスペースを作っている人物
現代で言うオネェ口調だが、ひときわ鍛え上げられた肉体、衣服から見える腕には傷跡が残っている立派な男性だ。
名は“玉露”。この大国“湯乃(ゆの)”の2大軍事力の一つである“武軍”(ぶぐん)を纏める大将軍であり陶芸家としての顔ももつ。自分専用の茶畑を持っているほどのお茶好きでもある。



「あら、今日の急須はもしかして」

「はい、玉露様がおつくりになった新作です。」

「まぁ!!いつ使ってくれるか待っていたのよー」


机にお茶セットを乗せたおぼんを置き湯呑を差し出した。
玉露は湯呑を受け取ると早く入れて頂戴というまなざしで心を見つめる


(この方が、戦では敵なしと恐れられていると言う話を未だに信用できないのよね)


心は急須をもちゆっくりと湯呑にお茶を注ぐ
湯呑に注がれたお茶の香りを楽しみ、湯呑に広がる美しい緑を堪能した後
玉露はゆっくりと茶を飲んだ。


「本当に。貴女がこの世界に来て私の給仕になってくれて良かったわ。
国中にこの私の名を付けた茶葉“玉露”を美味しく入れる物がどこにもいなくて諦めていたんですもの。」

「私こそ、玉露様に拾っていただいたおかげでこうして大好きなお茶を学び、国中の皆様に飲んでいただくことができますから」


玉露様が言うように、私がこの世界に来たのは約半年前のことだ。
どうして、“この国”では無く“この世界”なのか聞いたら驚くかもしれない
私も空想の世界の話だと思っていた。自分自身が実際に体験するまでは
まさか、異世界なんていう所が存在するなんて思いもしていなかったからだ。


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