目が覚めると、オネェ大将軍のお茶専用給仕に転職することになりました。

やまゆん

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二杯目 

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この世界に来て私は玉露様という
とても偉い方のお茶専用給仕として働く事になりました。
一様仕事なのでお茶を入れるだけでは駄目だろうと
思っていたのだが。

「心さーん!!!私に癒しのお茶を淹れて~」

「はい」

軍議の合間に玉露がお茶を飲みたいと言えばキッチンで用意をして軍議室へと運ぶ

「お待たせいたしました」

「あっりがとぉーう!」

一番に玉露に渡し、その後順番に他の将の人達一人一人に配っていく
初めてここでお茶を配っていった時に驚かれた
全員のテーブルに置かれた湯呑をみた後、みな玉露に視線を送った

「そんなに見て何よー、遠慮しないで貴方達も飲みなさーい」

その言葉を聞いたのち、“ありがたく頂きます”と言い飲み始めた
どうしてか分からなかった。
本来ならこの場でたずねるのが一番なんだろうけど、怖くて聞けない。
今では皆、何事もなく飲んではいるが
あの時、自分は何か変な事をしてしまっただろうか

「心さーん、夕食後のお茶をおねがーい!あ、今日も一緒に夕食しましょうね」

「は、はい」

軍議後の一服の他に
夕食後の一服、午後のお茶タイム。
毎日この繰り返し。
本当にお茶を淹れるだけの仕事だ。
これだけでいいのだろうか。
立派な仕事なのだろうか。

一人になるたびに不安になってしまうのだ。

「お城の中が静かだ」

今日は朝から出掛ける予定がある為
ゆっくり休息するようにと言われた。

「ふー・・」

あたえられた部屋に備え付けられた小さなお風呂に入り
肩の力を落とす

「ここ数日・・本当にお茶だけしか入れてないよね?」

おまけに、こんな素敵な部屋に住まわせてもらって。
本当は図々しい奴と思われているのではないだろうか
からまわったりしているんじゃないだろうか。
一人でいるとどうしてもマイナスな事ばかり考えてしまう
自分の悪い癖だ。

(少し、外の空気をすってこよう)

部屋から出て綺麗に掃除された廊下を歩き続ける。
空気を吸いたくても室内じゃどこも同じ空気だ。
余計に考え込んでしまう。と同時に嫌な記憶も鮮明に思いだしてしまう



“「焙治さんって、言葉づかいは丁寧で良い子は良い子なんだけどねぇ」”

“「そうそう、でもあのミスは無いでしょ?」”

“「わかる、呆れて笑いこらえるのに辛かったわ」”

“「あんまり話さないし、言葉足らず?っていうか」”

“「自分では精一杯やっているんだろうけど、それが空回りしてるよねー」”

“「それ!!自分でわかってないんだろうね」”

休息スペースから聞こえる談笑
職場で陰口を言うのは、どうかと思うよ
どこでだれが聞いているかわかららないし。
現に本人が聞いているんだから
せめて、陰口は職場の外にしてほしいよね
失敗ばかりする自分も悪いけど
壁にもたれながら深くため息をつく。
あんまりここにいると毒だよね、でも足が思うように動かない
その前に足元が真っ暗だ。
私は何処に行けばいいんだろうな
あぁ、私の場所がどんどんなくなっていく
早くこの場から立ち去りたいどこか私のことなんて知らない世界に

「あ・・・その知らない世界に数日前に来たんだよね」

周りを見渡し苦笑いを浮かべてしまう。

「考えないようにって思うと、余計に考えてしまう。」

「あらぁ、何を考えてしまうのかしらぁ?」

「過去の黒歴史の数々です」

おかしいな、私は一人で廊下を歩いていたはずなのに
どうして声が上の方から聞こえるんだろ
心はおそるおそる上を見上げると

「とぉぉっても暗い顔して歩いてたからどうしたかと思ったのよぉ~」

「ぎょ、玉露さ、ま?」

何故この人がこの場所にいるのか。

「王宮での定例会が終わってぇ、さっき帰って来たのよぉ~」

「おう、きゅう?」

「私、こう見えてぇ国で二番目にえらぁーい人なのよぉ」

すごいでしょ!っと胸を張って言う玉露
こんな立派な屋敷に住んでいて身分が良い人なんだろうなとは思っていたけど
国で二番目に偉い人だったなんて、何だか恐れ多いな

「で、心さんとお茶しようと思って部屋へ呼びに行ったんだけどいなくて探してたのよ」

「ぁ、ぇ・・すいません、私」

外に空気を吸いに行こうなんて考えるんじゃなかった
あのまま部屋にいた方がこの人に迷惑をかける事を、
部屋を出る時に誰かに声を掛けて行くべきだったんだ。やってしまった。
着物の袖をギュッと握りしめて玉露に頭を下げる心

「ちょ・・謝る事じゃないのよ?!頭をあげて頂戴!!」

「わ・・たし、がなにも言わずに、部屋から・・出たから」

「心さんは何にも悪くないのよ?私が勝手にした事なの!!それに、お茶を淹れて欲しいと指定した時間以外、貴女は何をしていても自由なのよ?!」

「ですが、」

「やだぁ、そんな泣きそうな顔にならないでぇー!!」

廊下に響く玉露の声を聞いて数人の侍女や給仕が集まり始める

「大殿が心ちゃんを泣かせたんですか?!」

「まさか・・大殿お手つきに!!」

軽蔑のまなざしを玉露に向ける
お手つきという言葉を聞きつけ

「大殿!!貴方という人はぁ!!!」

「ち、違うのよぉー!!茶筅!!!」

「まったく、心殿を特別寵愛しているのは存じてはいましたがこうも早くお手をつけるとは」

「もぅ!!話を聞きなさい!!アンタ達!!!」

屋敷中に玉露の声が響き渡ったのだった。




「落ち着いたかしら、心さん」

「ご、迷惑・・おかけして・・申し訳ありません、でし・・た」

「だ・か・ら、貴女が謝る事じゃないのよ。それより、この場所どうかしら?」

「ぇ、あ・・」

心は今いる場所を見渡す、以前来た茶畑だがこのような建物は無かった
こじんまりとした茶室。窓を開けると茶畑が一面に見渡せる

「心さんとゆっくりお茶を楽しもうと思って作らせたのよぉ
もちろん、仕事抜きでね」

「ぁ、ぇ・・っと、」

「・・お茶の事になると目を輝かせて沢山お話していたけど。本当は、人と話すのが苦手なんでしょ?」

「すい、ません」

「そうやって、ずっと謝ってたのね。
ねぇ、心さんゆっくり少しずつで良いからさ貴女の中にたまっている物を吐き出してちょうだい」

「っ、ぃ、え・・大丈夫です」

「言葉ではそう言っても、ね?」

玉露は急須にお湯を注ぎ始める
ふわりと茶室に広がる匂い

「ぁ・・ほうじ、茶」

「そうよー、心さんの為に用意したのよ~
毎日、美味しいお茶を淹れてくれてるお礼よ」

「そん、な・・私は只お茶を淹れているだけで・・それだけでこんなに良くして頂けるなんて」

「そんなことないわよ。あんなに美味しお茶を淹れるためにはそれなりの知識と経験が必要よ。貴女がどれだけお茶を勉強したのが良くわかるわ」

「私はそれだけしか、・・」

「もっと胸を張りなさい。この国であんなに美味しいお茶を淹れることが出来るのは貴女だけなのよ。」

湯呑を二つ取り出し、ゆっくりとお茶を注ぐ
ほうじ茶を美味しく入れる為に適した温度は95℃~100℃
湯冷ましなどはいらない。
熱湯のまま注ぐからこそほうじ茶の香りを楽しむことが出来るのだ。

「どうぞ、少し熱めにしてるから気をつけてね」

「あ・・りがとう、ございます・・」

湯呑を両手で持つ、ほうじ茶独特の匂いを嗅ぐと胸がホッとする
フー・・と息を行きかけながら一口飲む

「・・・おいしぃ」

「本当?」

「すっごく・・おいしです、」

「心さんが淹れてくれるほうじ茶に比べたらまだまだだけどね」

「そんなことないです、今まで飲んだ中で一番・・おいしいです」

こんなに胸が暖かくなるお茶を飲んだのは初めてだ。

「自分でも、人と話すのが苦手・・というより、人と話す時怖いって
思ってしまうんです。緊張してどんな言葉を選んだらいいんだろうって考えてしまって
間違った言葉をかけたら何を言われるか、影で何を言われるか」

「言葉一つで人を死に追いやれる。怖いわよね
影でこそこそ言う人ほど、本当は弱い物なのよ」

「自分なりに一生懸命にやっていても、空回りばかり
仕事も長続きしなくて、どこにいっても同じこと言われるって何度も
逃げてるって自分では自覚してるんです。」

「そうねぇ、でも逃げるのって結構勇気がいると思うわよ?
貴女だって悩んで悩んで決断したんでしょ?」

「玉露様・・」

「あ、でも・・私の専属給仕はやめないでぇー
心さんのお茶飲めないと私達仕事がはかどらないのよー!!」

「私達?」

「そうよー、茶筅や紅達もね貴女のお茶を気に入ってるのよ。
初めて、お茶を持ってきてくれた時、心さん私だけじゃなくて皆の分も用意してくれたでしょ?」

「はい、それが?」

「皆ね、私専属だから自分達の分があるなんて思いもしなかったようなのよ
貴女は当たり前のことをしたんだろうけど、私はねうれしかったのよね
心さんが私の大切な部下を思いやってくれたことが。」

あの時、皆が驚いていたのは・・全員のお茶を用意したから

「それだけじゃないわよ、料理人、侍女や給仕たちの休息室にお茶を用意してくれてるでしょ?」

「はい、」

「この屋敷の皆はね貴女のお茶の虜になっちゃったのよ。
あの茶筅でさえ心さんのお茶は湯乃国一だって、そうだわ!!紅がお茶の入れ方を教わりたいって言ってるのよ。」

「私に、ですか?」

「戦場で貴女の代わりに皆にお茶を飲ませれるようにって
その話を聞いた侍女達も一緒に教わりたいって言ってるのよー今度、お願いしても良いかしら?」

「そんな、教えるなんて・・」

「心さん、この私が傍にいるから大丈夫よ。」

玉露は両手で心の顔を優しく包みこむ

「頑張らなくていいのよ。貴女のペースでゆっくりやって頂戴。
それと!一人でため込まない事。吐き出したいときはいつでも聞いてあげるわよ。
その代り、私の愚痴も聞いてちょうだいね!!」

「・・・はい、」

「いい返事。さ!!お茶に合う菓子もあるのよー」

どこからか菓子の入った紙袋を取り出す玉露
この人はどうして、こんなに優しい言葉をかけてくれるのだろうか
胸がとっても暖かくなる。この気持ちは何と呼べばいいのかは分からない。
分かり切っているき事は、この人は信頼できる人。
そっか、頑張らなくていいのか。自分のペースで進めて良いんだ
少しだけ、胸が軽くなった気がした。


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