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13.答え合わせ

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 わたしは自分のあまりにも失礼な態度に後悔していた。とりあえず謝るしかない。

「申し訳ありませんでした。王弟殿下とは知らずに失礼な態度を……」
「いや、それは私が正体を隠していたわけで……」
「いいえ、正体を知らなかったとはいえ、城で会った人に対してあのような言葉遣いや振る舞いは……」
「待って。最初はちゃんとしていたよ。私が頼んだんだ。友達だからと」

 反省するわたしにクリストファー様が慌てている。記憶を辿るとそうだったかもしれない。
 いつも余裕そうなのにこの人もこんな風に慌てるんだ……。目の前にいるクリストファー様がなんだか思い出の中のリックと重なる。

「思い出してくれて嬉しいよ。私はあの時の女の子と結婚できるなんて本当に幸運だ。このお守りのおかげだね」
「どうして幸運なのでしょう? 子どもの頃に短期間会っただけの人間ですよ?」
「あのときの私は君に救われたからだよ。ずっと君に会いたかった」

 そんな大層なことをした記憶はない。わたしが忘れてしまっていることがあるのだろうか。

「わたしは何もしていないと思いますが……」
「いや、君は色々としてくれたんだよ。あのときの私は色々あって悩みも多くふさぎ込んでいてね」

 そう言ってクリストファー様は色々な話をしてくれた。
 当時のクリストファー様は孤独を感じていたらしい。兄とは歳が離れていてあまり接点はなく、本音を言い合えるような友人はいない。慕っている母は病気で伏せっていて会えないし自分には何もできない。立派な兄がいて自分は王になるわけでもないのに無駄な勉強ばかり。と、色々としんどくて城をちょくちょく抜け出していたらしい。

「君があの植物園で力を使ってくれたおかげで、良い薬ができて母上も回復したんだよ。それだけでも感謝しきれない」
「わたしの力がお役にたったのなら良かったです」
「それに君と話をしていて思ったんだ。自分はなんて馬鹿なんだろうと」
「どうしてでしょうか?」
「自分より小さい女の子が、今自分にできることをするのは当然だ、意味のない勉強なんて無いし結果は自分に返ってくる、とか言うんだよ。他にも色々言われたけど衝撃的だった。城を抜け出してばかりの自分が恥ずかしくなった」
「偉そうなことを色々言ってすみませんでした。それに小さな女の子と言っても中身は一度人生を終えている人間ですから……」

 わたしは申し訳ない気持ちになった。自分より年下の女の子に色々言われて反省した、と言われても実際の中身はクリストファー様よりずいぶん年上だった。
 わたしがそんな風に思ったのも、一度死んだのに土地を癒やしたお礼にと時間を戻してもらったことが大きい。

「そうかもしれないね。それでもあれから色々と良い方向に変わっていったんだよ。母上が回復したおかげで城の空気は良くなったし、みんな笑顔になった。それに勉強もやってみたら色々とおもしろかったしね。君からもらった花びらは本当に幸運のお守りだったんだよ。あの時、真面目に生まれ変わったおかげできっと私は立派な領主になれると思うよ?」

 そう言ってクリストファー様はわたしに笑顔を向けた。
 別にわたしはたいしたことはしていない。短い期間ではあったがわたしにとっても良い思い出だ。あんな風に気兼ねなく話せた友人はいなかった。二度目の人生ということもあり失敗はできないと気を張っていた時期でもある。自分の力が知られないよう人と距離を取っていた。
 彼からもらった懐中時計は大切な思い出として今も机の引き出しの中に大切にしまってある。

「そうだったのですね。わたしにとっても良い思い出です。あの頃はどうやったら今回は上手くやれるか、失敗しないためにはどうしたらいいか、子どもらしく振る舞うにはどうしたらいいのか悩んでいました。わたしも話を聞いてもらって、ずいぶん気が楽になった記憶があります。同年代の子と交流は殆どなかったので、気楽に話せる友人ができて嬉しかったです」

 本当に驚いたわ。不思議な縁ってあるものなのね。

「どこの子か知りたくても会ったことは内緒だから誰にも聞けない。城で会えたくらいだから簡単に会えるだろうと思っていたけど全く会えない。ようやく宰相の娘だって、リリアーナだってわかった頃にはすでに婚約済み……。本当についてないと思ったよ。だから、今回宰相が話を持ってきてくれた時は本当に嬉しかった。願ってもない申し出だったよ」

 なるほど。だからこんな政略結婚に前向きだったのね。理由としてはあまりにもベタではあるけれど。
 それでもわたしが相手では釣り合いは取れていないと思う。

「わたしもまさかあのリックがクリス様だとは思いませんでした。こんな形で再会するなんて……。うれしいです。わたしもあの懐中時計、まだ持っていますよ」

 クリストファー様の顔がぱぁっと明るくなる。 

「君も懐中時計を持っていてくれて嬉しいよ。私たち、気が合うと思うだろう?」
「あのように立派なものを約束の証にといただいたのに捨てられませんよ。そうですね。政略結婚とはいえ、知らない人間よりは子どもの頃に友人だった人間の方が良いですよね。納得しました」

 一瞬、クリストファー様が固まった。何か変なことを言っただろうか。
 結婚するなら身分や肩書きに寄ってくる人間よりも、気が合うと思っているわたしの方がマシなのかもしれない。

「ねぇ、リリアーナ、本当にわかってくれた?」
「えぇ、政略結婚でもどうせなら少しでも気心の知れた人の方が良いですよね。わたしもあのリックがクリス様とわかって親近感がわきました。すこし緊張しなくなりそうです」

 わたしの言葉にクリストファー様は真剣な顔をする。

「……いや、絶対わかっていない。私はずっと君のような女性と結婚したいと思っていた。君のことは忘れたことはなかったし、また君に会いたいとずっと思っていた。政略結婚とか抜きにリリアーナだから結婚したいんだ」
「え……」 

 真剣な顔で『君だから結婚したい』などと言われて平常心でいられるだろうか。少なくともわたしにそんな免疫はない。二度目の人生なのに経験値ゼロだ。政略結婚しか知らない。
 この顔に見つめられるだけでも恥ずかしいのにこんなことまで言われたら……。わたしは思わず赤面してしまう。顔が熱い。

「やっと私を意識してくれたみたいだね。これからは遠慮なくいかせてもらうよ」

 今まで遠慮なんてあっただろうか。わたしにはすでに過剰なアプローチだったのに。目の前のクリストファー様は意地悪な笑みを浮かべている。
 わたしの思い出の中のリックが少し遠くなった気がした……。
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