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22.ジルベルトの主張②

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 国王陛下からの慰謝料についての言及にジルベルトは驚いている。

「当然だろう?」
「ですが、それはリリアーナに力が無かったからで……」
「それとこれは話が別だ。王家が整えた婚約だというのに、それを勝手に破棄したのだ。当然だ。浮気をしてマリーベルに乗り換えたのはジルベルトの方ではないか。普通の婚約でも慰謝料は発生すると思うが?」
「い、いえ。むしろ私たちの方が慰謝料をもらいたいくらいです。契約不履行なのですから」
「ほぅ。では、王家の判断が間違っていたと?」
「め、滅相もありません……。ただ、我が領地はとても苦しい状態です。慰謝料を支払うのはとても……」
「手順を踏めば良かっただけなのではないか? 聞くところによると、以前よりリリアーナは婚約を辞退したいと言っていたそうだ。どちらの言い分が正しいのだ?」
「リ、リリアーナは家族にはそのように言っていたのかもしれませんが、私には父親が婚約を辞退すると申し出ても受け入れないでくれと言っていました。力が発現するまで待っていて欲しいと」

 そんなこと言ったことはありませんが……。
 そもそも、王命と言ってもいいほどの婚約を勝手に破棄したことが問題だとわからないのかしら。
 婚約解消したいならしっかりと根回ししてからすれば良いのに。
 ジルベルトは本当に勝手なことを言っている。

「それは本当か?」
「はい。本当のことでございます」
「宰相はリリアーナから何か聞いているか?」
「確かにリリアーナは過去に婚約を辞退したいと言っておりました。ジルベルト殿にも婚約継続の意思を確認したこともあります。が、リリアーナの本心まではわかりません」
「ふむ。これでは、リリアーナの言い分も聞かないと判断できないな」
「特に聞く必要はないと思いますよ? 自分に都合の良いように言うでしょうから。それに、婚約が家同士の話なら、リリアーナとは婚約解消でもマリーベルと結婚するなら問題ないではありませんか」

 ジルベルトはニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべている。
 自分の都合の良いように言っているのは自分じゃない!

「それはお前が決めることではない!」

 国王陛下はピシャリとジルベルトの言葉を遮った。

「も、申し訳ありません」
「この件については保留としよう。しかし、王家への謝罪がないのは問題だ。これについては別途協議し、処罰を通告する。とにかくジルベルトは領地の問題を解決しなさい。以上だ」
 

 やはり、自ら領主の座を降りることはなかった。それどころか勝手な言い分を述べていた。
 しかし、これで国王陛下からジルベルトに期限が決められた。これでジルベルトたちは急いで領地を癒やし始め、マリーベルとの結婚と契約を急ぐだろう。

 それにしても本当にひどい人たちだ。領地が荒れているのは全部わたしのせいらしい。一度目の人生でもわたしがジルベルトの領地に行く前にはすでにひどく枯れていた。
 今だってここ数年で枯れたものではない。自分たちがしっかりと管理してこなかったからだというのに……。
 わたしに力が無いから癒やせないというなら、微力でも領主一族で癒やす努力をしてくれば良かったのだ。
 それに、そもそもわたしは婚約者の座にしがみついてなどいない。ずっと円満に婚約破棄されるように心を砕いてきた。
 何度も自分では力が無いから婚約を解消して欲しいとお願いしてきた。それでも、聖女としての力が発現することを期待して婚約を解消しなかったのはジルベルトだ。どうしてあんなに頑なに婚約解消を拒んだのかはわからない。

「リリアーナ嬢、本当に申し訳なかった。あのような男を領主にしているのは私たちの落ち度だ。そんな男との結婚を強いるような真似をしていたとは……」

 国王陛下に謝られてしまった。
 思うところがないわけではないけれど、あの領地をなんとかしようとはしていたのよね……。
 領主一族を代えるのは簡単なことではないもの。
 強い力を持った人を大量に動かすのは難しい。
 思えば、協力者もなしにジルベルトから領地を奪うなんて無謀だったわ。

「い、いえ。このようにご協力いただけて感謝しております」

 わたしはジルベルトに対して怒りを通り越して呆れてしまったが、この場にいる人間は怒り心頭のようだ。わたしは一度目の人生ですでにジルベルトたちのクズっぷりを嫌というほど見たのでそんなものかと思えた。
 だが、他の人は違う。ジルベルトたちがここまでとは思わなかったらしい。期限を設けずさっさと領主から降ろしてしまえばいいとの意見もあったが、徹底的にやってしまえと意見はまとまった。

「国のためとはいえあんな男と一度でも結婚させた自分が許せない。今回ももっと早く婚約破棄させておけばよかった……。やつらには最上級の苦しみを……」

 お父様が激しく後悔している。

「いえ、今回はまだ結婚していないのですが……」
「そういう問題ではない! すでに一度経験しているではないか。リリアーナは前から婚約解消したいと言っていたというのに……」
「リリアーナは何も悪くないからね。リリアーナに保険をかけていたのはジルベルトのほうだろうに……。婚約解消する前からマリーベルと親密になっていただろう? 自分の浮気は棚に上げて、慰謝料の支払いまで渋ろうとする。本当にクズだな……」

 二人とも感情がだだ漏れである。いろいろと怖いことを言っている。この二人なら徹底的にやるだろう。わたしにはもう止められない。



 その後、焦ったジルベルトは一日でも早く癒やしを行おうとマリーベルを呼び寄せた。契約はまだでも近場から癒やしを行わせるつもりらしい。
 マリーベルは嬉しそうに家から出て行った。お母様もマリーベルを助けるためについて行っている。マリーベルが癒やしを行っている最中に結婚式の準備を進めるらしい。どれだけマリーベルがかわいいのか……。
 きっと、わたしにはしてくれないだろうな……。実際に一度目の人生ではしてもらえなかった。
 そう思うと少しさみしい気持ちはあるが、こちらとしては好都合だ。二人がいない間に色々な準備が進められる。わたしもクリストファー様との結婚準備を進めなくてはならない。
 不正のネタもしっかり集めているようだ。


 ジルベルトたちから領地を奪う準備は進んでいる。
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