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36.決着の時

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 わたしたちは不正の証拠を押さえ、王都に戻った。王族殺しの罪もある。ジルベルトを罪に問う準備は完全に整った。
 結果的にクリストファー様が無事だったからよかったものの、かなり危ないことをしたと思う。
 しかし、その甲斐もあってわたしたちが回った土地は皆クリストファー様が領主になってもすんなり受け入れるだろう。回れなかった土地に対しても順調に良い噂が広まっている。
 お世話になった村にはわたしたちのこれからの行動の支障がでないように広めて良いことと駄目なことをしっかりと言い含めた。
 奇跡を目の当たりにした村人たちは真剣に対処してくれた。苦しんでいた村は精霊の怒りを買えばどうなるかわからないと考えたようだ。
 その後、ジルベルトからは『フィオナ嬢にお礼を言いたい』だの『マリーベルと友人に』だの色々言われたらしい。もちろん国王陛下もお父様も却下した。フィオナは今、国外に行っていることになっている。



***
 あっという間にジルベルトとマリーベルの結婚式の日が来た。二人は結婚式を終えたあと、すぐに契約を行う。
 マリーベルはかなり疲れた顔をしていた。化粧をしていても隠しきれていない。ジルベルトのために無理をして土地を癒やしてきたのだろう。契約をしていないため効率が悪いが、国王陛下との約束を守るためには仕方ないようだ。
 今回の人生ではマリーベルはわたしの夫を寝取ったわけでもない。ジルベルトはわたしの婚約者ではあったけれど、わたしも二人が結ばれれば良いと思っていた。マリーベルは一途にジルベルトを思い続けてきただけ。
 マリーベルの姿に本当にこれで良かったのかと胸が痛む。

「マリーベル、おめでとう。あなた、本当に良いの? 疲れた顔をしているけど……。ちゃんと幸せになれる?」
「お姉様、ありがとうございます。わたしは幸せです。お姉様に力が無かったおかげでジルベルト様に選んでいただけました。わたし、ずっとジルベルト様にはわたしがふさわしいと思っていたのです」
「そうね、二人はお似合いだわ。わたしもずっとそう思っていたのよ」
「お姉様は力がないのに婚約を辞退してくれませんでしたよね。早くお姉様の方から辞退してくだされば良かったのに。ジルベルト様はずっと胸を痛めておいででした。早くわたしを正式な婚約者にしたいと……。いつか力に目覚めると思っていたのですか? わたし、ずっと日陰の存在でつらかったのですよ。でも大丈夫です。わたしがジルベルト様をお支えしますから」

 ジルベルトがギリギリまでわたしとの婚約を維持しようとしたのは、あわよくば聖女を二人確保したかったからだろう。そうでなければさっさとマリーベルと婚約すればよかったはずだ。わたしに力が発現したと知れば、二股して一度目の人生と同じことをするだろう。

「何か行き違いがあったようね。わたしは何度も婚約解消のお願いをしていたのよ」
「お姉様、そんな風に虚勢を張らなくても大丈夫ですよ。わたしはちゃんとわかっていますから」

 あぁ、やっぱりマリーベルはマリーベルだ。日陰の存在でつらかったと言いつつわたしを見下し、勝ち誇った顔をしている。
 わたしは一度目の人生でジルベルトとマリーベルの結婚式の時に向けられた表情を思い出した。
 あの時も勝ち誇った顔をしていたっけ。わたしの方がお姉様よりもジルベルト様に愛されているのよって。ちょっと力があるからって長女だからって結婚相手に選ばれたお姉様とは違うのよって。
 でも、今のわたはそんなことは気にならない。
 そんなに愛しているならこれからしっかりジルベルトを支えれば良い。これから大変になるのだから。


 マリーベルたちは結婚式を終え契約に向かった。結婚式はお母様の気合いが入った、豪華な結婚式だった。
 やっぱり可愛い娘の結婚式には気合いを入れるのね。わたしの時とは大違いだ。

 お父様とマリーベルが儀式を始めれば、あとは待つだけである。今回は儀式を見届けるために部屋の外でジルベルトとともにクリストファー様も控えている。わたしはただの親族なのでついてはいけない。お母様たちと別の部屋で待つことになる。

「リリアーナ。今後、マリーベルの足枷になるようなことはやめてちょうだいね。あなたは力が無くてこの家のお荷物なのだから。ジルベルト様たちに迷惑がかからないように一切関わり合いにならないほうがいいわ」
「はい、お母様。今後は一切関わり合いにはなりません、ご安心ください」
「そう? なら良いのだけど。将来はマリーベルの子どもに家を継いでもらいたいわね。マリーベルにはたくさん子どもを生んでもらわないと。早くあなたもどこかに嫁ぎなさい。力のないあなたじゃ難しいかもしれないけど」

 お母様はとても機嫌が良い。けれど、お母様の望みは叶わない。
 本当はわたしもお母様に愛されたかった。でも、二度目の人生ではより溝が深まってしまった。
 自分の努力が足りなかったのだから仕方ない……。
 わたしは自分の暗い気持ちを押し込めて、笑顔でお母様に答えた。

「なるべく早く嫁げるように努力いたします」
「そう。ならいいわ」

 お母様の表情からは何を考えているのかわからない。わたしには正解がわからなかった。

 しばらくしてお父様たちが戻ってきた。みんな困惑し、お父様は青ざめている。お父様もクリストファー様も初めて知ったという顔でかなりの役者だ。

「マリーベルは聖女になれない……」
「どういうことですか? マリーベルはリリアーナと違って力があるではありませんか」

 ジルベルトがお父様に詰め寄る。

「この契約には私の血が必要だ。私の娘であれば問題なく儀式を行える。だが行えなかった……。マリーベルには私の血が流れていないようだ……」
「わたしはお父様の娘です。お姉様と違って力もあります。娘でないというならお姉様のほうではないのですか?」
「血が反応しなかったのだ……。私にもどういうことかわからない」

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