リズの冒険日記

輝安鉱

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チュートリアル

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「協会は、各地から依頼クエストを集め、登録されている冒険者に斡旋しています。その他、冒険者の方々が滞りなく仕事を遂行できるように様々なサポートも行っています」

 アンリさんはカウンターを出て、広いエントランスの右側の壁を指し示した。
 そこにはたくさんのチラシがボードに画鋲で刺し留められている。

「あちらにあるのがクエストボード。協会で引き受けたクエストが掲示されています。冒険者はそこから自分の受けたいクエストを取り、受付で手続きを行います。こちらが過去のサンプルです」

 またカウンターの下から、アンリさんがクエストのチラシを取り出し、書いてあることについて一つ一つ説明してくれた。

「クエスト内容はトルデン領の魔物討伐。依頼者はその地の領主。報酬は大銀貨五枚。こちらはすでに協会の手数料を差し引いた値段となっています。よってクエストを達成すれば、これがそのまま手取りとなります」

 相手がどんな魔物かにもよるが、大銀貨五枚はいい稼ぎだ。お金の価値は下から銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨という感じ。
 貧乏人の私の手元には大体、銅貨か銀貨かしか入らないので、ぽんと大銀貨で支払ってもらえるのは気前よく感じる。さすが命を張る仕事なだけはある。

「このクエストの場合は直接依頼者から報酬を受け取れます。もしその際に支払いを渋られるなどのトラブルが生じた場合は、協会が対応しますので速やかに報告してください」

 冒険者が協会に自分を登録するメリットの大きなところが、そのサポート体制だろう。特に私みたいなまだ半人前にとっては、交渉事をおまかせできるのはありがたい。

「報酬の他に、クエストを達成すると協会が独自に設定しているポイントが加算されます。こちらのクエストの場合は五十ポイントです」

 それは大銀貨五枚の表記の隣に書いてあった。

「クエストから帰還したら受付に達成報告をしてください。メダルにポイント付与の手続きを行います。試しにやってみますね」

 アンリさんが私のポンチョについたメダルに指先を触れる。するとメダルの表面が一瞬だけ青く光った。
 刻印された数字、さっきはゼロだったのに、今は五十となっている。

「これ、魔道具ですか?」
「ええそうです。認証登録されている協会職員だけが操作できます」

 魔道具は魔力を持つ特殊な素材から作られるアイテムで、様々な効果を持つものがあるらしい。すごいすごい、初めて触った。

「ポイントを溜めると冒険者登録のランクが上がります。はじめはブロンズですが、五千ポイントでシルバー、十万ポイントでゴールドランクになります。ランクが上がれば、より高報酬で高難度のクエストを引き受けることができますよ。要するに、ポイントとは信頼度を表しているものなんです」

 よって、とアンリさんは声を低くする。

「もしクエストに失敗した場合は、ここに書いてあるポイントの分だけ現在の保有ポイントから引かれてしまいます。報酬も、これは依頼者との交渉にもよりますが、基本的には入らないと思ってください。その際、協会が冒険者と依頼者との交渉に介入することはありません」

 アンリさんは再び私のメダルに触れ、数字をゼロに戻した。
 協会は冒険者を助けてくれる、けど甘やかすことはしない。ランクを上げても、その後で失敗が続けば容赦なく下げられるんだ。

「ブロンズランクの方が受注できるクエストには、端に仔獅子のマークが押印されています。この中から自分の能力に合わせて、無理せず達成可能なクエストを受注することをおすすめします。また、一人では達成が難しいクエストでは、複数人で受注することも可能です。その場合の成功ポイントは協会側で均等に山分けとします。報酬については仲間内で話し合って分け前を決めても構いませんが、もし揉めるようであれば、協会が立ち会いに入ることもできますよ」
「わかりました。とにかく困ったら協会に相談すればいいんですね?」
「その通り」

 生徒に満点を与える先生のように、アンリさんはにっこり微笑んだ。

「ちなみに、遺跡探索のクエストはどのランクから受けられるようになりますか?」

 私はなにより気になることを確認する。
 アンリさんは即答してくれた。

「基本的にはシルバーからです。モトマの迷宮であればゴールドでないと。遺跡は特殊な罠や魔物との遭遇が多いので」

 なかなか、道のりは遠い。

「でも、シルバーかゴールドランクの人とパーティーを組めば、ブロンズでも上位ランクのクエストに参加することはできますよ」
「えっ、そうなんですか?」
「最初のうちはあまりおすすめしませんが。早く自分のランクを上げるために、上位ランクの人に付いてどんどん高難度クエストに挑戦する人もいますね」
「そんなやり方があるんですか」
「ただ、役立たずでポイントだけもらっていると、寄生虫と呼ばれて先輩方に嫌われるので注意が必要です」

 寄生虫・・・・・・嫌な響きだ。

「わかりました。地道に、がんばってランクを上げてから遺跡には挑戦します」

 十六歳になってすぐに出てきてよかった。ランク上げにどのくらいかかるかわからないもの。
 たとえ上位ランクの人に組んでもらうにしても、それまでにきっとたくさん活躍してなくちゃだめだ。
 カウンターの上でぎゅっと拳を握りしめる。がんばるぞ。

「リズはいい冒険者になると思いますよ」

 不意に言われた。アンリさんの顔は、なんでか嬉しそうに見えた。

「そう、ですか?」
「ええ。だって、自分の力で挑戦してこその冒険者でしょう?」

 ちょっと照れる。でも、ほんとになれたらいいな。村に来ていた冒険者たちみたいに。
 迷宮に挑戦していた彼らは、やはりすごい人たちだったんだなあ。

 ――あ、そうだ。それで思い出した。

「協会とギルドの違いはなんですか?」

 協会とは別に、町にはギルドという冒険者たちのグループがあるという。村に来ていた冒険者たちは、同じギルドの仲間だと言っていた。協会とはどういう関係なのか。

「ギルドは、ある分野に特化している冒険者たちの自主組織です。例えば、魔物討伐を専門としているギルド、採集を専門としているギルドなど、大小含め様々なギルドがあります。魔物討伐専門のギルドに所属していれば、高難度の討伐クエストを協会は優先的にそのギルドへ斡旋します。また世間に名高いギルドであれば、協会を通さず直接クエストを持ち込まれる場合もあります。そのクエストに関しては協会のルールが適用されませんから、ギルドを統括するギルドマスターの裁量で、ランクに関係なく高難度のクエストを受注できます」

「ということは、遺跡探索が専門のギルドに入れば、すぐに遺跡のクエストに行けるかもしれないんですか?」
「ええ。でも遺跡探索についてはベルスター支部にあるギルドが業界の最大手で、クエストは多くがそちらに持ち込まれています。遺跡専門のギルドは数が少ないんですよ。ジランでは討伐ギルドのほうが盛んですね」
「そうですか・・・・・・」

 ベルスターというと、ここからまたさらに西へ行き、大陸を渡らなければならない。そんな路銀はまったく持ってない。

「一般的にギルドは入団試験があります。本当の実力を見られることになるので、ある程度は経験を積んでから挑戦するのがいいと思いますよ」

 やっぱり、近道なんてそうそうないんだ。最初にやるべきことは同じ。
 いいや、大丈夫。こつこつがんばって、お金を貯めていつかベルスターにも行ってみよう。

「他に質問はありますか?」
「ええっと・・・・・・クエストはいつから受けられるようになるんですか?」
「もう受付できますよ。手始めにやってみますか?」
「今からですか? でも」
「指定期間内に達成すればいいので、すぐに行かなくてもいいんですよ。めぼしいクエストは取られやすいので、先に受注手続きを済ませてから準備を整える人が多いです」
「なるほどー。じゃあ選んでみます!」
「最初は近場の採集クエストがおすすめですよ。それと、クエストボードの前ではナンパに気をつけてください」

 さっそくボードのほうへ駆け出そうとしたところ、思わぬことを言われ、急停止する。

「ナンパ? ですか?」
「冒険者になったばかりの若い子を食いものにする人がよくいるんです。協会でも注意はしていますが、自己防衛は怠らないように。『キミ可愛いね。新人? 一緒にクエスト行こうか?』なんて藪から棒に声をかけてくる人には気をつけてください」
「わ、わかりました」

 私自身、この髪色だけでよくからまれるから、身に染みて知っている。
 でも幸い、今はクエストボードの前に人がいなかった。ちょうどすいてる時間だったのかな。なのでいくらか安心して、私はじっくり選ぶことにした。

 えーっと。
 まずはブロンズランクで、一人でもできるもの。お金ないからあんまり遠くまで行かなくていいやつ、と。

 ちょうど良さそうなのは、すぐ近くの森での植物採集というものだった。クエストの依頼者は協会自身で、強壮剤の材料としてたくさん欲しいらしい。
 協会はクエストの斡旋だけでなく、冒険者にとって便利な商品の製造や販売を行っており、その素材集めを冒険者に依頼しているようだ。お金がぐるぐる回ってる。これが経済か。

 よし、このクエストにしよう。
 でも受付に行く前に、ちょっとだけ、ちょこっとだけ、隣のシルバーランクのボードを覗き見する。

 遺跡探索のクエストは、ないかな。何か聞いたことない生き物の討伐依頼とか、貴重そうな素材の採集とかは、色々ある。
 参考資料として不気味な魔物のイラストなどが付いていて、わくわくした。
 いいなあ。私もいつか、すごいクエストをクリアしてみたいなあ。

 そうして夢中になっていたら、急に視界が薄暗くなった。
 後ろの窓から差し込んでいた日が何かに遮られたみたい。

 そして感じる背後の気配。

 首を回してみれば、緑の鱗を肌に貼り付けている、とてもとても大きな【竜人】が、私を覆い隠すようにそびえていた。
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