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ミーと二ーの弓具店
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銀の粉は透明な小瓶の中できらきらしていた。
傾けるとさらさら流れて、きれい。いいなあ。欲しいけどなあ。どうしようかな。
今朝、下宿の主人に近くで冒険に必要な道具を買える店があるか聞いてみたところ、ここ【ミーとニーの家】という謎の店を紹介されたので、試しに来てみた。
狭い店の中の壁に、たくさんの弓や矢がかけられているのを見る限り、メインの客層は弓使いの冒険者なのだろう。
棚には一般的な冒険アイテムも色々そろっており、この間ワントさんにもらって使った銀蝶の粉を見つけ、つい手に取ってしまった。
敵に気づかれず近づける魔法のアイテム。便利だったなあ。討伐クエストの時にはあれば絶対に役立つ。
蓋に付いてる値札を見ると、う、銀貨三枚。大して入ってないのに、けっこうする。
先日の初クエストを終えて手に入れた報酬は、討伐のほうが大銀貨二枚で、採集のほうは銀貨一枚。うち大銀貨一枚はさっそく家賃として下宿の主人に徴収されている。
大銀貨は一枚で銀貨十枚分の価値。だから銀蝶の粉も買えないことはない、ないけど、消耗品に銀貨三枚は痛いなあ。どうしても必要になってから、買おうかな。
その隣には、黄色い丸薬の入った瓶がある。
説明書きが棚の傍の壁に張ってあった。どうやら鏃に付ける毒薬らしい。黄色は麻痺の効果があるそうだ。他にも効果別に色分けがされている。
実はその類の毒薬なら、私も故郷で作ったものを少しだけストックしている。我が家の伝記に製法が記されていた古代の猛毒だ。
効果は恐ろしいほどだが、材料集めが大変なので、あんまり気軽には使いたくない。家の道具がないと追加で作れないし。
簡単に調達できて通常のクエストでも使いやすいものがあればとは思っていた。
値段は、うん、ひと瓶で銀貨二枚。ざっと十本分くらいはありそう。試しに買ってみようかなあ。どうしようかなあ。
「早くなんか買え」
売り場から丸見えの作業場で、弓張りなどをしている店主から野次が飛んできた。
真っ黒な細長い尻尾を揺らす、私とそう年頃の変わらない少女。瞳は白目がなくて、隅々まで真っ黒。髪は右半分が黒くて左半分が白。顔の横から髪と同じ色の三角の耳が生えてる。
【獣人】だ。
と、ひと括りに言うのは乱暴かもしれない。それは体の一部が獣のようである人を総称した言葉でしかなく、種族としてはそれぞれに違った名前があるようなので。
もう一人、まったく同じ色味で、逆に左半分の頭が黒で右半分が白の少女もいて、そちらは会計のカウンターにあぐらを掻き、鉢で何かを練っている。
二人とも顔はそっくりだが、カウンターにいる子はポニーテールで、小上がりの作業場にいる子は短髪だから区別はつく。
たぶん、どちらかが三―で、どちらかが二―なのだろう。
「おすすめは魔石の付いた魔法弓よ」
カウンターの子が手元の作業は止めずにセールストークを始めた。
彼女が指す壁には、色の付いた石を埋め込んだ弓がかけられている。
「【火の弓】は着火剤を付けなくたって火矢が放てる。【氷の弓】は敵を瞬時に氷漬け。【雷の弓】はびりびりぃ! とっても便利でとってもやすーい」
「魔法が使える弓ですか? ふーーん?」
なにそれとっても興味ある。
でも値段、値段が重要だ。さすがに武器となると、消耗品に比べて額が跳ね上がる。
魔石は確か、あらかじめ決まった作用を及ぼす魔法が籠められているアイテムで、一般的に高価とされるものだ。その弓はもしかしたら、魔石が付いている割にお手頃な値段なのかもしれないが、私の全財産を軽く超えてくれていた。
「ばーか、そんなん買える客じゃねえだろ」
作業場の子が遠慮なく言ってくる。ムカッとしたけど、おっしゃる通りで何も言い返せないですちくしょう。
「言っとくが、魔法弓には専用の矢も必要だかんな」
「普通の矢とどう違うんですか?」
「的に当たるまで魔法の効果を発動せず保持できる素材で作ってんの。火矢が飛んでる途中で燃えカスになっちゃ意味ねえだろが。一式そろえたきゃ金貨を持ってこいよ貧乏人」
金貨なんて触ったこともない。
たくさんお金を稼ぐには難しいクエストをこなさなきゃならなくて、クエストをこなすには良い武器やアイテムが必要。それらを買うにはお金がいると。世知辛い。一生お金貯まらないんじゃないかな。
まあ、身の丈に合わせて少しずつそろえようか。
私は麻痺毒の丸薬を取り、カウンターの店主に渡した。こっちの子は愛想が良くて、「これあたしが作ったのよ」と嬉しそうに話していた。
「あんた新人だろ?」
会計が済むまでには、作業場の子がまた話しかけてきた。この子と喋るの嫌だなあ。
「そうですけど……」
「これ試してみねえ?」
一本の矢を差し出してきた。
さっきまでものすごく営業態度が悪かったのに、いきなり矢のサービス? でも試すってなんだろう。
「何か特別な矢なんですか?」
「シャフトの中に、水に触れると反応して爆発する火薬が仕込んである。獣なんかにぶっ刺せば、血に反応して爆発すんの。いいだろ? 試作品やっから感想聞かせろよ」
つまり、新商品を試験したいということみたいだ。
サービスは嬉しい。けど私はちょっと考えた。
「それって雨の日はどうなるんですか?」
「濡れたら爆発するって言ってんだろが」
「だったら矢筒の中で爆発するじゃないですか」
「濡らさなきゃいい。もしくは晴れの日だけ使うとか」
「使い勝手悪過ぎですよ。いらないです」
ちっ、と店主は舌打ちした。
だから営業態度が悪過ぎるよ最初から! 危ない試供品まで勧めてくるし、なんなんだ!
さすがに憤慨していると、もう一人の店主がすかさず間に入り、値札を切った小瓶を渡してくれた。
「ごめんね、ニーのこと怒らないでね。中身ちょっと足しといたよ。また来てね。お願いよ」
商品を渡すついでに、柔らかい手でぎゅっぎゅと握られ、なんというか、ほだされた。
どうやら口の悪いほうが二―で、優しいほうが三―らしい。
店を出て、とりあえず思ったのは、やっぱりお金稼がなきゃってこと。結局、馬鹿にされるのだってそれが原因だもんね。
装備の充実、ランク上げ、とにかくクエストをやりまくるしかない。
買った小瓶をポーチに突っ込み、私はさっそく協会へ走った。
傾けるとさらさら流れて、きれい。いいなあ。欲しいけどなあ。どうしようかな。
今朝、下宿の主人に近くで冒険に必要な道具を買える店があるか聞いてみたところ、ここ【ミーとニーの家】という謎の店を紹介されたので、試しに来てみた。
狭い店の中の壁に、たくさんの弓や矢がかけられているのを見る限り、メインの客層は弓使いの冒険者なのだろう。
棚には一般的な冒険アイテムも色々そろっており、この間ワントさんにもらって使った銀蝶の粉を見つけ、つい手に取ってしまった。
敵に気づかれず近づける魔法のアイテム。便利だったなあ。討伐クエストの時にはあれば絶対に役立つ。
蓋に付いてる値札を見ると、う、銀貨三枚。大して入ってないのに、けっこうする。
先日の初クエストを終えて手に入れた報酬は、討伐のほうが大銀貨二枚で、採集のほうは銀貨一枚。うち大銀貨一枚はさっそく家賃として下宿の主人に徴収されている。
大銀貨は一枚で銀貨十枚分の価値。だから銀蝶の粉も買えないことはない、ないけど、消耗品に銀貨三枚は痛いなあ。どうしても必要になってから、買おうかな。
その隣には、黄色い丸薬の入った瓶がある。
説明書きが棚の傍の壁に張ってあった。どうやら鏃に付ける毒薬らしい。黄色は麻痺の効果があるそうだ。他にも効果別に色分けがされている。
実はその類の毒薬なら、私も故郷で作ったものを少しだけストックしている。我が家の伝記に製法が記されていた古代の猛毒だ。
効果は恐ろしいほどだが、材料集めが大変なので、あんまり気軽には使いたくない。家の道具がないと追加で作れないし。
簡単に調達できて通常のクエストでも使いやすいものがあればとは思っていた。
値段は、うん、ひと瓶で銀貨二枚。ざっと十本分くらいはありそう。試しに買ってみようかなあ。どうしようかなあ。
「早くなんか買え」
売り場から丸見えの作業場で、弓張りなどをしている店主から野次が飛んできた。
真っ黒な細長い尻尾を揺らす、私とそう年頃の変わらない少女。瞳は白目がなくて、隅々まで真っ黒。髪は右半分が黒くて左半分が白。顔の横から髪と同じ色の三角の耳が生えてる。
【獣人】だ。
と、ひと括りに言うのは乱暴かもしれない。それは体の一部が獣のようである人を総称した言葉でしかなく、種族としてはそれぞれに違った名前があるようなので。
もう一人、まったく同じ色味で、逆に左半分の頭が黒で右半分が白の少女もいて、そちらは会計のカウンターにあぐらを掻き、鉢で何かを練っている。
二人とも顔はそっくりだが、カウンターにいる子はポニーテールで、小上がりの作業場にいる子は短髪だから区別はつく。
たぶん、どちらかが三―で、どちらかが二―なのだろう。
「おすすめは魔石の付いた魔法弓よ」
カウンターの子が手元の作業は止めずにセールストークを始めた。
彼女が指す壁には、色の付いた石を埋め込んだ弓がかけられている。
「【火の弓】は着火剤を付けなくたって火矢が放てる。【氷の弓】は敵を瞬時に氷漬け。【雷の弓】はびりびりぃ! とっても便利でとってもやすーい」
「魔法が使える弓ですか? ふーーん?」
なにそれとっても興味ある。
でも値段、値段が重要だ。さすがに武器となると、消耗品に比べて額が跳ね上がる。
魔石は確か、あらかじめ決まった作用を及ぼす魔法が籠められているアイテムで、一般的に高価とされるものだ。その弓はもしかしたら、魔石が付いている割にお手頃な値段なのかもしれないが、私の全財産を軽く超えてくれていた。
「ばーか、そんなん買える客じゃねえだろ」
作業場の子が遠慮なく言ってくる。ムカッとしたけど、おっしゃる通りで何も言い返せないですちくしょう。
「言っとくが、魔法弓には専用の矢も必要だかんな」
「普通の矢とどう違うんですか?」
「的に当たるまで魔法の効果を発動せず保持できる素材で作ってんの。火矢が飛んでる途中で燃えカスになっちゃ意味ねえだろが。一式そろえたきゃ金貨を持ってこいよ貧乏人」
金貨なんて触ったこともない。
たくさんお金を稼ぐには難しいクエストをこなさなきゃならなくて、クエストをこなすには良い武器やアイテムが必要。それらを買うにはお金がいると。世知辛い。一生お金貯まらないんじゃないかな。
まあ、身の丈に合わせて少しずつそろえようか。
私は麻痺毒の丸薬を取り、カウンターの店主に渡した。こっちの子は愛想が良くて、「これあたしが作ったのよ」と嬉しそうに話していた。
「あんた新人だろ?」
会計が済むまでには、作業場の子がまた話しかけてきた。この子と喋るの嫌だなあ。
「そうですけど……」
「これ試してみねえ?」
一本の矢を差し出してきた。
さっきまでものすごく営業態度が悪かったのに、いきなり矢のサービス? でも試すってなんだろう。
「何か特別な矢なんですか?」
「シャフトの中に、水に触れると反応して爆発する火薬が仕込んである。獣なんかにぶっ刺せば、血に反応して爆発すんの。いいだろ? 試作品やっから感想聞かせろよ」
つまり、新商品を試験したいということみたいだ。
サービスは嬉しい。けど私はちょっと考えた。
「それって雨の日はどうなるんですか?」
「濡れたら爆発するって言ってんだろが」
「だったら矢筒の中で爆発するじゃないですか」
「濡らさなきゃいい。もしくは晴れの日だけ使うとか」
「使い勝手悪過ぎですよ。いらないです」
ちっ、と店主は舌打ちした。
だから営業態度が悪過ぎるよ最初から! 危ない試供品まで勧めてくるし、なんなんだ!
さすがに憤慨していると、もう一人の店主がすかさず間に入り、値札を切った小瓶を渡してくれた。
「ごめんね、ニーのこと怒らないでね。中身ちょっと足しといたよ。また来てね。お願いよ」
商品を渡すついでに、柔らかい手でぎゅっぎゅと握られ、なんというか、ほだされた。
どうやら口の悪いほうが二―で、優しいほうが三―らしい。
店を出て、とりあえず思ったのは、やっぱりお金稼がなきゃってこと。結局、馬鹿にされるのだってそれが原因だもんね。
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