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屋台の朝食
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協会の傍の道には、屋台が多数並んでいた。
これらはクエストに出かける前の冒険者たちをターゲットにしているもので、昼を過ぎる頃には自然といなくなる。
町の冒険者たちの食事は基本的に外食。
自分の家を持っていて、キッチンでゆっくり食事を作れる人は少なく、私のように寝泊まりできるだけの下宿で生活をしている人が大部分を占める。
下宿も食事付きだったりそうじゃなかったり色々。私のところは食事が出て来ないタイプ。キッチンは使ってもいいと言われているが、調理に必要な薪や食材などは自分で用意しなければならない。
なので、普段は安い屋台で食事を済ませ、クエスト中は鳥でも射って食べるのが簡単で節約になる気がする。
今朝も香ばしい匂いに食欲をそそられる。たくさんお店があるから無限に迷える。でも、先にクエストを選んでからだ。屋台はそうそう売り切れないが、めぼしいクエストは早くしないと取られてしまう。
――と思ったのだが、視界に見覚えのある尻尾を見つけた。
緑青の鱗に覆われ、先のほうに白い毛が生えているもの。
串焼きの屋台に行って覗き込むと、やっぱりワントさんだった。
「おはようございますワントさん!」
ちょうど赤いタレのたっぷりついた肉に齧り付くところで、大きな口の中が見えた。
「おー、リズ。おはよう。今日は元気?」
「はい! めちゃくちゃ元気です!」
「よしよし」
お父さんがするみたいに頭をなでられた。ワントさん、私の頭くらいなら片手で掴んで持ち上げられそう。
燃える石の上で肉を焼いている屋台のお兄さんも、どうやら似たようなことを感じたらしく、「お前の娘?」なんてワントさんに訊きだした。
「なんでだよ」
ワントさんは笑みを引っ込め、店主に呆れた顔を見せる。
「いや髪の色が一緒だから」
「こんな大きい子供がいる年じゃないよ俺」
「竜人の年なんて見た目でわかんねーよ」
屋台のお兄さんは人族だ。見たところ二十代後半な感じ。二人とも仲が良さそうだ。そういえばワントさんはいくつなんだろうか。
なんてことを考えていたら、お兄さんにワントさんがもうひと串頼み、当然のようにこちらへよこしてきた。
おっと、たかりに来たみたいになってるぞ私。
「いくらですか?」
「いいよ。おごる」
「大丈夫です! クエスト報酬入ったので!」
「でも最初の頃はなかなかお金貯まんないだろ? 俺もよく人におごってもらってた。今だけの新人特権だ、存分に活用したほうがいい」
「なんだ新人なの?」
額の汗を拭い、お兄さんが私のほうへ黒い瞳を向ける。
「あ、はい、リズです!」
「昨日、一緒に初クエスト行ってきたところ」
「はいはいそういうことな。だったら俺がおごってやるよ」
さらっと言われた。どうあってもおごられるのか私。
「いいんですか?」
「いいのいいの。ワントも言ったけど、こんなん最初だけだから。今後はあんたがたとえ俺の店の前で行き倒れようが絶対おごってやんねーから安心しろ」
「全然安心できませんけど、わかりました。そういうことなら遠慮なく!」
肉の塊に齧り付く。
赤いタレはベースが甘く、黄色い粒々が混ざっていて、それを噛むと辛味が鼻を抜ける。こういう香辛料は初めて。癖になりそうだ。
ジランの町には新しい味覚がたくさんあって、何を食べても楽しい。
「リズ、今日のクエストはもう決めた?」
「いえこれからです。ワントさんはまた残飯ですか?」
もう口にしてしまってからなんだが、残飯って言い方失礼じゃないんだろうか。
ワントさんは普通に頷きを返してくれる。
「よかったらリズも一緒に行かないか?」
「え? またいいんですか?」
「うん。リズがいいんだ」
ワントさんはクエストのチラシを見せてくれた。
町から東の鉱山跡地に巣食っている、ヴィヴィという虫の駆除という内容だった。楕円型の体に、四本の鉤爪のついた足を持っている、羽の生えた虫のイラストが付いている。大きさは人の赤ちゃんくらいあるらしい。まあまあ気持ち悪い。
「鳥を射るのが得意だって言ってただろ? これ見つけた時に真っ先にリズを誘おうと思ったんだよ」
「飛んでるやつを射落とせばいいんですね?」
「その間に俺が巣を燃やす。どう?」
報酬は大銀貨八枚。ポイントも百だ。半分にしたってポポルの時の報酬の倍!
どうやら駆除する巣の数が多いためそうなっているようだ。ヴィヴィ自体の強さは大したことはないらしい。
とてもいいクエストだ。二度も新人の面倒をみてくれるなんて、ワントさん優し過ぎないだろうか?
「私でよければぜひ! ご一緒したいです!」
「よかった、よろしく。俺、受付してくるからリズは先に準備しといて。また協会前集合で」
「はい!」
さっさと食べ終えてしまったワントさんを見送り、私も準備をするため急いで残りを片付ける。
すると後ろから肩を叩かれた。
振り返れば屋台のお兄さんが、何か奥歯に物でも詰まっているような顔をしていた。
「あー……色々と、気をつけろ? 新人さん」
「? はい。ありがとうございます」
気をつけてクエストに行ってこいという意味だろうと思った。
だけどお兄さんは苦笑いして、「うっかり食われないようにな」なんて言うので、ヴィヴィは人を食べるのかとびっくりして訊き返したら、早く行けと追い払われた。
これらはクエストに出かける前の冒険者たちをターゲットにしているもので、昼を過ぎる頃には自然といなくなる。
町の冒険者たちの食事は基本的に外食。
自分の家を持っていて、キッチンでゆっくり食事を作れる人は少なく、私のように寝泊まりできるだけの下宿で生活をしている人が大部分を占める。
下宿も食事付きだったりそうじゃなかったり色々。私のところは食事が出て来ないタイプ。キッチンは使ってもいいと言われているが、調理に必要な薪や食材などは自分で用意しなければならない。
なので、普段は安い屋台で食事を済ませ、クエスト中は鳥でも射って食べるのが簡単で節約になる気がする。
今朝も香ばしい匂いに食欲をそそられる。たくさんお店があるから無限に迷える。でも、先にクエストを選んでからだ。屋台はそうそう売り切れないが、めぼしいクエストは早くしないと取られてしまう。
――と思ったのだが、視界に見覚えのある尻尾を見つけた。
緑青の鱗に覆われ、先のほうに白い毛が生えているもの。
串焼きの屋台に行って覗き込むと、やっぱりワントさんだった。
「おはようございますワントさん!」
ちょうど赤いタレのたっぷりついた肉に齧り付くところで、大きな口の中が見えた。
「おー、リズ。おはよう。今日は元気?」
「はい! めちゃくちゃ元気です!」
「よしよし」
お父さんがするみたいに頭をなでられた。ワントさん、私の頭くらいなら片手で掴んで持ち上げられそう。
燃える石の上で肉を焼いている屋台のお兄さんも、どうやら似たようなことを感じたらしく、「お前の娘?」なんてワントさんに訊きだした。
「なんでだよ」
ワントさんは笑みを引っ込め、店主に呆れた顔を見せる。
「いや髪の色が一緒だから」
「こんな大きい子供がいる年じゃないよ俺」
「竜人の年なんて見た目でわかんねーよ」
屋台のお兄さんは人族だ。見たところ二十代後半な感じ。二人とも仲が良さそうだ。そういえばワントさんはいくつなんだろうか。
なんてことを考えていたら、お兄さんにワントさんがもうひと串頼み、当然のようにこちらへよこしてきた。
おっと、たかりに来たみたいになってるぞ私。
「いくらですか?」
「いいよ。おごる」
「大丈夫です! クエスト報酬入ったので!」
「でも最初の頃はなかなかお金貯まんないだろ? 俺もよく人におごってもらってた。今だけの新人特権だ、存分に活用したほうがいい」
「なんだ新人なの?」
額の汗を拭い、お兄さんが私のほうへ黒い瞳を向ける。
「あ、はい、リズです!」
「昨日、一緒に初クエスト行ってきたところ」
「はいはいそういうことな。だったら俺がおごってやるよ」
さらっと言われた。どうあってもおごられるのか私。
「いいんですか?」
「いいのいいの。ワントも言ったけど、こんなん最初だけだから。今後はあんたがたとえ俺の店の前で行き倒れようが絶対おごってやんねーから安心しろ」
「全然安心できませんけど、わかりました。そういうことなら遠慮なく!」
肉の塊に齧り付く。
赤いタレはベースが甘く、黄色い粒々が混ざっていて、それを噛むと辛味が鼻を抜ける。こういう香辛料は初めて。癖になりそうだ。
ジランの町には新しい味覚がたくさんあって、何を食べても楽しい。
「リズ、今日のクエストはもう決めた?」
「いえこれからです。ワントさんはまた残飯ですか?」
もう口にしてしまってからなんだが、残飯って言い方失礼じゃないんだろうか。
ワントさんは普通に頷きを返してくれる。
「よかったらリズも一緒に行かないか?」
「え? またいいんですか?」
「うん。リズがいいんだ」
ワントさんはクエストのチラシを見せてくれた。
町から東の鉱山跡地に巣食っている、ヴィヴィという虫の駆除という内容だった。楕円型の体に、四本の鉤爪のついた足を持っている、羽の生えた虫のイラストが付いている。大きさは人の赤ちゃんくらいあるらしい。まあまあ気持ち悪い。
「鳥を射るのが得意だって言ってただろ? これ見つけた時に真っ先にリズを誘おうと思ったんだよ」
「飛んでるやつを射落とせばいいんですね?」
「その間に俺が巣を燃やす。どう?」
報酬は大銀貨八枚。ポイントも百だ。半分にしたってポポルの時の報酬の倍!
どうやら駆除する巣の数が多いためそうなっているようだ。ヴィヴィ自体の強さは大したことはないらしい。
とてもいいクエストだ。二度も新人の面倒をみてくれるなんて、ワントさん優し過ぎないだろうか?
「私でよければぜひ! ご一緒したいです!」
「よかった、よろしく。俺、受付してくるからリズは先に準備しといて。また協会前集合で」
「はい!」
さっさと食べ終えてしまったワントさんを見送り、私も準備をするため急いで残りを片付ける。
すると後ろから肩を叩かれた。
振り返れば屋台のお兄さんが、何か奥歯に物でも詰まっているような顔をしていた。
「あー……色々と、気をつけろ? 新人さん」
「? はい。ありがとうございます」
気をつけてクエストに行ってこいという意味だろうと思った。
だけどお兄さんは苦笑いして、「うっかり食われないようにな」なんて言うので、ヴィヴィは人を食べるのかとびっくりして訊き返したら、早く行けと追い払われた。
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