リズの冒険日記

輝安鉱

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祝勝の丸焼き

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 三匹目の子ポポルは、とどめを刺すまでもなく息絶えていた。

「お、心臓に刺さってる」

 ワントさんがナイフで腹を開き、肉をほじくって矢を返してくれた。シャフトも曲がっていないので洗えば再利用できそう。
 前足の付け根の奥に心臓があったようで、うまいこと仕留められたみたい。

「全部一撃か。リズ大活躍だったなあ」
「お邪魔じゃなかったですか?」
「全然。俺たちけっこう相性いいよ。戦闘スタイル的にお互い補助し合える」

 そう言ってもらえたのは嬉しい。ただワントさんの能力が高過ぎるので、まあ、私を庇いながらでも余裕で戦えたって意味かなと思う。
 もし次に討伐クエストなどで誰かと組むことがあれば、まず戦い方の相性を確認するといいのかもしれない。参考になった。

 ワントさんは会話しながら、手際よく皮を剥がしていく。

「リズは狩りに慣れてる感じだよな?」
「はいっ。故郷の森では弓の練習のためによく鳥を射ってました。私は滅多に外さないですよっ。古代魔術がありますから」
「古代魔術?」

 ワントさんとはまだ、お互いのことについてあまり話し込んではいなかったので、彼は私を単なる弓使いだと思っていただろう。とはいえ大した正体ではないけれど。
 クエスト成功の緩んだ空気の中で、雑談がてら私は冒険者になったおおまかな経緯を説明した。
 その間に皮を剥がされた子ポポルは、ワントさんの大剣に丸ごと串刺しにされ、簡単に石と枝で組んだ竈に架けられ、丸焼きになった。これが今日の昼食だ。

「――迷宮から回収された遺物に、古代魔術が刻印されてた?」

 いい感じに炙れてきたところからナイフで肉を削ぎ、ワントさんは味見がてら塩を軽く振って食べさせてくれた。
 いくらか焦げている表面がぱりぱりしておいしい。塩だけでもいける。
 ワントさん、最初からこのつもりで準備してくれていたんだろうな。ありがたい。

「一つ目は腕輪でした。二つ目はチョーカー。どちらも内側に古代文字が刻印されていました。調査に来ていた考古学者が、特別に少しだけ触らせてくれたんです。そうしたら、刻まれていた文字が腕に移って」

 私は両腕のシャツの袖をまくってみせる。
 肘と手首の間、腕の内側の皮膚に、痣のように文字が黒く浮いている。

「なんて書いてあるんだ?」
「直訳すると、右側が【この世のすべてあなたの獲物】。左側が【あなたの前では無力】です。遺物に刻印されていた文字は消えてしまって、私はその日から魔術を使えるようになりました」
「どんな魔術?」
「【この世のすべてあなたの獲物】は、遠くのものも近くにあるかのように大きく見えます。それと暗闇の中でも、昼間と同じようにはっきり見えます。これで狙ったものにはほぼ確実に矢が当たります」

 魔術の発動に特別な動作はない。この一つ目の魔術に関しては、無意識に発動してしまっている時すらある。

「お。片目になんか、バツの模様が」

 ワントさんが私の右目を覗き込む。
 そうそう、この魔術を発動している時は瞳の中にバツ印が現れているらしい。姉のリザにも言われた。
 私は一度目を閉じて、魔術を切った。

「もう一つの魔術は? 二つあるんだろ?」
「じゃあ、私に殴りかかってみてください」
「うぇ? なんで?」
「やったほうが、たぶんわかりやすいです。でもたまに失敗するので軽く当てるくらいでお願いします」
「すごい不安。俺、仲間は殺したくないんだけど」
「こ、殺すほどの力は入れないでいただければっ」
「いやだって、そんな細い体してさあ。俺がちょっと殴ったら死んじゃうだろ」
「さすがに、そこまでは……」

 不安になることを言う。大剣ぶん投げて大型獣を仕留めるような人だもんなあ。けど、たぶん、失敗しないとは思う。リザといっぱい特訓したし。

 せめて平手でということになり、ワントさんはおっかなびっくり、肩のあたりを狙って右手をゆっくり動かした。私は地面に座り込んでいるそのまま、攻撃を待ち構える。
 すると体に当たる少し手前で、急にワントさんの体勢が崩れた。

「ぅおっ?」

 本人は、もちろん自分の意思で地面に手を突いたわけじゃないから、驚いている。

「い、いきなり力抜けたっ」
「【あなたの前では無力】の魔術です!」
「……敵を無力化するってこと?」
「私を攻撃しようとする力だけを打ち消す魔術みたいです。魔術にかかった人の力が全部なくなるというわけじゃなくて」

 事実、ワントさんは問題なく身を起こす。
 要するに魔術が効くのは、その一瞬の攻撃に対してだけってことだ。

「魔法使いの張る防御壁と実質の効果的には同じか。ちなみに魔法も無効化できる?」
「魔法を受けたことがないので、わかんないです。でも、投げられた石や矢は途中で落ちるので、もしかしたら?」
「直接と間接攻撃のどっちにも有効ってことか。いいなそれ」
「他にも古代魔術を刻んだ遺物がこの世にあるかもしれません。遺跡を探索していけば、我が家がアーデイティシルの末裔だってことを証明する何かだって、あるかも。私はそれを見つけたいんです。今はまだ遺跡に入れるレベルじゃないですけど、いつかはきっと! ゴールドランクになってモトマの迷宮も攻略します!」

 力いっぱい宣言しておく。
 優しい竜人さんは、まだまだ道のり遠い未熟者の夢を笑わないでくれた。

「いいね。冒険者の王道って感じがする。リズが迷宮に行く時は俺も誘ってよ」

 それどころかノリ良く言ってくれて、私のほうがちょっと戸惑った。

「わ、私よりも、ワントさんのほうが迷宮に入れるようになるの早いと思いますがっ」
「だったら、その時は俺が誘うよ」
「え!? ほんとですか!?」
「リズもそれまでにシルバーランクにはなっといてくれ」
「なります! 絶対なります!」

 わ、あぁ、ほんとかな? 冗談じゃないかな? こんな強い人が一緒に行ってくれるなら頼もし過ぎる。
 もちろんまだずっと先の話で、なんにも確約できることなんかないが、私は目の前がどんどん拓けていくように感じた。
 故郷で遺物の洗浄を手伝っているだけでは、絶対に現れなかった道だ。

 ワントさんはそろそろいい感じに火が通ってきたポポルを切り分け、左の腿の部分を私にくれ、自分は右の腿の部分を持って掲げる。

「じゃ、これからよろしく」
「はい! よろしくお願いします!」

 乾杯するように骨付き肉を打ち合わせて、私は初めての成功の味を噛みしめた。
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