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はじめての討伐
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木の後ろに潜み、草に見え隠れする獣の影を窺う。
ポポルは体毛が血のように隅々まで赤く、背中が山のように三角に尖っている。下顎から二本、伸びている牙は太く鋭い。
成獣はちょっとした小屋くらいの大きさ。その足元を子豚が三匹ちょろちょろしてる。
親子四匹で何かの獣の死骸を貪っていた。
ワントさん曰く、ポポルは雑食性。果実や木の皮を剥いで食べたりもするし、狩りをすることもある。特に子供がいる時期は気が立って、好戦的になるというのは他の獣と同様。
ポポルは魔物ではない。
彼らは魔力を持たない。だから遺跡にいる怪物のような魔法みたいな力は使わない。でも突進だけで大木を倒すほどのパワーがあるらしい。
私たちはネバ草を採っていた場所から足跡や血の跡を辿り、ポポルの一家を見つけた。
普通、人間の目に見える距離まで近づいたら、獣のほうが先にこちらに気づくものだが、私はワントさんからもらって【銀蝶の粉】を体に振りかけている。
このアイテムは体臭を消してくれるそう。それと気配を悟られにくくする魔法が少しかっているのだそうだ。その上、ポポル一家は食事中なので私たちの接近にはまだ気づかない。
作戦は簡単。
ワントさんが親を倒し、私が子供を射る。ただ一つ問題があった。
「オスがいない」
こちらの耳元に顔を寄せ、ワントさんは息の音だけで喋る。
「ポポルは夫婦で子供を育てる。たぶん離れたところにオスがいる。周りには注意しておいて」
「わかりました。子供を仕留めたら私は周囲の警戒にあたります」
「ん。何度でも確認するけど、いいか? リズは自分の身を守ることが最優先。俺の援護は考えなくていい」
「わかりました」
「よし。じゃあ最初の一矢を頼む」
私はすでに矢をつがえている弓を引き絞った。
狙いの先へじっと目を凝らすと、急に、そこがまるで触れられるほどすぐ傍にあるかのように拡大され、毛の一本一本まで詳細に見えるようになる。
これが、アーデイティシルの秘術の一つ。目に見える的は絶対に外さない。
私は、限界まで緊張している弦を静かに離した。
黒木の矢は吸い込まれるように、夢中で肉を啜る子豚の小さな目に深く刺さった。
子供が一匹倒れ、他の家族が異常に気付く。
と同時にワントさんが飛び出した。腰の大剣を抜き、うろたえる成獣へ斬りかかる。
私はすぐ次の矢をつがえ、残りの二匹を狙った。
地が震えるような成獣の咆哮に歯を食いしばり、もう一匹も目を射った。子供の頭は小さく、おそらく鏃は脳まで届き、二、三歩よろめき倒れ伏す。
だが最後の一匹はすでに駆け出していた。母や兄弟の惨状には目もくれない。
だから前足の付け根を狙った。
腹のほうに少しでもずれると、そこには毛が岩のように変質した装甲があり、矢が弾かれてしまう。しかし悠長に狙いを付けている暇はなく、私は引き絞った矢を一瞬後に放った。
刺さった、そこまでは目視した。
死んだかはわからない。ただ足の付け根に刺さればうまく走れなくなるはずだ。追いかけてとどめを刺せばいい。
でも、それは後回し。
何か地響きのような音が聞こえてきた。
急いで手近な木に上り、幹の股の間に立って辺りを見回した。
私の目は暗い森の陰の中までも、どこまでも見通せる。視界にあるうちならば、どこでも拡大して詳細に確かめられる。
だけどもうソレは、とっくに間近に迫っていた。
「もう一匹来ましたっ!!」
先に叫んで、次に幹を蹴った。
私の登っていた木に、ワントさんが相手にしているメスよりもさらに一回り大きなオスのポポルが体当たりをしたのだ。
その衝撃も相まって、私は宙に高く放り出された。
視界の天地は逆転している。
「リズ!」
ワントさんは、メスの首に半ばまで突き刺した大剣から手を離し、そのバネの強い足で飛び上がると、私を空中でキャッチしてくれた。
それを幸いとし、私は着地すると同時、彼の肩越しに弓を引き絞り、放った。
宙に弾き出される前から矢を一本右手に持っていたんだ。
矢が左目に刺さり、オスが体をのけぞらせる。
怯んでいる間にもう一本つがえて右目にも当てた。
ワントさんは私を地面に下ろすと、メスの首に刺さったままの大剣の柄を両手で握り、横に肉を引き裂きながら刃を取り出した。
そして視界を塞がれ暴れ回るオスの首めがけ、ぶん投げた。
一体どれだけの筋力があれば、そんなことができるのかわからない。
けれど実際に大剣は根本までオスの首に突き刺さり、間もなく、死んだ。
血だまりが死体の下で湖のようになっている。子供の死体がそれに半分沈んでいる。
……終わっ、た?
周囲を見回す。敵の影は、気配は――ない、かな。
自分の息切れの音と、ばくばくする心臓の音がうるさくて、あんまりよくわからない。
「リズ」
ワントさんの呼びかけにすら、過剰に驚いてしまった。
手足を血塗れにして、でも顔や髪はほとんど汚れておらず、朗らかに彼は笑っている。
「初クエスト達成っ。おめでとう!」
どうやら、ほんとに、終わったらしい。
するとまた別の興奮が生まれて、ワントさんがちょっと低めに上げてくれた手のひらに、私は力いっぱい右手を叩きつけた。
ポポルは体毛が血のように隅々まで赤く、背中が山のように三角に尖っている。下顎から二本、伸びている牙は太く鋭い。
成獣はちょっとした小屋くらいの大きさ。その足元を子豚が三匹ちょろちょろしてる。
親子四匹で何かの獣の死骸を貪っていた。
ワントさん曰く、ポポルは雑食性。果実や木の皮を剥いで食べたりもするし、狩りをすることもある。特に子供がいる時期は気が立って、好戦的になるというのは他の獣と同様。
ポポルは魔物ではない。
彼らは魔力を持たない。だから遺跡にいる怪物のような魔法みたいな力は使わない。でも突進だけで大木を倒すほどのパワーがあるらしい。
私たちはネバ草を採っていた場所から足跡や血の跡を辿り、ポポルの一家を見つけた。
普通、人間の目に見える距離まで近づいたら、獣のほうが先にこちらに気づくものだが、私はワントさんからもらって【銀蝶の粉】を体に振りかけている。
このアイテムは体臭を消してくれるそう。それと気配を悟られにくくする魔法が少しかっているのだそうだ。その上、ポポル一家は食事中なので私たちの接近にはまだ気づかない。
作戦は簡単。
ワントさんが親を倒し、私が子供を射る。ただ一つ問題があった。
「オスがいない」
こちらの耳元に顔を寄せ、ワントさんは息の音だけで喋る。
「ポポルは夫婦で子供を育てる。たぶん離れたところにオスがいる。周りには注意しておいて」
「わかりました。子供を仕留めたら私は周囲の警戒にあたります」
「ん。何度でも確認するけど、いいか? リズは自分の身を守ることが最優先。俺の援護は考えなくていい」
「わかりました」
「よし。じゃあ最初の一矢を頼む」
私はすでに矢をつがえている弓を引き絞った。
狙いの先へじっと目を凝らすと、急に、そこがまるで触れられるほどすぐ傍にあるかのように拡大され、毛の一本一本まで詳細に見えるようになる。
これが、アーデイティシルの秘術の一つ。目に見える的は絶対に外さない。
私は、限界まで緊張している弦を静かに離した。
黒木の矢は吸い込まれるように、夢中で肉を啜る子豚の小さな目に深く刺さった。
子供が一匹倒れ、他の家族が異常に気付く。
と同時にワントさんが飛び出した。腰の大剣を抜き、うろたえる成獣へ斬りかかる。
私はすぐ次の矢をつがえ、残りの二匹を狙った。
地が震えるような成獣の咆哮に歯を食いしばり、もう一匹も目を射った。子供の頭は小さく、おそらく鏃は脳まで届き、二、三歩よろめき倒れ伏す。
だが最後の一匹はすでに駆け出していた。母や兄弟の惨状には目もくれない。
だから前足の付け根を狙った。
腹のほうに少しでもずれると、そこには毛が岩のように変質した装甲があり、矢が弾かれてしまう。しかし悠長に狙いを付けている暇はなく、私は引き絞った矢を一瞬後に放った。
刺さった、そこまでは目視した。
死んだかはわからない。ただ足の付け根に刺さればうまく走れなくなるはずだ。追いかけてとどめを刺せばいい。
でも、それは後回し。
何か地響きのような音が聞こえてきた。
急いで手近な木に上り、幹の股の間に立って辺りを見回した。
私の目は暗い森の陰の中までも、どこまでも見通せる。視界にあるうちならば、どこでも拡大して詳細に確かめられる。
だけどもうソレは、とっくに間近に迫っていた。
「もう一匹来ましたっ!!」
先に叫んで、次に幹を蹴った。
私の登っていた木に、ワントさんが相手にしているメスよりもさらに一回り大きなオスのポポルが体当たりをしたのだ。
その衝撃も相まって、私は宙に高く放り出された。
視界の天地は逆転している。
「リズ!」
ワントさんは、メスの首に半ばまで突き刺した大剣から手を離し、そのバネの強い足で飛び上がると、私を空中でキャッチしてくれた。
それを幸いとし、私は着地すると同時、彼の肩越しに弓を引き絞り、放った。
宙に弾き出される前から矢を一本右手に持っていたんだ。
矢が左目に刺さり、オスが体をのけぞらせる。
怯んでいる間にもう一本つがえて右目にも当てた。
ワントさんは私を地面に下ろすと、メスの首に刺さったままの大剣の柄を両手で握り、横に肉を引き裂きながら刃を取り出した。
そして視界を塞がれ暴れ回るオスの首めがけ、ぶん投げた。
一体どれだけの筋力があれば、そんなことができるのかわからない。
けれど実際に大剣は根本までオスの首に突き刺さり、間もなく、死んだ。
血だまりが死体の下で湖のようになっている。子供の死体がそれに半分沈んでいる。
……終わっ、た?
周囲を見回す。敵の影は、気配は――ない、かな。
自分の息切れの音と、ばくばくする心臓の音がうるさくて、あんまりよくわからない。
「リズ」
ワントさんの呼びかけにすら、過剰に驚いてしまった。
手足を血塗れにして、でも顔や髪はほとんど汚れておらず、朗らかに彼は笑っている。
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