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ソロデビュー
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朝。
昨日キッカに勧められた屋台で豆のプナンを食べ、私はまっすぐ協会へ向かった。
しばらくクエスト漬けだったキッカは、今日を久しぶりの休日にするそうだ。この辺、自分で裁量できるところが冒険者の良いところだろうか。
今朝のクエストボードの前の混雑はそこそこ。
採集クエスト、討伐クエスト、その他諸々、内容ごとに分類されてボードに張り出されている。
その中で、特に目立つ赤丸を付けられているチラシがいくつかあった。
よく見ると、そのどれも受注できる期間が短い。チラシの発行日が今日で、達成は『本日中』なんて書いてあるものもある。どうやら急ぎのクエストに印が付けられているようだ。
私にもできることだったら、それらのクエストを優先的に受けたほうがきっといいんだろう。
そこでちょうど目に付いたのは、先日行ったばかりのティーラ村への配達クエストだった。
ジランにある店で【朝日の衣】という服を受け取り、依頼主のもとに届けるというもの。
報酬は銀貨五枚でポイントは三十。
ちょっと遠いが、道のりは覚えているし、間の森に出ていた賊は退治して安全も確保されている。お金にもある程度余裕ができてきたので、グラーザを借りれば明日には届けられるだろう。
よし、やってみるか。
背伸びしてチラシを取り、受付へ持って行く。
今朝もアンリさんの姿がカウンターにあった。
「おはようございます! クエストの受付お願いします!」
「はい、おはようございます。冒険者生活には慣れてきました?」
受注手続きが済むまで、アンリさんと少し雑談。
協会の中はだんだん賑やかになってきて、背後の人の気配が増えていく。
それで私はなんとなく、周りをきょろきょろしてしまった。
「今朝はワントさん来てないですか?」
「そうですね。まだ見かけていませんが、今日もクエストの約束を?」
「いえっ。ただ今までずっと一緒だったので、つい探してしまって」
別に、今日のクエストは一人でも大丈夫なやつだからいいんだ。
何が不安なわけじゃない。勝手な刷り込みで、またワントさんが現れて、誘ってくれそうな気がしてしまってるだけ。
「では初めての単独クエストですね。怪我をしないように、がんばってください」
「はい!」
装備は十全。気力・体力も十分。アンリさんからのエールももらえた。
独り立ちには最善の状態だろう。
もう周りは気にせず、私は小走りに協会を出た。
⛏
【朝日の衣】というのは、ジランの街中にある服飾店の商品の一つだった。
まっ白な、まさに朝の光を織り込んだように生地に光沢のある美しいワンピース。折り畳んでも皺一つつかない、特別な糸で作られたものらしい。
なんでも、依頼主の娘さんが嫁ぐお祝いとして注文したものだそうだ。
すでに代金が支払われているそれを受け取り、私は丁重にリュックの中にしまった。
そのために携帯食料などはポケットに移し、荷物は最小限にしておいた。
荷物を受け取ったらグラーザの乗り場に向かう。下手に転んだりしないように、あまり走らず。
街道横の草原で、グラーザたちは今日ものんびり放牧されていた。
「すみませーん、グラーザ一頭いくらですか?」
長い釣り竿のような鞭を持っている、とんがり帽子をかぶった調教師に声をかける。
農家のおじさんのようなその人は、のんびりと対応してくれた。
「何日借りたいの?」
「二日くらいです。ティーラ村まで往復で」
「だったら銀貨二枚だねえ。延滞で一日につき銀貨二枚追加料金だけども、一日か二日くらいだったらおまけしてあげるよぉ」
「じゃあそれで!」
思ったよりずっと安かったので、値切り交渉はしないでおいた。急ぎの仕事でもあることだし。
「お嬢ちゃん、きっと新人さんだよねえ? そんな子にはベテランのキアリを貸してあげようねえ」
そう言っておじさんが連れてきたのは、鼻先の角が少し小さいメスのグラーザだった。
灰色の肌の皺が、やや深いように見える。
岩のごとく体躯は貫禄たっぷりだが、私が手を出すと白目のない黒い瞳を細めて、かさかさの上唇で手のひらをくすぐってくれた。口の中には一つ一つが拳より大きな平たい歯が並んでいて、それが軽く指先に当たった。
「鞍には一人で乗れるかい? 鐙に足が届かない時は、キアリに持ち上げてもらいなさいね」
グラーザの背は丸く盛り上がっている。特にキアリは大きい個体だったので、鞍から垂れ下がっている鐙の位置がだいぶ高かった。足をほとんど顔の位置まで上げなきゃ鐙に引っ掛けられない。
なのでおじさんに教わり、キアリの鼻の頭に片足を乗せ(少し悪いことをしているような気分になった)、キアリ自身に私を持ち上げてもらい、背中に乗せてもらった。
鞍は私が二人くらい乗れそうなスペースがある。
いちおう手綱もあるが、ほとんど操ることは考えなくていいと言われた。出発の時に踵で一度だけ体を叩き、速度を上げる時は二度叩く。手綱は止まる時や、速度を落としたい時にだけ軽く引くそうだ。
「ティーラの村ならキアリは道を覚えているよ。寝ていたって勝手に着くさあ」
「それなら安心ですね。キアリ、よろしくお願いします」
ぐぁ、とキアリは小さく鳴く。
冒険の先輩である彼女の助けがあれば、きっとうまくいくだろう。
グラーザおじさんに手を振ったら、私はさっそく二度の合図を入れて、街道を風とともに走り出した。
昨日キッカに勧められた屋台で豆のプナンを食べ、私はまっすぐ協会へ向かった。
しばらくクエスト漬けだったキッカは、今日を久しぶりの休日にするそうだ。この辺、自分で裁量できるところが冒険者の良いところだろうか。
今朝のクエストボードの前の混雑はそこそこ。
採集クエスト、討伐クエスト、その他諸々、内容ごとに分類されてボードに張り出されている。
その中で、特に目立つ赤丸を付けられているチラシがいくつかあった。
よく見ると、そのどれも受注できる期間が短い。チラシの発行日が今日で、達成は『本日中』なんて書いてあるものもある。どうやら急ぎのクエストに印が付けられているようだ。
私にもできることだったら、それらのクエストを優先的に受けたほうがきっといいんだろう。
そこでちょうど目に付いたのは、先日行ったばかりのティーラ村への配達クエストだった。
ジランにある店で【朝日の衣】という服を受け取り、依頼主のもとに届けるというもの。
報酬は銀貨五枚でポイントは三十。
ちょっと遠いが、道のりは覚えているし、間の森に出ていた賊は退治して安全も確保されている。お金にもある程度余裕ができてきたので、グラーザを借りれば明日には届けられるだろう。
よし、やってみるか。
背伸びしてチラシを取り、受付へ持って行く。
今朝もアンリさんの姿がカウンターにあった。
「おはようございます! クエストの受付お願いします!」
「はい、おはようございます。冒険者生活には慣れてきました?」
受注手続きが済むまで、アンリさんと少し雑談。
協会の中はだんだん賑やかになってきて、背後の人の気配が増えていく。
それで私はなんとなく、周りをきょろきょろしてしまった。
「今朝はワントさん来てないですか?」
「そうですね。まだ見かけていませんが、今日もクエストの約束を?」
「いえっ。ただ今までずっと一緒だったので、つい探してしまって」
別に、今日のクエストは一人でも大丈夫なやつだからいいんだ。
何が不安なわけじゃない。勝手な刷り込みで、またワントさんが現れて、誘ってくれそうな気がしてしまってるだけ。
「では初めての単独クエストですね。怪我をしないように、がんばってください」
「はい!」
装備は十全。気力・体力も十分。アンリさんからのエールももらえた。
独り立ちには最善の状態だろう。
もう周りは気にせず、私は小走りに協会を出た。
⛏
【朝日の衣】というのは、ジランの街中にある服飾店の商品の一つだった。
まっ白な、まさに朝の光を織り込んだように生地に光沢のある美しいワンピース。折り畳んでも皺一つつかない、特別な糸で作られたものらしい。
なんでも、依頼主の娘さんが嫁ぐお祝いとして注文したものだそうだ。
すでに代金が支払われているそれを受け取り、私は丁重にリュックの中にしまった。
そのために携帯食料などはポケットに移し、荷物は最小限にしておいた。
荷物を受け取ったらグラーザの乗り場に向かう。下手に転んだりしないように、あまり走らず。
街道横の草原で、グラーザたちは今日ものんびり放牧されていた。
「すみませーん、グラーザ一頭いくらですか?」
長い釣り竿のような鞭を持っている、とんがり帽子をかぶった調教師に声をかける。
農家のおじさんのようなその人は、のんびりと対応してくれた。
「何日借りたいの?」
「二日くらいです。ティーラ村まで往復で」
「だったら銀貨二枚だねえ。延滞で一日につき銀貨二枚追加料金だけども、一日か二日くらいだったらおまけしてあげるよぉ」
「じゃあそれで!」
思ったよりずっと安かったので、値切り交渉はしないでおいた。急ぎの仕事でもあることだし。
「お嬢ちゃん、きっと新人さんだよねえ? そんな子にはベテランのキアリを貸してあげようねえ」
そう言っておじさんが連れてきたのは、鼻先の角が少し小さいメスのグラーザだった。
灰色の肌の皺が、やや深いように見える。
岩のごとく体躯は貫禄たっぷりだが、私が手を出すと白目のない黒い瞳を細めて、かさかさの上唇で手のひらをくすぐってくれた。口の中には一つ一つが拳より大きな平たい歯が並んでいて、それが軽く指先に当たった。
「鞍には一人で乗れるかい? 鐙に足が届かない時は、キアリに持ち上げてもらいなさいね」
グラーザの背は丸く盛り上がっている。特にキアリは大きい個体だったので、鞍から垂れ下がっている鐙の位置がだいぶ高かった。足をほとんど顔の位置まで上げなきゃ鐙に引っ掛けられない。
なのでおじさんに教わり、キアリの鼻の頭に片足を乗せ(少し悪いことをしているような気分になった)、キアリ自身に私を持ち上げてもらい、背中に乗せてもらった。
鞍は私が二人くらい乗れそうなスペースがある。
いちおう手綱もあるが、ほとんど操ることは考えなくていいと言われた。出発の時に踵で一度だけ体を叩き、速度を上げる時は二度叩く。手綱は止まる時や、速度を落としたい時にだけ軽く引くそうだ。
「ティーラの村ならキアリは道を覚えているよ。寝ていたって勝手に着くさあ」
「それなら安心ですね。キアリ、よろしくお願いします」
ぐぁ、とキアリは小さく鳴く。
冒険の先輩である彼女の助けがあれば、きっとうまくいくだろう。
グラーザおじさんに手を振ったら、私はさっそく二度の合図を入れて、街道を風とともに走り出した。
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