リズの冒険日記

輝安鉱

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討伐ギルド

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「ホーンケノスの骨? これが? 倒したの? キミら二人で?」

 グラーザから降りた金髪のお兄さんの質問に、私とヨーゼムは首振りで答えていた。

 やって来たのは人族の男女二人。

 彼らは討伐ギルド【ノヴァの角笛】の人たち、らしい。

 ヒュポスとは別のとある魔物の素材集めのため、森を訪れたところ、様子のおかしいホーンケノスを数頭見つけ、急きょ退治していたとのこと。

 どうやら一頭だけじゃなく、もっと森にいたみたい。

 彼らはホーンケノスがどこかに向かおうとしていることに気づき、森を抜けた先にある小さな村の存在を思い出した。
 そして、すでに村に向かったと思しき足跡を見つけた。

 そこで四人いたメンバーを半分に分け、二人が森のホーンケノスを片付けて残り二人が急いで足跡を追ってきたそうだ。
 では森のほうへ救援に戻らなくていいのかと訊くと、二人もいれば十分だって。討伐ギルドの人ならそんな余裕に倒せるものなのか。

 とにかく、もうあの怪物が来ないということだけで万々歳だ。

 安心した。安心したので、私は親切にも怪我の手当てをしてくれようとするギルドの方々の前からいったん失礼し、ずかずかと自分のメンバーのもとへ向かう。

 さすがに今は防御壁を解いている彼に、一言でも言わなきゃ腹の虫がおさまらない。

「あなたは、なんのためにここにいるんですか!?」

 大好きなシルバーランクの人たちが来ても遠目に見ているしかなかったアヴィさんは、私の怒鳴り声にただただ呆然としていた。

「ホーンケノスのことはいいですよ! 私たちのレベルじゃあんなの怖いですもん! でも、あなたはヒュポス退治もサボるし自分にできることなんにもしないじゃないですか! せっかくある力を使おうともしない、挑みもしない、なのになんであなたは冒険者やってるんですか!?」

 ポイント稼ぎ、大いに結構だ。だけど、それはなんのためにやるものなんだ。
 ランクを上げた後はどうするの? 今回よりもずっと難易度の高いクエストをこんな調子で達成できるというの?
 
 協会のポイントは実力と信用のバロメーターだ。

 でもアヴィさんがたとえシルバーランクに上がっても、私は彼を到底信用できない。

「ポイントも報酬も山分けでいいです。人を見る目がなかった勉強分だと思います。ただこれだけは言っておきます。私たちにあなたはまったく必要ありませんでした!」

 腹が立ち過ぎて、どうしても穏便な言い方はできなかった。
 だって私もヨーゼムも死ぬかもしれなかった。
 彼が少しでも協力してくれていたら、あんなにぎりぎりの立ち回りをしなくて良かったかもしれないと思うと悔しくなってしまう。

 アヴィさんに何を言い返されても殴りたくなるだけなので、私は思いきり背を向けてヨーゼムたちのほうへ戻った。彼が私を呼び止めたり、後ろから怒鳴ってくるようなことは、なかった。

 鼻息荒く戻ってきた私を、ヨーゼムやギルドの人たちは若干気まずそうな目で見る。

「ごめんなさい。こちらの話なので気にしないでください」
「大変そーね」

 金髪のお兄さんはなんとなく状況を察したんだろう、場を取り持つように、へらりと笑みを見せる。
 私は一度深呼吸して、気分を落ちつかせた。
 そういえば、勢いで報酬山分けでいいって言っちゃった。

「ヨーゼムもごめん。勝手に報酬とポイントの話をしてしまって」
「いや、あれでいいよ。こちらこそ嫌な役をさせてごめん。僕が怒れないから、リズが怒ってくれたんだよね」
「ううん、怒りたくて怒っただけ。気にしないで。それより早く手当てしよ」

 大体が擦り傷でそんなに大きな怪我はないが、自分で見えないところはお互いにチェックする。 
 金髪のお兄さんは気前が良くて、「顏に傷が残ったら可哀想だから」って、高級そうな良い匂いのする軟膏を使わせてくれた。

「……ヒュポスが憑りつくのはヤグルだけじゃないんだね」

 足の切り傷を水筒で洗いつつ、ぼそりとヨーゼムが言った。

「今までああいうのは出たことなかったの?」
「僕は聞いたことない、かな。クエストの注意事項にも記載はなかった。そもそもこの辺りはホーンケノスの生息域ではなかったずだし……」
「だよな。俺らもびびったわー」

 金髪のお兄さんが自然な流れで会話に加わる。

「協会に報告したほうがいいかもね。俺らもするけど、キミらのほうが帰り早いだろうから先にあらまし伝えといてよ」
「はい、わかりました」

 ちゃんと背筋を伸ばして応えるヨーゼム。
 お兄さんはにやりと笑った。

「ブロンズランクが二人だけで大物を倒したんだ。受付のお姉様方にちやほやしてもらえ」
「えっ? いえ僕はっ、仕留めたのリズですからっ」
「ヨーゼムがいなかったら当てられなかったよ? 一緒に褒めてもらおうよっ」

 真っ赤になって慌ててるヨーゼムが可愛い。私もアンリさんに褒めてもらえたら嬉しいな。
 ポイントには反映されないにせよ、私、けっこうレベルアップしたんじゃない?

「ねーねー、これはどういう術なの?」

 もう一人のギルドの、ツインテールの小柄な女の子がホーンケノスの死骸を指して会話に割り込んだ。
 背も年も私より低く見えるが、メダルはシルバーだし、普通に考えたらやっぱり年上、かな。どちらにしろ冒険者としては大先輩か。
 格好がかなり独特。太陽か何かの象形的な模様がたくさん描かれたカラフルなワンピースを着ていて、剥き出しの褐色の肩に赤い刺青が入っている。

「ええと、それは、毒で」
「毒なの? なんの毒?」
「すみません、詳しいことは言えないんです。我が家の秘伝なので」
「あーやーしーいーなー。大地が腐り始めてるよ?」
「あ、そうですっ、冷えて固まるまで触っちゃだめですっ」

 注意するの忘れてた。
 溶けた肉にも毒の成分は含まれている。そのうち固まるので、固まったら地面に深い穴を掘って埋める。
 ただ、しばらくは草も生えなくなってしまう。だからあんまり使いたくないんだよね。

 それらのことを話したら、小さなお姉さん(?)がパチンと指を鳴らした。

 すると彼女の足元に突如水が現れ、螺旋状に下から上へ伸びていく。
 水は頭上に集まり、間もなく、ヴェールをまとった人の女性らしき形になった。
 
 透明な、水の貴婦人、のような。

 お姉さんが指を振ると、貴婦人も同時にまったく同じ動きをする。それに応じて周囲の水が蠢き、地面の黒い液体を掬う。さらにお姉さんと貴婦人が糸を手繰るように両手をくるくる回すと、貴婦人の手と手の間の空間に黒い水が吸い込まれていった。

 残ったのは骨と、その周囲の毒に焼けた大地だけ。

 お姉さんがまた指を鳴らすと、貴婦人はただの水になってばしゃりと落ちた。

「今の、なんですか?」
「水の精霊だよ。彼女、シャーマンなんだ」

 答えてくれたのは金髪のお兄さんのほう。私とヨーゼムの驚いた顔を見て、なぜか彼が得意げだ。
 今のは毒を回収して処分してくれたということ?

 水の精霊、シャーマン……あれ、どこかで聞いたことある。

 以前、火の精霊を憑依させる野盗まがいの極貧シャーマンに遭遇した時、確か、ワントさんが水の精霊を召喚するシャーマンが同じギルドにいると言っていなかったっけ。

「もしかして【ノヴァの角笛】って、ワントさんもいるギルドですか? 竜人で、私と同じ白い髪の」

 自分の三つ編みをつまんで尋ねると、金髪のお兄さんは目を瞬いた。

「ああうちにいるよ。なにキミあいつの知り合い? 親戚?」
「知り合いです。何度かクエストに連れて行ってもらったんです。水のシャーマンが同じギルドにいると聞いたことがあったんですが、やっぱりそうなんですね」
「なんでネマさんの話になったー? 別に説明はいらないけどー。ワンワンは相変わらず新人ちゃんのお守りが好きなのね」

 小さいお姉さんは自分のことをネマさんと呼ぶみたいだった。
 つまり、名前はネマさんなんだな。
 お互いの自己紹介もまだちゃんとしてなかった。にしてもワントさん、ワンワンって呼ばれてるのかー。

「すみません、名乗るのが遅くなりましたが、私はリズといいます。ワントさんにはとてもお世話になっています。どうぞよろしくお伝えください」
「ご丁寧にどーも。俺はチェニクです、ハイ。ワントにはよろしく言っておきます」

 金髪のお兄さん、チェニクさんは私の挨拶がくすぐったいみたいだった。
 ちゃんとした感じが苦手なのかな。なんか緩い雰囲気の人だものな。ワントさんもタイプ的には似てる気がする。

 討伐ギルドなんてもっと荒々しくて怖いイメージがあったが、チェニクさんやネマさんを見ていると意外に和やかなところなのかなあと思えた。

「ヨーゼム~!」

 間もなく、戦いの音が聞こえなくなったことに気づいたのか、避難していた村人たちが戻ってきて、依頼主宅のお母さんたちが駆け寄ってくる姿が見えた。
 愛されヨーゼムはおばちゃんたちや三つ子たちに抱きつかれ、もみくちゃにされる。

 私はちょっと離れて辺りを見回すと、放牧場の近くにあったアヴィさんの姿がいつの間にかなくなっていた。
 でも特に探そうという気も起きなかった。帰ったのならそれでもいい。もう何も言うことはない。

 この後、森でホーンケノスを討伐し終えた残り二人のギルドメンバーの人も合流し、私たちは村の人たちに彼らの活躍を報告した。
 するとぜひお礼をしたいという話になり、依頼主さん宅でその晩はご馳走が振る舞われた。

 私とヨーゼムは夜の見張りの仕事があったが、それもチェニクさんたちが手伝ってくれたりして。

 翌朝には皆さん出立し、私たちはすっかり数の少なくなったヒュポスを片付け、様々波乱のあったこのクエストを無事に、完了することができたのだった。
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