リズの冒険日記

輝安鉱

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念願のクエスト

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 クエストを終え、ワントがジランの街に帰ってきたのは、日もすっかり暮れた頃だった。

「晩飯、幸味亭でいいよな? 行こうぜ」
「ん」

 今回のクエストで組んだのは同じギルドに所属するレオルという男。
 大柄なワントよりもさらに頭一つ大きな体躯を持つ、【巨人族】と呼ばれる種族だ。特徴的な真っ赤な剛毛が頭から背中にかけて生えており、後ろから見ると巨大な毛玉が歩いているように見える。

 大型の魔物討伐でワントとレオルは一緒に組むことが多い。どちらも無尽蔵のスタミナと天性の剛力で押し切る戦闘が得意であり、多少の無茶は互いに許し合えるやりやすい相手なのだ。またレオル自身が気難しいところのない陽気な好人物である、というのもワントがよく組む理由だ。

 しかし大男二人で連れ立っていると、不要な威圧感を依頼主に与えてしまい、しばしばコミュニケーションをうまく取れないことが悩みである。

 それでも今回のクエストも問題なくこなし、ギルドに帰還する前にまずは腹を満たそうと、レオルが贔屓にしている酒場の鎧戸を開けた。

 すると、さっそく入り口付近のテーブルに知っている赤ら顔を見つけた。

「ワントー! レオルー! おっかえり~!」

 討伐ギルド【ノヴァの角笛】の若手三人衆、ワントと同年代のチェニク、アンブロス、ルーロフがすでにでき上がった顔で木製ジョッキを掲げる。
 彼らは装備を付けておらず、シャツとズボン程度のラフな格好だ。
 この三人も、ワントらと同じ頃に別のクエストに出発したはずだった。

「なんだ、お前らのほうが先だったのかよ?」
「そっちより近場のクエストだったからな。ほら座れ座れ、お疲れさん」

 三人は人一倍大柄なレオルとワントのために丸テーブルの席を詰める。
 ワントは尻尾が他の客の邪魔にならないよう、壁が背になるところに腰を落ちつけ、大剣もレオルのものとともにそこに立てかけておいた。

 店の中はほぼ満席で賑わっていたが、店員はすぐさま増えた客に気づき、酒樽から注いだ麦酒を二つ持ってやって来る。
 その際、レオルが店員に頼んだ「肉!」という雑な注文にワントも便乗させてもらった。

「んじゃ、あらためて乾杯」
「乾杯」

 五つのジョッキを打ち合わせ、酒をカラの胃に流し込む。黒い麦酒の濃厚な味がワントは気に入っていた。様々な者が集まる冒険者の街は、同じ麦酒でも酒場によって異なる味を楽しめる。
 自分は酒が飲める性質で良かったと、ワントは心の底から思っている。

「レオルたちはなんのクエストだっけ?」
「ヴォーディだヴォーディ」
「あー、あの牛鬼な。だったら俺らの勝ちだな」
「何が?」
「それがさあ――」

 チェニクらとレオルの会話を片耳で聞きながら、ワントは無意識に店内に白い頭がないか見回す。
 色んな種族の冒険者が楽しく騒いでいるが、そこに少女の姿はさすがにない。

(女の子が一人で酒場には来ないか)

 ナンパを警戒していたリズが、わざわざ絡まれやすそうな酔っ払いのいるところに近づく理由はない。
 やはりあの目立つ容姿では苦労してきたのだろう。ワントもまだ顔の売れていないうちは、面倒な輩の相手をしょっちゅうさせられたものである。
 なのでリズがいないことはわかりきっていたが、それでも落胆してしまう。

 見守るどころか、ここしばらくはリズに会えていない。クエストがだめでも食事くらい誘いたいのだが、近頃は協会に行ってもタイミングが悪いのかリズを見かけることがなく、ワントは彼女が住んでいる場所も知らない。
 受付のアンリワースは知っているだろうが、それを聞き出そうとするのはさすがに自分でも気持ち悪いように思え、できなかった。

 しかし毎日人が現れては去って行く、そんな冒険者界隈だ。
 あまり悠長にしていればチャンスを逃してしまう。

(もうそろそろ誘っちゃだめか? このままだと存在自体忘れられそうな気がしてきた……)

「――ワント? ワーント! おいワンワン!」
「聞こえてるよ! なんだよ!」

 無視していた呼びかけに思わず八つ当たりする。チェニクは「なんでキレてるのよ」と訝しげにしていた。 

「最近また新人の面倒みてるんだろ? リズちゃん、お前によろしくって言ってたぞ」
「……は?」

 つまみのプナンを齧り始めたチェニクのシャツへ、無意識にワントは手を伸ばしていた。

「リズとどこで会った?」
「だから、クエスト中。なんで胸ぐら掴むの?」
「一緒にクエスト行った!?」
「さては俺の話聞いてないなキミぃ」

 それから、ワントは魔物に寄生されたホーンケノスをリズと同じブロンズランクの冒険者が二人で倒したこと、チェニクらが彼女と仲良く夜の見張りをした話を聞き、やはり胸ぐらを掴まざるを得なかった。

「俺もっ、誘って!」
「無茶言うな兄弟。もしやとは思ったが、やっぱ狙ってたか。お前の好きそーな可愛い顔してるものね」
「マジかよ。でもワントは、こう、色々マズい気がするぞ。まず絵面がマズい。俺らがネマさんに手出すくらいエグい」
「それネマさんに言えば雲まで飛ばされるぞ。だが同意」
「誰か俺の味方して! レオル!」
「おう、肉うまいぞっ」

 ローストされた巨大な肉の塊にかぶりつく大男は、若人たちの話などすでにどうでもよくなっていた。
 孤立無援のワントへ、さらにチェニクらが追い打ちをかける。

「一緒にクエストに来てた少年といい雰囲気だったよな」
「そりゃなー。二人で力を合わせて上位ランクの大物を倒したんだぜ。あれで付き合わないほうがおかしい」
「少年はめっちゃいい奴だった。あれは付き合う」

 普段からよくつるんでいる三人組の連携は抜群だ。
 無傷で帰還したにもかかわらず、致命傷を負ったワントはテーブルに突っ伏した。



 ⛏



 ヒュポス退治を終えてから数日の休暇を挟み、私はまた新たなクエストを求めて協会に向かった。

 その時にちょっと気にかかったのが、アヴィさんがいるかなということ。

 ヨーゼムとジランの街に戻ってきた日、受付に報告に行ったら、アヴィさんはクエストから抜けたことになっていた。
 本人が自分で申請を取り消したのだ。なのでポイントはヨーゼムと二等分するだけで済んだ。

 私がアヴィさんに怒ったせい、かな。
 アヴィさんなりに、反省を示したということなのだろう。あの時は本当に腹が立ったけれども、根っから性格の悪い人ではないのかもしれない。

 あなたは必要ないだなんて、少し言い過ぎたかな。
 もし顔を合わせたら気まずい。たぶん、あっちも同じ気持ちだろう。

 しかし、いつまでも引きずっていたって仕方ないので、気持ちを切り替えクエストを選ぶ。
 今日は何をしようかな?
 討伐か、採集か、それとも他にまだやったことないようなもの、あるかな。

 漠然とクエストボード全体を見回していた私は、ついつい、シルバーランクのボードのほうまで見てしまう。

 ――すると、目を疑うチラシがあった。

 それはボードの端っこに刺しとめられていたもの。
 反射的に手に取ってみれば、【遺跡の地図作成】とある。

「え!?」

 驚きを声に出してしまい、周りの人に振り向かれたがそれどころじゃない。

 遺跡関連のクエストだ!
 ジランにはほとんどこないって話だったのに!

 興奮しながらよぉく内容を読み込むと、どうやら一度探索されている遺跡の内部地図を作成してほしいという依頼だった。
 
 普通、遺跡の中は迷路のようになっており、慣れた冒険者は簡単な地図を描きながら中を探索する。
 私の故郷の大迷宮など、複雑すぎて何十年も探索が終わらず、ゆえに地図も完成していないが、このクエストの遺跡はかなり小規模なものらしい。

 最初に探索した人が地図を描かなかったのかもしれない。
 でも学者たちは記録として残しておきたいんだろう。彼らが調査に入るのは、冒険者が安全を確認し地図を提出した後だ。

 これは、ぜひ、なにがなんでも、やりたい。他の人に渡したくない。
 どうしよう。シルバーランクのクエスト……シルバーランクかぁ……。

 悩んでいると、急に手元が暗くなった。

「わっ! ワントさん?」

 いつの間にか背後に立たれていた。
 ものすごくびっくりしたし、大変嬉しいタイミング。
 迷惑かけないって決めてたけど、でも、このクエストだけは!

「あのっ、ワントさんこれっ」
「ホーンケノスを倒したんだって?」
「え?」

 クエストの話をしようとしたら、なぜか低い声が降ってきた。
 ワントさんの様子がいつもと違う。どよんとした暗い表情でにじり寄ってくる。

「は、い。たまたまでしたけど」

 そこはかとなく漂う不穏さに気圧され後退していったら、すぐ背中が壁に当たった。
 同じ壁へワントさんが手を突いて寄りかかるので、まるで私がカツアゲされてるみたいな格好だ。
 何か元気ないなワントさん。どうしたんだろ。

「あんな大物倒せるんだったらリズは十分強くなったよ。だから俺ともクエスト行こっ!」

 後半、妙に力が入ってる。
 元気がないわけではないのかな。だったら大丈夫かな。

「はい、今、お誘いしようかと思ってたんです。これワントさんが受けてもらえませんか!」
「これ?」

 真上にチラシを差し出す。
 ワントさんは壁から離れ、チラシを受け取って中身を確認する。

「遺跡の地図作成? へえぇ珍しい」
「私、地図描けます! このために故郷でたくさん練習しました! 今度こそ足手まといにならないように精一杯がんばります! なのでワントさん、私を連れて行ってください!」
「行く行く、行こう。俺、遺跡入るの初めてだ」

 あっさりとワントさんは引き受けてくれた。
 最初の暗い顔はどこかに消えていて、初めてのクエストにわくわくしている様子。長い尻尾が床の上を機嫌良さそうに跳ねているのが、ちょっと可愛い。

 私も、冒険者としては初めて入る遺跡だ。
 すでに一度は探索されているという話だが、もしかしたらアーデイティシルに関わる遺物が残っているかもしれない。

 隅々まで徹底的に探索してやる!

 逸る心を押さえ、まずは抜かりない準備をすることにした。
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