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真夏の冒険
第九話 真夏の冒険4
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「藤枝肇は絵がうまい」ということが、クラス中に、学校中に広まった。きっかけは学園祭のポスターに選ばれたからだ。学園祭のカフェの内装やメニュー表に使うイラストを描いたり、遠足のしおりの表紙イラストを担当したり、肇はどんどん人気者になっていく。友達も増え、明るくなっていく。
反対にしずくはただただ悲しかった。自分しか知らない肇の特技がみんなに知れ渡った。しずくと肇だけの共有していたものがどんどんとなくなり、しずくは二人の関係の終わりを感じ、自ら肇と距離を取った。
「あー書き終わんない」
九月に入り、夏休みがあと一週間ほどで終わる。我ながら、くさいくらいに青春モノを書いているなぁと思う。ラストの流れが決まらない。書いては消してを繰り返していたら夜が明けていた。
レジに立ちながら、「ふぁ~」と大きなあくびを出すと、
「桂っち~。ウチの店ヒマだからって寝んなよ」
とヒールのかかとを鳴らしながら店長がやってきた。両肩の部分が開いたデザインのTシャツ、デニムのショートパンツと褐色の肌を大胆に露出させてるが、しっかり手入れされてて思わず触りたくなるほど綺麗だ。胸元には、ハートのシールをいっぱい貼りつけた「店長・木村」の札をつけている。
「大丈夫です! すいません!」
「まぁ、桂っちがマジメなのアタシもわかってっし」
「ありがとうございます」
「にしても、桂っちがあんな大あくび堂々とするの珍しくない? どしたー?」
「作業してたら朝になってました」
「マジ? お疲れ~」
日曜日の昼下がり、店の中にはお客さんはほとんどいないし、商品をレジまで持ってくる人はもっといない。
「はぁー。マジヒマ」
そう言って、店長は自分の爪を眺めている。綺麗にマニキュアが塗られ、小さいビジューでデコられているものの、そんなに長くは伸ばしていない。「一人暮らしで家事しなきゃなんないからね。伸ばせねぇの」って言ってたな。
それにしても、小説のラストどうしよ……とぼんやりしていると、
「おーい、桂っち、やっぱ寝てる~?」
「寝てないです! ちょっと考え事してました」
「桂っち何考えてたの?」
「あのぉ……店長って告白すればよかったって思うことありました?」
「えー? 山からヘビになにぃ?」
「もしかしてやぶから棒ですか」
「あ~……そう、それ」と手を叩いてひとしきり笑った後、
「告ればよかったってのあるよ」
「よかったら聞かせてもらえないっすか」
「なんかあった?」
「あ、いやぁ、小説書くヒントになればなぁって」
「なるほ~」と頷くと、店長はレジに頬杖をついた。
「アタシは学生の時からギャルやってて、授業も荒らしがちなグループにいてさ~。マジメ系の同級生には超絶嫌われてたんよね」
ワタシもあまりそういう人たち苦手だったと思い返す。悪い子じゃないんだろうけど、自分たちの思い通りさせようとする、ちょっと強引な子たちが多くて。文化祭や体育祭とかでお店や競技決める時はケンカになってたなぁ。
「その、好きだったつーか、気になってたヤツはさ、マジメ系ではないし、かといってオタク系でもパリピ系でもないっていう。たまにいるっしょ? どこにも所属しないヤツ」
「いますね。なんかちょっと不思議なヤツ」
「そいつ、ピアスバチバチにつけてて、授業の途中でも帰るし、遠足とかは絶対いない。クソ気まぐれのレアキャラだったんだけど、超~絵が上手くてさ。なんてーの? 漫画とかの萌えみたいなのとか、キャラみたいなのじゃなくて、もう何描いてんのかわからない、美術館にありそうな変なイラスト。変なのって思うのにずっと見ちゃうんだよ」
「へぇ」
「何度か話したけど、ホントおもしれぇことしか言わない。カレシじゃなくても、普通に友達になりたかった。けど、結局なんも言えないまま卒業してバイバイ」
店長は大きくため息をつく。
「アタシは、そいつや、それこそ桂っちみたいにさ、何かを作る才能とか熱中するものもなくて。今こうして雑貨屋で店長なんてやってっけど、アイツと話してたら違う道あったかもなって思うこともあったわけ。雑貨屋はまぁ楽しいけど、どこかでアイツとなんも言わずにサヨナラしたことめっちゃ後悔してる。結果がダメでも、言わない方がダメだわぁ」
「そう……ですよね……」
「にしても、まさか桂っちとこんな話するとは思わなかったんだけどウケる」
「ワタシもです」
「早く駿河っちには告白しときなよ~」
「なっ、なんでそこで駿河が……!」
本来ならワタシのバイト先の方が閉店時間三十分ほど早いけど、レジ誤差とかで締め作業に時間がかかってる時は駿河の方が先にこの店の前を通る。その時は、駿河はいつも裏口で待っててくれて、一緒に帰っている。そんなことをしてたら、店長とも顔なじみになってやがった。店長もなんでかわからないけど、駿河のことをめっちゃ気に入ってくれてて、駿河がいないと「今日はいないのー?」とガッカリしてたりする。
お客さんが入ってきた。高校生くらいの女の子三人組だ。二人で声を合わせ「いらっしゃいませー」と挨拶をする。
「さてと、アタシは事務所で書類作るから。とりま、寝んなよ~」
「はいー」
と頭を軽く下げた。
反対にしずくはただただ悲しかった。自分しか知らない肇の特技がみんなに知れ渡った。しずくと肇だけの共有していたものがどんどんとなくなり、しずくは二人の関係の終わりを感じ、自ら肇と距離を取った。
「あー書き終わんない」
九月に入り、夏休みがあと一週間ほどで終わる。我ながら、くさいくらいに青春モノを書いているなぁと思う。ラストの流れが決まらない。書いては消してを繰り返していたら夜が明けていた。
レジに立ちながら、「ふぁ~」と大きなあくびを出すと、
「桂っち~。ウチの店ヒマだからって寝んなよ」
とヒールのかかとを鳴らしながら店長がやってきた。両肩の部分が開いたデザインのTシャツ、デニムのショートパンツと褐色の肌を大胆に露出させてるが、しっかり手入れされてて思わず触りたくなるほど綺麗だ。胸元には、ハートのシールをいっぱい貼りつけた「店長・木村」の札をつけている。
「大丈夫です! すいません!」
「まぁ、桂っちがマジメなのアタシもわかってっし」
「ありがとうございます」
「にしても、桂っちがあんな大あくび堂々とするの珍しくない? どしたー?」
「作業してたら朝になってました」
「マジ? お疲れ~」
日曜日の昼下がり、店の中にはお客さんはほとんどいないし、商品をレジまで持ってくる人はもっといない。
「はぁー。マジヒマ」
そう言って、店長は自分の爪を眺めている。綺麗にマニキュアが塗られ、小さいビジューでデコられているものの、そんなに長くは伸ばしていない。「一人暮らしで家事しなきゃなんないからね。伸ばせねぇの」って言ってたな。
それにしても、小説のラストどうしよ……とぼんやりしていると、
「おーい、桂っち、やっぱ寝てる~?」
「寝てないです! ちょっと考え事してました」
「桂っち何考えてたの?」
「あのぉ……店長って告白すればよかったって思うことありました?」
「えー? 山からヘビになにぃ?」
「もしかしてやぶから棒ですか」
「あ~……そう、それ」と手を叩いてひとしきり笑った後、
「告ればよかったってのあるよ」
「よかったら聞かせてもらえないっすか」
「なんかあった?」
「あ、いやぁ、小説書くヒントになればなぁって」
「なるほ~」と頷くと、店長はレジに頬杖をついた。
「アタシは学生の時からギャルやってて、授業も荒らしがちなグループにいてさ~。マジメ系の同級生には超絶嫌われてたんよね」
ワタシもあまりそういう人たち苦手だったと思い返す。悪い子じゃないんだろうけど、自分たちの思い通りさせようとする、ちょっと強引な子たちが多くて。文化祭や体育祭とかでお店や競技決める時はケンカになってたなぁ。
「その、好きだったつーか、気になってたヤツはさ、マジメ系ではないし、かといってオタク系でもパリピ系でもないっていう。たまにいるっしょ? どこにも所属しないヤツ」
「いますね。なんかちょっと不思議なヤツ」
「そいつ、ピアスバチバチにつけてて、授業の途中でも帰るし、遠足とかは絶対いない。クソ気まぐれのレアキャラだったんだけど、超~絵が上手くてさ。なんてーの? 漫画とかの萌えみたいなのとか、キャラみたいなのじゃなくて、もう何描いてんのかわからない、美術館にありそうな変なイラスト。変なのって思うのにずっと見ちゃうんだよ」
「へぇ」
「何度か話したけど、ホントおもしれぇことしか言わない。カレシじゃなくても、普通に友達になりたかった。けど、結局なんも言えないまま卒業してバイバイ」
店長は大きくため息をつく。
「アタシは、そいつや、それこそ桂っちみたいにさ、何かを作る才能とか熱中するものもなくて。今こうして雑貨屋で店長なんてやってっけど、アイツと話してたら違う道あったかもなって思うこともあったわけ。雑貨屋はまぁ楽しいけど、どこかでアイツとなんも言わずにサヨナラしたことめっちゃ後悔してる。結果がダメでも、言わない方がダメだわぁ」
「そう……ですよね……」
「にしても、まさか桂っちとこんな話するとは思わなかったんだけどウケる」
「ワタシもです」
「早く駿河っちには告白しときなよ~」
「なっ、なんでそこで駿河が……!」
本来ならワタシのバイト先の方が閉店時間三十分ほど早いけど、レジ誤差とかで締め作業に時間がかかってる時は駿河の方が先にこの店の前を通る。その時は、駿河はいつも裏口で待っててくれて、一緒に帰っている。そんなことをしてたら、店長とも顔なじみになってやがった。店長もなんでかわからないけど、駿河のことをめっちゃ気に入ってくれてて、駿河がいないと「今日はいないのー?」とガッカリしてたりする。
お客さんが入ってきた。高校生くらいの女の子三人組だ。二人で声を合わせ「いらっしゃいませー」と挨拶をする。
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「はいー」
と頭を軽く下げた。
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