【3】Not equal romance【完結】

羊夜千尋

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やっぱりワタシは

第十話 やっぱりワタシは1

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 十月中旬を過ぎると、痛くなるような日差しは和らぎ、クーラーも要らなくなっていた。朝晩は上着が必要になる日も多くなってきて、すっかり秋だなぁと感じる。
「君彦くん、おはよう」
「おはよう、真綾」
「今日の二限、君彦くんが受ける授業休講って見たよ」
「うむ、そのようだな。俺は第二食堂の方へ行って課題仕上げようかと思う」
「わかった。終わったら合流してお昼ご飯食べていい?」
「もちろんだ。待ってる」
 そう言うと神楽小路は歩いて行った。その背中が消えるまで手を振る真綾を後ろから抱きしめる。
「ヒェッ!」
「真綾~、見てたぞ」
「咲ちゃん!?」
「朝からイチャつきやがってよぉ~」
「イチャついてないよ! 挨拶してただけ!」
「でも良かったな。神楽小路と無事に付き合えて」
「……うん。ありがとう、咲ちゃん」
 一週間前、真綾は神楽小路と付き合い始めた。
 しばらくスランプで体調を崩していた神楽小路が元気になり、久しぶりに登校してきた日、回復を祝う会を食堂で開催した。ワタシと駿河は途中で授業出るために離脱したけど、急遽休講になった真綾と神楽小路はそのまま残った。その時に、真綾から告白したらしい。食堂で告白するって、どういう流れかわかんないけど、真綾すげぇよ。
 第一報をもらった時、ワタシと駿河は授業が終わり、バス乗り場へ向かっていた。たまたまスマホを触った駿河が「はっ!?」と叫んだ。その声にびっくりしたワタシに、画面を見せてくれた。そこには『佐野真綾と付き合うことになった』という神楽小路からのメッセージ。ワタシも慌ててスマホを見ると、真綾から『神楽小路くんとお付き合いすることになりました』と届いていた。
「神楽小路もなーんか前より顔が緩んでる気がするし」
「そうかな? そうだと嬉しいな」
 神楽小路も悪いヤツではないことを知ってるから、安心できる。真綾と幸せになってくれと願うばかりだ。
「駿河?」
「え、どこ?」
「あれ」
 黒髪で中肉中背の男はたくさんいるけれど、遠くから、背中しか見えてなくてもあれは駿河だとわかる。なぜなら、背負ってる黒色のリュックはワタシと一緒に買ったものだから。
 駿河は女性と話していた。茶色に染めた髪を短く切っていて、ハイヒールを履いているから駿河と同じくらいの身長。Ⅴラインのトップス、スキニーのデニム、どちらも細い身体のラインをしっかり出している。ワタシじゃ着こなせない。駿河の表情はここからじゃわからないが、女性の方は駿河の目をずっとじっと見て、何か言っている。何を話しているんだろう。心がざわざわとする。近づいて会話を聞きたいけど、聞きたくもない。
「真綾、行こうぜ。取り込み中みたいだし」
「う、うん」
 歩きながら、真綾が「ずっと気になってたんだけど」と前置きして言う。
「夏休み明けくらいからかな? 駿河くんあの女の人にやたら話しかけられてない?」
「えっ」
「駿河くんから何か聞いてない?」
「いいや、何も」
「いつも駿河くん一人の時に声かけられてて……。数分立ち話してる感じ」
「へぇ。そいつらからしたら、ワタシは邪魔モノってワケだ」
 ワタシがいたら話せないってことか。駿河も女の人からチヤホヤされてまんざらでもないんだろうな。ま、知ったことじゃねぇ……と言いたいが、なんだかなぁ。なんで言ってくれないんだ? 何度も同じ人に声かけられてるって友達なのか? それとも……。その人の存在も、話している内容も、ワタシに知られたくないのか? ワタシはただの友達だし、別に全部把握したいとかそういうことじゃなくて……でも……と考えていると、真綾が手を叩いた。その音で我に返る。
「そういえば、今月末の喜志芸祭、二日間あるけど咲ちゃんはどうするの?」
 と訊いてきた。喜志芸祭は一年に一度行われる大学祭のことだ。真綾なりに空気を変えようとしてくれたんだと思う。
「もちろん行く! 二日目の日曜日はバイト休めないから、一日目に行こうかって駿河と話してて」
「そっかぁ。わたしたちもどっちか一日だけ行こうって話してたの。咲ちゃんたちがいるなら一日目に行こうかな」
「ワタシたちのことはあんま気にしなくていいんだぞ? せっかく二人きりでまわれるんだから。文化祭デートなんか学生の特権だしさ」
「ありがとう。でもね、せっかくこの大学でお友達になった咲ちゃんと駿河くんとも一緒にまわりたいんだよ」
「真綾ぁ~! 好きだぞぉ」
 正面に回り込んでぎゅっと抱きつく。真綾に彼氏が出来たらワタシのことなんて忘れられるかもしれないと少し寂しかったけど、そんな心配はなさそうで安心した。
「咲ちゃん、わたしも好き! だけど、痛い! 痛いよぉ!」
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