【3】Not equal romance【完結】

羊夜千尋

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やっぱりワタシは

第十二話 やっぱりワタシは3

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 喜志芸祭が始まった。いつものように喜志芸行きのスクールバス乗り場に行くと、高校生や親子連れなどいつもは見かけない世代もバスを待っていた。
「不思議な感じだな」
「ですね」
「いつもだとさ、楽器や画材とかでっかい荷物背負った人とか、課題に追われて寝不足で目が血走ってる人とか、どこで買ったかわかんねぇような服着た人ばっかだもんな」
「それが芸大ってもんですよ」
「そう考えると文芸学科って地味だよな」
「パッと見ただけでは何学科の人かはわかんないですからね」
「あ、でも、わかりやすい特徴あるかも」
「なんです?」
「メガネかけてて、シャツ着てる率が高いのが文芸学科」
「その見本みたいなのが横にいることについてなにか言いたいことありますか」
 メガネを上げながら訊いてきた。そういえば、今日の駿河、アーガイル柄カーディガンの下が無地のコットンシャツだったな。
「わかりやすくていいじゃん」
「しばらくシャツ着るのやめましょうかね」
 到着すると、いつもよりガヤガヤと騒がしい。あらゆるところから、音楽や呼び込みの声が聞こえる。
「今まだ始まって二時間経ったくらいだろ? すげぇ盛り上がってんな」
「ですね。これぞお祭りという感じがします」
 待ち合わせ場所の文芸学科棟の入り口前に真綾と神楽小路がいた。
 真綾は、白のハイネックトップスに、光沢感のある黒のキャミソールワンピースを合わせ、差し色で赤色の大判ストールを肩にかけている。
 神楽小路は紺色地で細かなストライプが入った三つ揃えのスーツ姿。いつものよくわからん目の痛くなるような柄シャツじゃなく普通の白シャツ。ただ今日は胸元にはビジューの飾りのついたリボンタイをつけている。
「神楽小路、大学祭だからか、いつもとまた違う感じで気合入ってんなぁ」
「同じスーツ姿でもカジュアルだったり、フォーマルだったり。どれも着こなしててかっこいいですよね。憧れます」
 そんな話をしていると、真綾がワタシたちに気づいて手を振る。
「二人ともおはよー!」
「おー、おはよう。二人とも早かったんだな」
「楽しみすぎて早く来ちゃったの」
「今日はいろいろお店まわろうな」
「うん!」
 笑顔の真綾に対して、いつも以上に険しい表情の神楽小路。
「神楽小路くん、大丈夫ですか? 顔色が少し……」
「俺はいたって正常だ」
 と言いながら、真綾の手を強く握り、人がたくさん歩いている校内の方は見ないようにしている。
「君彦くん、人が多くて緊張してるんだよ」
「なるほどな」
「無理しない程度に楽しんでいきましょう。何かあれば僕らがフォローしますので」
「……ありがとう、駿河総一郎」
「では見てまわりましょうか。あそこの総合受付のコーナーでパンフレット配ってるようですよ」
 芸術大学の大学祭だから、ぶっとんだことしてるサークルとかイベントが多いのかと思った。模擬店もゲテモノじゃなくてフランクフルトとかたこ焼きとかだし、アーティスティックで過激なパフォーマンスイベントはなく、ピアノ演奏会だったり、ハートフルな演劇や映画をやってたり、誰でも楽しめる催しばかりだった。なんかちょっと安心したけど、もっとヤバいことやってもいいのにってちょっとばかし残念にも思う。
 芸大っぽいなぁという部分といえば、ハロウィンイベントも兼ねているからか、学生も、一般の参加者もコスプレオッケーになっている。みんな衣装もメイクも手に持ってる武器などもクオリティが高すぎるせいで、もう誰が店の人かわからない。
「どれもおいしそうだね~」
 早速、真綾は屋台に視覚と嗅覚を奪われている。あれもいいな、これもいいなと目をキラキラさせながらお店を見ている。
「真綾は無限の胃袋だからなぁ」
「そんなことないよ! わたしだって満腹中枢は存在するんだから」
「浴衣買った帰りにさ、ラーメン一緒に食べた時すごかったもんな。ラーメンとチャーハンをセットじゃなくて単品で頼んだ時は震えたぜ……」
「あの日はお腹空きすぎてて……いつもはセットにしてるから!」
 神楽小路と駿河に必死にフォローする。
「真綾、お前は好きなだけ食べたらいい」
「そうですよ、佐野さん。我慢せずにどうぞお好きな店に」
「うぅ……その優しさが痛いよ……」
「そういや真綾、なんかどうしても食べたいやつあるって言ってたのなんだったっけ」
「探検部のスモークチキンだよ。友達が去年食べておいしかったって!」
 パンフから顔を出した真綾はまた目を輝かせている。
「満腹なっちまう前に、そこ行こうぜ」
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