【3】Not equal romance【完結】

羊夜千尋

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やっぱりワタシは

第十九話 やっぱりワタシは10

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「まーたあくびしてんね?」
「すいません!」
「昨日大学祭行ってたんでしょ? 遊び疲れた感じ?」
「そうっすね。楽しすぎてむしろ全然寝れなかったっていう」
 本当は駿河に連絡する、しないでずっと考えてた。気がついたら寝落ちしてて、出勤時間ギリギリに起きたんだけど。
「レジミスだけはダメだかんね」
 と店長から釘さされてたのに、閉店後のレジ締め作業中、
「店長ぉ……。千円合わないです……」
「はぁ~!? マジ?」
「マジです」
 店長と一緒にお札を数えなおす。札の総数はそんなに多くないのに。
「あー、合わないね」
「他のお札に紛れてないかもう一回確認します」
「よろ。アタシは床に落ちてないか確認するわ」
「お願いします」
 店長は定規や箒をレジが設置されてる床の隙間に突っ込んでも、レジまわりの備品を全部退けて探しても、見つかる気配はない。
「マジないわ」
「ないすっね」
 千円以上の誤差が出ると、本社に書類を提出しなくちゃならないらしい。ミス自体は「人間がやってることだから出るのは仕方なくない?」とのこと。だけど、報告するための文章作成が苦手だから、いつも苦い顔をして作ってる。店長は「んー」と獣のようにうなった後、
「タバコー」
 と店の裏へと消えていった。夕方の点検で誤差はなかった。そのあとレジをしていたのはワタシだ。ワタシがやらかしてるんだよな。やっぱ寝不足はダメだ。もう一度レジカウンターを調べていると、
「桂っち~。助っ人見つけたぁ」
「いいんですか? 僕は完全に部外者ですけど」
 駿河だった。書店のバイト終わりで、ジャケットの下は白いワイシャツに黒のズボンスタイルだ。今一番顔を見たくない人物の登場に、ワタシは勢いよく視線を逸らした。
「なんでいるんだよ」
「帰り際に通りかかったらまだお店の電気が点いてたので、裏口で待ってたら店長さんに声をかけられました」
「ねぇ~、駿河っち、一緒に千円札一枚探してくんない? じゃないとアタシも桂っちも帰れないのよ」
「わかりました。ちなみに現金以外の決済に間違いはないんですよね?」
「ああ。クレカとか電子マネーは大丈夫だった」
「レジの中ももちろん何度も確認済みってことでいいですか?」
「うん。店長と何度も確認した」
「わかりました。僕もお札数えてみますね。お二人はもう一度電子マネーなどの確認と、レジ周りの確認をお願いします」
「わかった」
そう駿河が指示して、すぐだった。
「あ、この千円の束、一枚多いですよ」
 駿河は確認のために机の上にその千円の束を並べる。本来十枚一束のところ、十一枚ある。
「えー!? 何度も数えたのに!」
「駿河っちナイス!」
 無事にレジ締めを終えて、店の外に出る。
「テキトーに買って来た~。駿河っちコーヒーイケる?」
 先に出ていた店長は自販機でワタシと駿河に飲み物を買ってきてくれた。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「桂っちはココア~」
「ありがとうございまーす」
「マージ駿河っち頼れるわ。ウチの店掛けもちしない? 女ばっかの職場だけど駿河っち一人いるだけでマジありがたいんだけど」
「ありがとうございます。考えときます」
「そんじゃ、桂っち、今日はちゃんと寝ろよ~。お疲れ~」
 そう言うと店長はバイクに乗って颯爽と帰って行った。残されたワタシの顔がこわばる。駿河には知られたくなかったなぁ。
「じゃあ、帰るか駿河! ほんと助かったぜ」
 逃げるように自転車にまたがり走り出す。後ろから駿河も自転車で走って来る。
「さっき店長さん言ってたことは本当ですか?」
「……おう」
「体調悪かったとかですか?」
「いや、ちょっと……小説書いてたらまた集中しちゃって」
「もう……さすがに昨日は遊びまわったんですし、休まないとダメですよ」
「ごめん」
 マンションに着いて、自転車を停めていると、顔を覗き込まれ、思わず後ずさる。
「げ、元気だからな。今だってお腹空きすぎて……あっ」
「どうしました?」
「今日冷蔵庫の中なんもない! 今からコンビニ行って来るわ」
 再び自転車のスタンドを蹴り上げると、
「よかったら、ご飯一緒に食べます?」
「えっ?」
「大学祭とバイトで忙しくなると思って、作り置きしておいたんです」
「計画的だなぁ」
「あなたが無計画なだけです。今回、むしろ作りすぎたくらいで食べてもらえると助かります」
「失礼なこと言われたけど、お言葉に甘えさせていただこうかな。風呂入ったらそっち行く」
「わかりました」
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