【生に神の唄】 ~護る強さと弱さ~

やっさん@ゆっくり小説系Vtuber

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【ハニ×カミ の二 丹羽さん】

ーP3ー

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 緑地の広場、御神木を目指して走る。
 忘れかけていることを、必死に思い出そうとしながら。

 神の子は教えてくれた。
 神の作った生命を護るのが、神の子の役目。
 護る生命から神の子は活力をもらい、その活力を生命に返していく。
 人が森の生命を壊し、人が神への感謝を忘れた時、神の子は力を失い消えてしまう。
 
 その時、神の子との記憶も、消えてしまう。

 お祭りの翌日、今日。あの緑地でマンションの建設工事が始まる。御神木が倒されてしまう。人に忘れられて力を失う前に、神の子は御神木と共に消えてしまう。
 みんなに神様への感謝を思い出してもらえば、神の子は力を失わずに済む。みんなで反対運動をして、工事を中止させる。それが、あたしの考えた、神の子を護る方法だった。

 でも、反対運動への協力を呼び掛けるはずのお祭りで、あたしは、矢倉から落ちて意識を失った。
 神の子を護ると決めたはずなのに、自らそのチャンスを失ってしまった。その上、神の子はあたしの為に、残った力を全て注いでくれた。

 反省だって後悔だって、今はしている時間がない。とにかく早く御神木へ急ぐ。


 広場のある緑地、その脇に停まっている数台のトラックの脇から中へ入る。ガードマンや作業員の静止を無視し、広場へ向かって緑地を駆け抜ける。

 広場の中央では、今まさに、御神木に向かってショベルカーが鉄の腕を振り上げている。

 間に合った。
 いや、間に合ったのだろうか。この状況を覆す方法なんて、何も分からない。

 神の子は、きっとここにいるはず。右手に握った丹羽さんを入院着のポケットに入れると、リコーダーを構える。
 息が上がっている。綺麗になんて吹けない。それでも、今できることをするしかない。
 あたしは大きく息を吸うと、音が割れるのも気にせず、生に神はにかみの唄を奏でる。

 最初は唖然としていた作業員だが、一人があたしの肩を掴む。諦めたくないが、大人の力に抵抗できるはずもない。
 そう思った時、病院から追ってきたクラスメイトが一緒に並ぶ。共に奏で、共に歌う。一人じゃないことに、あたしは安心感と勇気を得る。

 お父さんとお母さん、先生も駆けつけ、私達を止めようとする。いつの間にか作業員もたくさん集まっている。このままでは、時間の問題。数人の子供の力では、大人に勝てない。
 
 しかし、今度は委員長が広場に入ってきた。その後ろには、昨夜帰宅したクラスメイト全員を連れて。

 クラスのみんなで、何度も何度も、演奏し歌い続ける。広場には、あっというまにみんなの両親も集まる。
 
 「危ないからやめなさい」
 「迷惑をかけるんじゃない」

 そんなことを叫ぶ大人達の中、あたしのお母さんが歩み寄ってくる。そして、あたしの頭を優しくポンポンと叩き、小さく呟く。

 「あなたは、一人じゃない。きっとみんなに届くよ、あなたの優しい心。」

 お母さんは周囲の大人を見渡し、声を張り上げる。
 「大人が権力やお金に流されて諦めたことを、子供たちは守ると決めて行動しています。私は、この子たちの行動を誇りに思います。八丹神町で生まれ育った人間として。」

 お母さんが一緒に歌い始めると、一人、また一人と大人たちが和の中に入ってくる。
 話を聞きつけた町中の人たちが集まり、夕方には老人会の方々が立派な楽器を持って加わってくれた。

 大人たちは、歌いながら、演奏しながら、涙を流していた。  


 太陽が傾き、空を橙色に染まる。そして、山陰やまかげに陽が沈み、月や星が輝く。
 そんな夜空の下で、あたし達の奏でる生に神の唄はにかみのうたは何度も何度も続く。

 あたしの想いを、みんなの活を、八に神の唄の調べに乗せる。神の子へ届けと……
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