7 / 8
第六章 【連荘】
しおりを挟む
4階建てのビルの階段を駆け上がる。その屋上に、いる。
二ヤリと笑いながら、うちを見て言う。
「あら、どうしたのナズちゃん」
うちは、焦りを振りほどくように大きな声で言い返す。
「きち子さん、あいつはどこだ」
「あはは、教えてほしい? じゃぁ、これで勝負ね」
互いに雀心を起動する。『天兎』と『シア』そして適当にマッチングされた二人。
「海を塞き止められて、力がでないナズちゃんに勝てるかしら?」
返す言葉も無い。でも負けられない。あいつを死なせたくない。月の光を力に変えるきち子さんに、簡単に勝てると思わない。
でも、ここが神社で、きち子さんが巫女だと言うなら、月が神だと言うなら、うちに勝ち目はあるはず。
ここは、神が成らずの地。あいつを護るのはうちの役目。
オーラスを迎える。何かがおかしい。半荘の勝負なのに、もう何時間も対局してるような疲労感。まさかと思い、きち子さんを睨む。
「あら、お疲れかな? たった一度の半荘なのに」
その笑みで理解する。だけど、それでも屈する訳にはいかない。何度目かも分からない半荘のオーラスは、ついに運も利いていないのかもしれない。聴牌では捲れない。
待ってる牌が来ない。そもそも、点数も役もわからないうちには、今の手で捲れるか分からない。それでも、立直をかけて和了るしかない。
悪い勘が働く、ツモれる気がしない。待っている牌は、きち子さんが持っている気がする。
しかし、それを振り込んでもらえるとは思えない。このままでは負けてしまう。正攻法にこだわってる場合ではない。
奥の手と呼ぶには心もとないが、説得に打ってでる。
「あいつは、きち子さんのところにはいかないよ。去年の誓い、果たしてないから」
きち子さんはニヤリと笑って答える。
「誓いは果たされたよ」
『生きて、私より強くなって。私はずっと月で待ってるから』
「そして彼は強くなった。だから月へ、私の元へ来る」
それは違う。あいつから聞いたきち子さんなら、こんな結末を望むはずがない。うちは、あいつから聞いたきち子さんという人間を、信じる。
「あいつは一年前、きち子さんの想いに応えると誓った。でも、やろうとしていることは、きち子さんが望んだ形じゃない」
うちは確信している、その違いを。あいつはまだ、誓いを果たしていないことを。
「きち子さん、月は寂しいですか? たった一年で、あいつへの想いが変わってしまうほど、寂しいところですか?」
きち子さんの目つきが変わる。図星だ、勘は当たった。動揺した今、攻めるなら今。
『僕がもらってあげるよ』そんな言い方をするあいつ。麻雀で勝てば結婚してもらえると思ったあいつ。あいつに足りなかったこと。きち子さんがあいつを振った理由。それは、麻雀の強さじゃない。
「去年、きち子さんがあいつに望んだこと」
『私より強くなって』
「それは、麻雀なんかじゃない。人として強くなってほしかったんじゃないですか? 確かに麻雀は強くなったかもしれない。でも、人としての強さは何も変わってない。だから、きち子さんに会いたくて、また死のうとしているんだ。それが、1年前のきち子さんの望みだなんて、そんなのうちは認めない」
きち子さんは震えている。口をへの字に結び、目を閉じて必死に涙を堪えている。どんなにこの一年寂しかったとしても、芯の強い女性。寂しくて歪んでも、あいつへの本心は変わっていないはず。
「きち子さん、あなたは強い。そして、本当にあいつのことを想っているんでしょ。大丈夫、うちも、もうすぐそっちに行くから」
きち子さんが目を開く。その瞳からは、決壊したダムのように涙が流れ出している。震える手で、画面をタップする。
牌が切られた。
「それロン」
「立直、ホウテイ、赤ドラ」
「フッフッフ―、キミの槓よりうちの勘」
最後に乗った役で、辛うじて捲った。
河底撈魚
「やはりあそこか」
うちは慌てて駆け出す。泣き崩れるきち子さんを屋上に残して。
バリケードを飛び越え、湖へ飛び込む。人の姿で泳いでも遅い。あいつがどこにいるかも分からない。既に沈んでいれば、間に合わなくなる。あの姿になれば、泳ぎも速いし、水の中でも目と鼻が利く。
しかし、海から塞き止められ力を失いかけている今、あの姿に戻れば、二度と人の姿にはなれない。水を全て抜かれてしまった時、人の姿でなければこの身体は消滅するだろう。
でも、それでもいい。
人がうちを忘れて数百年。あいつはたった一人、うちと遊んでくれた人だから。
あいつを助けたい。
したいことをしないなんて、絶対にイヤだから。
決意と共に、全身があの姿へと変わる。
二ヤリと笑いながら、うちを見て言う。
「あら、どうしたのナズちゃん」
うちは、焦りを振りほどくように大きな声で言い返す。
「きち子さん、あいつはどこだ」
「あはは、教えてほしい? じゃぁ、これで勝負ね」
互いに雀心を起動する。『天兎』と『シア』そして適当にマッチングされた二人。
「海を塞き止められて、力がでないナズちゃんに勝てるかしら?」
返す言葉も無い。でも負けられない。あいつを死なせたくない。月の光を力に変えるきち子さんに、簡単に勝てると思わない。
でも、ここが神社で、きち子さんが巫女だと言うなら、月が神だと言うなら、うちに勝ち目はあるはず。
ここは、神が成らずの地。あいつを護るのはうちの役目。
オーラスを迎える。何かがおかしい。半荘の勝負なのに、もう何時間も対局してるような疲労感。まさかと思い、きち子さんを睨む。
「あら、お疲れかな? たった一度の半荘なのに」
その笑みで理解する。だけど、それでも屈する訳にはいかない。何度目かも分からない半荘のオーラスは、ついに運も利いていないのかもしれない。聴牌では捲れない。
待ってる牌が来ない。そもそも、点数も役もわからないうちには、今の手で捲れるか分からない。それでも、立直をかけて和了るしかない。
悪い勘が働く、ツモれる気がしない。待っている牌は、きち子さんが持っている気がする。
しかし、それを振り込んでもらえるとは思えない。このままでは負けてしまう。正攻法にこだわってる場合ではない。
奥の手と呼ぶには心もとないが、説得に打ってでる。
「あいつは、きち子さんのところにはいかないよ。去年の誓い、果たしてないから」
きち子さんはニヤリと笑って答える。
「誓いは果たされたよ」
『生きて、私より強くなって。私はずっと月で待ってるから』
「そして彼は強くなった。だから月へ、私の元へ来る」
それは違う。あいつから聞いたきち子さんなら、こんな結末を望むはずがない。うちは、あいつから聞いたきち子さんという人間を、信じる。
「あいつは一年前、きち子さんの想いに応えると誓った。でも、やろうとしていることは、きち子さんが望んだ形じゃない」
うちは確信している、その違いを。あいつはまだ、誓いを果たしていないことを。
「きち子さん、月は寂しいですか? たった一年で、あいつへの想いが変わってしまうほど、寂しいところですか?」
きち子さんの目つきが変わる。図星だ、勘は当たった。動揺した今、攻めるなら今。
『僕がもらってあげるよ』そんな言い方をするあいつ。麻雀で勝てば結婚してもらえると思ったあいつ。あいつに足りなかったこと。きち子さんがあいつを振った理由。それは、麻雀の強さじゃない。
「去年、きち子さんがあいつに望んだこと」
『私より強くなって』
「それは、麻雀なんかじゃない。人として強くなってほしかったんじゃないですか? 確かに麻雀は強くなったかもしれない。でも、人としての強さは何も変わってない。だから、きち子さんに会いたくて、また死のうとしているんだ。それが、1年前のきち子さんの望みだなんて、そんなのうちは認めない」
きち子さんは震えている。口をへの字に結び、目を閉じて必死に涙を堪えている。どんなにこの一年寂しかったとしても、芯の強い女性。寂しくて歪んでも、あいつへの本心は変わっていないはず。
「きち子さん、あなたは強い。そして、本当にあいつのことを想っているんでしょ。大丈夫、うちも、もうすぐそっちに行くから」
きち子さんが目を開く。その瞳からは、決壊したダムのように涙が流れ出している。震える手で、画面をタップする。
牌が切られた。
「それロン」
「立直、ホウテイ、赤ドラ」
「フッフッフ―、キミの槓よりうちの勘」
最後に乗った役で、辛うじて捲った。
河底撈魚
「やはりあそこか」
うちは慌てて駆け出す。泣き崩れるきち子さんを屋上に残して。
バリケードを飛び越え、湖へ飛び込む。人の姿で泳いでも遅い。あいつがどこにいるかも分からない。既に沈んでいれば、間に合わなくなる。あの姿になれば、泳ぎも速いし、水の中でも目と鼻が利く。
しかし、海から塞き止められ力を失いかけている今、あの姿に戻れば、二度と人の姿にはなれない。水を全て抜かれてしまった時、人の姿でなければこの身体は消滅するだろう。
でも、それでもいい。
人がうちを忘れて数百年。あいつはたった一人、うちと遊んでくれた人だから。
あいつを助けたい。
したいことをしないなんて、絶対にイヤだから。
決意と共に、全身があの姿へと変わる。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる