湖に浮かぶ月

やっさん@ゆっくり小説系Vtuber

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第六章 【連荘】

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 のビルの階段を駆け上がる。その屋上に、いる。

 二ヤリと笑いながら、うちを見て言う。
「あら、どうしたのナズちゃん」

 うちは、焦りを振りほどくように大きな声で言い返す。
「きち子さん、あいつはどこだ」 
 
「あはは、教えてほしい? じゃぁ、これで勝負ね」

 互いに雀心を起動する。『天兎』と『シア』そして適当にマッチングされた二人。

「海を塞き止められて、力がでないナズちゃんに勝てるかしら?」

 返す言葉も無い。でも負けられない。あいつを死なせたくない。月の光を力に変えるきち子さんに、簡単に勝てると思わない。

 でも、ここが神社で、きち子さんが巫女だと言うなら、月が神だと言うなら、うちに勝ち目はあるはず。
 ここは、の地。あいつを護るのはうちの役目。



 オーラスを迎える。何かがおかしい。半荘の勝負なのに、もう何時間も対局してるような疲労感。まさかと思い、きち子さんを睨む。

「あら、お疲れかな? の半荘なのに」

 その笑みで理解する。だけど、それでも屈する訳にはいかない。も分からない半荘のオーラスは、ついに運も利いていないのかもしれない。聴牌では捲れない。
 待ってる牌が来ない。そもそも、点数も役もわからないうちには、今の手で捲れるか分からない。それでも、立直をかけて和了あがるしかない。

 悪い勘が働く、ツモれる気がしない。待っている牌は、きち子さんが持っている気がする。
 しかし、それを振り込んでもらえるとは思えない。このままでは負けてしまう。正攻法にこだわってる場合ではない。

 奥の手と呼ぶには心もとないが、説得に打ってでる。
「あいつは、きち子さんのところにはいかないよ。去年の誓い、果たしてないから」

 きち子さんはニヤリと笑って答える。
「誓いは果たされたよ」
『生きて、私より強くなって。私はずっと月で待ってるから』
「そして彼は強くなった。だから月へ、私の元へ来る」

 それは違う。あいつから聞いたきち子さんなら、こんな結末を望むはずがない。うちは、あいつから聞いたきち子さんという人間を、信じる。

「あいつは一年前、きち子さんの想いに応えると誓った。でも、やろうとしていることは、きち子さんが望んだ形じゃない」

 うちは確信している、その違いを。あいつはまだ、誓いを果たしていないことを。

「きち子さん、月は寂しいですか? たった一年で、あいつへの想いが変わってしまうほど、寂しいところですか?」

 きち子さんの目つきが変わる。図星だ、勘は当たった。動揺した今、攻めるなら今。

『僕がもらってあげるよ』そんな言い方をするあいつ。麻雀で勝てば結婚してもらえると思ったあいつ。あいつに足りなかったこと。きち子さんがあいつを振った理由。それは、麻雀の強さじゃない。

「去年、きち子さんがあいつに望んだこと」
『私より強くなって』
「それは、麻雀なんかじゃない。人として強くなってほしかったんじゃないですか? 確かに麻雀は強くなったかもしれない。でも、人としての強さは何も変わってない。だから、きち子さんに会いたくて、また死のうとしているんだ。それが、1年前のきち子さんの望みだなんて、そんなのうちは認めない」

 きち子さんは震えている。口をへの字に結び、目を閉じて必死に涙を堪えている。どんなにこの一年寂しかったとしても、芯の強い女性。寂しくて歪んでも、あいつへの本心は変わっていないはず。

「きち子さん、あなたは強い。そして、本当にあいつのことを想っているんでしょ。大丈夫、うちも、もうすぐそっちに行くから」

 きち子さんが目を開く。その瞳からは、決壊したダムのように涙が流れ出している。震える手で、画面をタップする。

 牌が切られた。

 

「それロン」

「立直、ホウテイ、赤ドラ」

「フッフッフ―、キミの槓よりうちの勘」 

 最後に乗った役で、辛うじて捲った。


 河底撈魚ホウテイラオユイ


「やはりあそこか」
 うちは慌てて駆け出す。泣き崩れるきち子さんを屋上に残して。


 バリケードを飛び越え、湖へ飛び込む。人の姿で泳いでも遅い。あいつがどこにいるかも分からない。既に沈んでいれば、間に合わなくなる。あの姿になれば、泳ぎも速いし、水の中でも目と鼻が利く。
 しかし、海から塞き止められ力を失いかけている今、あの姿に戻れば、二度と人の姿にはなれない。水を全て抜かれてしまった時、人の姿でなければこの身体は消滅するだろう。

 でも、それでもいい。

 人がうちを忘れて数百年。あいつはたった一人、うちと遊んでくれた人だから。

 あいつを助けたい。

 したいことをしないなんて、絶対にイヤだから。


 決意と共に、全身があの姿へと変わる。
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