修正記

山田 花太郎

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五章

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第五章 再戦 本能寺!

「で、帰ってきたわけじゃん?」
 本能寺を出て行くとこもなかったので、鞍馬山に戻ってきた大樹達。
「ここは、宿場じゃないんじゃんけどね」
 やれやれといった感じである。
「まあ、ええやん。減るわけでもなしに」
「ま、いつも暇だからいいじゃんけど」
「でも、あれどうすんだよ」
「信長のことかいな」
 本能寺の信長を思い出す。
「そんなにすごかったじゃんか」
 興味有り気に鞍馬が尋ねる。
「人間じゃなかったっ! 絶対!」
 大樹の言葉を聞いて鞍馬が意外そうな顔をする。
「妖怪の類って事じゃん。でも、妖怪は人の世に手を出さないってのが暗黙の決まりじゃん。それを破って堂々とやっているってことは、よほどの大馬鹿か自分の力に自信のある奴ってことじゃん」
「そうなのか」
「まあ、人の方が数では圧倒的に多いし、敵にすると面倒じゃん。それに、人より長い間生きている分、そんなに生き急ぐ必要ないじゃん。信長ってやつは、変わりもんってことじゃんよ」
「誰か力になってくれそうな奴とか知ってへん?」
 真白が鞍馬に聞く。鞍馬は少し考えて口を開いた。
「ん~、二人程いないこともないじゃん」
「頼む! 紹介してくれ!」
 大樹が鞍馬天狗に手を合わせる。
「まあ、紹介くらいならいいじゃん。でも、絶対に協力してくれるとは限らない奴らじゃん。基本妖怪って気まぐれじゃん。でも、二人とも自称魔王だから、信長ってやつが気に食わないと思えば仲間にできるかもじゃん。交渉はそっちで考えておくじゃん」
 協力的なのか投げやりなのかわからない適当さで鞍馬が言う。
「連絡頼んでくるから、しばし待つじゃん」
 そう言うと、どこかに飛び去っていった。
「で、どうやって交渉するつもりや?」
「考え中」
「そない大物っぽい奴ぁ、簡単には無理やで?」
「考え中」
「もしかしていきなりおそわれるかもしれませんよう?」
「だ、か、ら、考えてるんだろうがあ。文句ばっかいってないでお前らも考えてくれよ」
 大樹がいらいらして叫ぶ。
それを受けて真白が、
「いややわあ、この子。反抗期かしら、ねえ、お父さん」
 陽菜のほうに顔を向ける。
「これこれ、お母さんを困らせるもんじゃないですよお」
 ぽんぽんと大樹の頭を叩いた。
 ぶちっ。
 大樹は無言のまま陽菜の肩を掴んだ。
「ちょ、ちょとなんですかあ」
 陽菜に対し腰側にある片足を、陽菜の手前側にある足に絡め、残りの足を頭部に引っ掛けた状態で、片腕を背中側に直角に曲げ、大樹は自らの片腋に抱え込む。
卍固めの完成である。
肩・脇腹に最もダメージを加えることができ、加えて腰や首筋などにも痛みを与えることができる技だ。
「いた、いたいって、痛いです。やめ、やめてえええ」
 卍固めをかけている状態で大樹は、
「ちゃんと考えてくれるよなあ!」
「わ、わかりましたからあ、痛いです、痛いですうう、あ、でもなんか、痛みが快感に……」
 やっと大樹が陽菜の技を解いた。
「はあ、痛かった。もう! 新しい快感に目覚めちゃったらどうするんですかあ」
 肩をさすりながら文句をたれる。
「本当に考えてくれよな、真白も!」
 じろりと真白を睨む。
「はいはい。でも、あんま心配してもしゃあないやん。諺にもあるやろ。案ずるより生むが横山やすし。めがね、めがね」
 両手めがねを探すしぐさをする。
「寒! しかも、平成生まれにはわからないギャグを、年代の差を感じるっての」
「べ、別にいいやんか」
 さすがに恥ずかしかったのか顔を赤くして後ろを向く。
「はあ、まあでも、合ってから様子をみて考えるか」
 あきらめて近くあった岩に寄りかかった。
「じゃあ、さっきのわたしの痛みは意味なかったんですね」
 いつのまにか大樹の隣に移動してきていた陽菜が耳元で呟く。
「はっ!?」
 殺気を感じ回避しようとするが、そこは腐っても忍者。すばやく卍固めの体勢に持ち込まれてしまう。
「や、やめ。は、話を…」
「問答無用ですう」
「ぎゃあああああ」
 容赦なく締め上げていく。絶叫は、大樹が気絶したところで止まった。

 大樹たちは他愛も無い会話をしながら鞍馬が戻ってくるのを待っていた。
 鞍馬が戻って来たのは、二時間くらい経ってからだった。
「連れてきてやったじゃんよ」
 そう言って鞍馬天狗が連れてきたのは、二人の侍らしきの人物。
「山本五郎左衛門にて候」
「神野悪五郎にて候」
「「魔王の頭にて候」」
 同時に口に出す。
「我こそが魔王の頭で候」
「片腹痛い。我こそが真の魔王にて候」 
 二人がすごい剣幕でにらみ合う。
「あ~、まあ、ちょっとこっちの話を聞くじゃんよ」
 二人の間に鞍馬天狗が割って入る。
「鞍馬殿がそういうならしばし待つで候」
「鞍馬殿には世話になって候からな」
 うんうんと頷く。
「さんきゅ。で、あんたら、信長って知ってるか?」
 大樹が本題に入る。
「最近、戦で名を上げている武将で候」
「それがなにか候?」
「そいつが、魔王を名乗っているんだけどさ」
「人の身で魔王を名乗るとは愚かに候」
「左様で候。片腹痛いで候」
 二人とも嘲笑する。
「いやそれが」
 話を続けようとして、
「人間やないんや! それが!」
「そうです、そうです! 刀をばっしゅーってやったら、周りの人の体がズバーって真っ二つ!」
「ちょ、黙っててくれ」
 話に割り込む二人を黙らせる
「信長は人間じゃないみたいんだよ。オレたちは信長を倒したいんだ。だから、あんたたちに協力してもらいたいんだ」
「信長とやら、人外の身ににて人の世に大きな干渉をするのは感心しないで候」
「魔王を名乗るのも気に食わんで候」
「じゃあ!」
 大樹が良い返事を期待した。
「「だが、断る、で候」」
「なんでだよ?」
 大樹が納得できず聞き返す。
「人の世に大きな干渉をするのは感心しないで候が、別に禁止されてるわけでない候」
「魔王を名乗るのも小物に過ぎないで候」
 自分らはどうなんだと突っ込みたいのを大樹はぎりぎり飲み込む。ここで彼らを怒らせても得はない。
「どうしても駄目なのか」
 駄目もとで再度頼んでみる。
「他に我らが戦う理由があれば考えるに候」
「我らに得がない候」
 なにやら、雲いきが良くない。
「す、少しまってくれ。話し合うから」
 そう山本達にいって、真白と陽菜を集める。
「どうするんや?」
「なんか良い方法ないのか?」
「なにか、お宝とか渡せばいいんじゃないですかね?」
「持ってるわけないやろ。宝どころか、うちら文無しやで」
「そうだよなあ……ん?」
 ポケットに入れていたなにかを握り、ある考えが頭に浮かぶ。
「じゃあ、なにか報酬になるようなものがあるなら手伝ってもらえるのか」
 大樹が彼らに交渉を持ちかけた。
「我らが納得できる物ならで候」
「人間風情が、我らを満足させられるものを持っているわけない候」
 やれやれといった感じで肩をすくめる。
「これなんか、どうだ?」
 大樹がなにかをポケットから取り出す。
「なんで、候?」
「面妖なからくりで、候」
 大樹が取り出したのは、携帯音楽プレーヤー。16Gバイト。ソーラーパネル搭載。彼らがわからないのも当然である。
「この機械だけで、千曲以上の歌が聴けるんだ」
「そんなわけないで候」
「歌がそんなものから出るわけない候」
 大樹の予想通りの反応が返ってくる。
「じゃあ、聴いててくれ」
 そういってプレーヤーを操作する。プレーヤーからはJPOP音楽が流れ出す。
大樹と真白以外全員がざざっと一歩後ずさった。
「な、なんと面妖に候!」
「この小さき箱に人が入っているに候!」
 二人の喰いつきは十分だ。
「もし、あんたらが信長を倒すの手伝ってくれたらこれをやるよ」
「「受けるで候」」
 即答だった。
 そういって、プレーヤーに手を伸ばそうとする。
「おっと、報酬は仕事の後、渡す」
 さっと大樹が手を引っ込める。
「「わかったで候」」
 大樹は小さくガッツボーズした。真白が近づいてきて、
「やったやんか! よくそんなもん持ってきてたやん」
「ああ、突然この時代に飛ばされたからたまたま服の中にあったんだ」
「それ、なんなんですか、ねえ、ねえ」
 陽菜が興味津々に猫のように目を大きくして聞いてくる。
「あ~なんだ。外国の道具だよ」
「へ~そうなんですかあ。すごいんですねえ。外国って」
 適当な理由にすぐ納得する陽菜。
鞍馬も大樹のところへ近寄ってきた。
「なんか面白いの持ってんじゃん。俺もなんかほしいじゃんよ」
「鞍馬も手伝ってくれたらな、考えるよ」
「手伝っても良いじゃんけど、明日からしばらく『天狗の未来を考える会』に参加しないといけないじゃんしなぁ。でも、ほしいじゃんし」
 う~んと少し悩んで、何かを思いついたように顔を上げた。
「よし、じゃあこうしようじゃん。武器と交換ってのはどうじゃん?」
 鞍馬が物々交換を申し出る。
「武器か。わかった。それでいい。すごいの頼むぜ」
「ふっふっふ。見て驚かないでほしいじゃん。今持ってくるじゃん」
 文字通り飛ぶように駆けてすぐに見えなくなった。
「なんや、プレイヤー二個も持ってたんか?」
 真白が不思議そうにする。
「いや、代りにこれでいいかと思って…」
 そういって取り出したのは携帯電話。
「曲もまあまあ入ってるし、ゲームもできるし、納得するだろ。でもすごい出費だ。音楽プレイヤーに携帯電話。高かったのに」
 はぁとため息をつく。
「まあしゃーないやん。命あっての物種ってことで」
「そういうことになんのかな。はぁ」
「? 大樹さんもいろいろ大変ですねえ」
 陽菜が大樹を慰める。
「おまえ、よくわかってないだろ」
「いいえ、違いますよぉ。よくではなく全然わかってません! でも、気持ちが大切ですから!」
 そんな会話をしているうちに、鞍馬天狗が戻って来た。
なにやら木箱を大事そうに抱えている。
「ふう。持って来たじゃん。これが…」
 木箱を高々と持ち上げた。
「てれてててて~あめのおはばり~」だみ声。
木箱の中に収められていたのは一振りの剣だった。
「これはじゃんよ。天之尾羽張っていって、火之迦具土神の首をはねる際に用いられた神剣」
「「「おお~」」」
「の複製」
「偽物かよ!」
「本物ってないだけじゃん。どこぞの有名な陰陽師が鍛えあげた一品じゃん。威力は保証するじゃん!」
「本当かよ」
「その証拠に、人外の物には扱えない代物なんじゃんよ。せっかく、誕生日の贈り物にもらっても意味ないじゃん」
「貰いもんかよ!?」
「いいじゃん、いいじゃん。で、そっちはなにくれんじゃん?」
「これだよ」
 大樹が渡した携帯電話は、思ったとおり気にいってくれたようで鞍馬は満足そうにいつまでも携帯電話を弄っていた。
「これで、戦力は整ったな」
「せやな。傭兵二人と伝説の武器を入手ってところかいな」
「これで、信長さんを倒せますね」
 その夜は、真白が料理を作ってみんなで前夜祭で盛り上がった。出発は、明日の朝ということになった。

 朝になり鞍馬山を出発し、本能寺に向かった。前回と同じように、隠れ蓑を使いながら問題なく信長の部屋の前まで来ることができた。
「いよいよ、ラスボス戦やで」
「ああ、セーブできないことだけが不安だ」
「「安心されよ。我らがいれば楽勝に候」」
「そうですよ。私だって、今回は秘術の限りを尽くしてがんばりますよ」
 やる気満々の三人である。
「じゃあ、開けるぞ!」
 襖の取っ手に手をかけて思い切り開いた。前と同じように、信長は椅子に腰掛けていた。
「信長さん、年貢の納め時ですよ。すぱっと私たちに殺られちゃって下さい!?」
 信長はゆっくりと顔を上げ、大樹たちを赤い瞳で凝視した。
「ひぃぃ」
 さっと陽菜が大樹の背中に隠れた。
「なんで俺の後ろに隠れる!」
「だって怖いじゃないですかあ! あの目みたらつい」
「ああ、もうっ」
 大樹は織田信長に向かい合う。
「あんた、人間じゃないんだろ。何が目的なんだよ」
「珍しい客人だ。人が我の命を狙うのは度々あるが、見たところ人外の物も混ざってる様だ。おもしろい」
 そういうと、信長は椅子からすうっと立ち上がった。
「目的? そんなものは無い! あるとすれば、戦いこそが目的だ。我は生を渇望しておる。だが、ただ存在しているだけでは、生は実感できぬ。終わりの無き生は生とは呼べぬ。では、如何に生を実感できるか。光を感じる為には、闇が必要であるように、生を実感するには死が必要なのだ。そのための戦いよ! 幾戦幾万の死の瞬間を我は求めておるのだ」
「狂ってるよ。あんた」
「理解は求めぬ。家畜は人間の考えを理解できまい。それと同意。そこの人外の物なら多少は理解できるのではないか」
「我らは無用の争いはしないで候」
「うちも、大概楽しくやっとるからわからんなあ」
 あっさりと否定する。
「ふぅ。俗物には我の思想は理解できぬか。まあ、よい。では、戦いを始めるか。願わくば、我に生と死の興奮を!」
 信長は、右手で腰の刀を抜く。漆黒の刀身が、怪しく光っている。
「こちらも、行くで候」
 山本五郎左衛門と神野悪五郎は、すばやく刀を抜き、左右から切りかかる。。
 ズドンッとすさまじい衝撃が建物を揺らした。
山本五郎左衛門の斬撃を信長は右手の刀で受け、神野悪五郎の斬撃は左手で刀身ごと掴んで受け止めた。
「「なんと!」」
 二人同時の斬撃を受けられ、山本五郎左衛門と神野悪五郎は驚愕した。
信長は掴んだ刀を引き寄せ、神野悪五郎の腹に強烈な蹴りを叩き込む。そのまま蹴られた神野悪五郎は壁まで吹き飛ばされようやく止まった。
「ぐはぁっ」
 口から盛大に吐血しながらも、よろよろと立ち上げる。だか、ダメージは大きそうだ。
 山本五郎左衛門は、一度信長から間合いを取った。
「なかなかやるで候な」
 次いで、神野悪五郎が、
「な、なに、まだまだで候、ぐふぅっ」
 さらに吐血した。
「めちゃめちゃ利いてるやんけ」
 思わず真白が突っ込む。
「やっぱ、うちらもいかんとやばいで」
「ああ、いくぞ」
「了解や」「はい」
 真白は胸元から鉄扇を取り出し構える。大樹は、鞍馬天狗から貰った天之尾羽張を抜く。
「私からいきますよお」
 陽菜は、口に何か含んだと思うと、口から猛烈な炎を信長に向け吐いた。炎は、信長を包んだが、
「ぬるいわ」
 左手の一閃で炎は蹴散らされる。間を置かず、大樹と真白が信長に迫る。だが、信長の剣の一閃が走る。
「うげぅ」「うにゃああ」
とっさに武器で、防ぐが二人とも弾き飛ばされた。
「そこそこ楽しめたが、そろそろ終わりにするか」
 信長は両手で刀を握りしめると、山本五郎左衛門に切りかかった。山本五郎左衛門も刀で受け止めるが、その刀ごと切り裂かれてしまった。そのまま山本五郎左衛門は崩れ落ちる。
「山本ぉぉう!」
 敵とばかりに切りかかってくる神野悪五郎を信長は刀で突き刺した。
「ぐはぁ。だが、」
 刺されながらも、刺された刀身を握り閉める。
「これで、刀は使えまい」
 口から血を流しながら、笑う。
「忍法、後ろからグサッ」
 いつの間にか後ろに回りこんでいた陽菜が忍者刀で横腹を突き刺した。
「ぬ、小癪な」
 刀から手を離し刺されたまま、拳で陽菜と神野悪五郎を殴りつけた。ノーバウンドで壁に激突した。
「きゅう」「ぐは」
 そのまま二人とも気絶してしまう。
「はぁ、はぁ、どうやら残りはあと二人だけのようだな」
 大樹と真白に視線を剝ける。
「くそう、洒落にならねえ」
 死のプレッシャーが大樹の足を震わせる。
「怯えずともよい。その恐怖から開放してくれるわ」
 神野悪五郎から、剣を抜き取り大樹へと投げつけた。一直線にそれは、大樹の体を貫くはずだった。
「さ、さすがに、痛いやん。げふ」
 真白が大樹をかばってその一撃を受けたのだ。刀は体の中央を貫いた。
「ま、真白!?」
 大樹が倒れかけた真白を受け止めた。
「あ、あんたは、死なんといてな」
 そして、静かに目を閉じた。
「ああぁぁあ」
 大樹の目に涙が浮かぶ。
「くっくっく。安心せい。すぐにお前もあの世へ送ってやる」
 信長は高らかに笑った。
 大樹は、そっと真白の体を地面に降ろした。すっと立ち上がる。
「なんで真白が死ななきゃならねえんだよ」
「弱いからだ」
「弱い?  なら最初に死ぬのは、オレだろうがよ! ここまで流れできちまった中学生のオレのはずだろ!」
「どうせ、お前も死ぬ」
「ああ、それならあんたも道連れにしてやるよ!」
刀を構え一直線に信長に突撃した。
「愚かな」
 信長は、片手をかざす。闇が手のひらに集まって球体を創る。
「吹き飛べ」
 大樹は、放たれた球体を天眼の力で回避しながら、突き進む。
「ならば」
 信長はさらに両手をかざす
 球体を大樹に向け放つ瞬間、信長の腕が下に下がり、球体は床を貫いた。
「忍法・鉄蜘蛛の糸ですう」
 無数の鉄の糸が信長の体を縛る。
「く、小癪な」
 意図を無理やり振りほどこうと両腕に力を入れた。
「そうはさせないで候」
 神野悪五郎が後ろから羽交い絞めにした。
「どっせい!」
 突進してきた大樹が信長の胸に刃を突き立てた。
「ぐ、油断した。だが、まだ」
 胸を刺されてもなお、信長は、刺さった刀を抜こうと手を伸ばす。
「これでもだめなのかよぉ」
 あきらめがよぎった瞬間、
「な、なに!?」
 そこで、異変が起きた。天之尾羽張の刀身が白く光りだした。
「ぬ、体の力が抜ける!?」
 異変はそれだけにとどまらず、信長の体がぼろぼろと崩れだす。
「こ、こんなものでえぇぇ」
 その言葉を最後に信長は塵になった。
「奴は、死んだのか?」
 大樹はその場にぺたりと座り込んだ。握っていた天之尾羽張をがちゃっと手から離した。そのとたん、刀身は砕けいくつかの欠片になった。
「やりましたね! 大樹さん」
 ふらふらした足取りで陽菜が近づいてきた。
「でも、真白と山本五郎左衛門が」
 大樹は涙を流しながら真白が刺された場所を見た。しかし、そこには、なにも無かった。
「そうか、彼女も塵になったのか」
 大樹は目頭を押さえた。
「んなわけあるかい!」
 ドガッ。
 突如、大樹の後頭部が何者かに蹴飛ばされた。
「だれだよ!?」
「うちや、うち」
 振り返ると、二頭身にデフォルメされた真白がいた。
「うん、うん、しばらく見ないうちに小さくなって…ってそんなわけあるか! 死んだはずじゃあ」
「あれくらいで死なんよ」
「普通死ぬから」
「それは、人間やからやろ。うちは、妖怪やからな」
「そうで候」
 山本五郎左衛門もいつのまにか隣にいて賛同する。同じく二頭身にデフォルメされている。
「じゃ、なんで二頭身!?」
「でかいダメージくらったからいつもの状態を維持できないんや。いわゆるコストダウン?」
「いや、しらねえけど。生きてんならいいよ」
 ぷいっと背中を向ける。
「なんや、心配してくれたん?」
「ああ、はい、はい」
 適当に手を振って誤魔化す。
「なんや、照れてるん? 照れてるん?」
「ああもう、目的済ましたんだから帰るぞ」
「ああまってえな」
 大樹を追って真白も部屋から出て行く
「若いっていいで候」
「若さは財産で候」
 うんうんと頷く。
「待ってくださいよう」

「無事戻ってこれてよかったじゃん。二名ほど、二頭身になってるけど」
 鞍馬が真白と山本五郎左衛門を見下ろす。
「まあ、しばらくすれば直るんや。かまへん」
「平気に候」
 本人たちは、あまり気にしていない様子である。
「でも、よかったよ。これで、日本が滅茶苦茶にならずにすんで」
 大樹が安堵の息を漏らす。
「ほんまや、ほんま。よかった。よかった。今夜の夕飯は、腕によりをかけてうまいもんつくらなあかんな」
「それは、楽しみじゃん!」
「食通の鞍馬殿を満足させる料理、我らも楽しみで候」
 全員がわいわいと盛り上がる。
「あれ、でも、ちょっと思った事があるんですけど」
「なんや、どうした?言うてみ」
「大樹さんたちって信長さんを守りにきたんじゃなかったんですか最初?」
 大樹と真白は、顔からスーと血の気が引くのを感じた。
「ど、どないすんねん! 信長、塵になってもうたやん」
「でも、あの場合しゃあねえだろ」
「そうかもしれんけど、どうすんねん」
 う~んと二人で腕を組んで考える。
「代りに信長のそっくりさんでも探そか」
「それだああ!」
 びしっと指を指す。
「いや、そう簡単にそんな奴おらんわ」
 真白が、ぱたぱたと腕を振る。
「それは、人間に限れば、だろ。妖怪だったら、いるだろ?」
「おお、なら……」
 真白が鞍馬天狗に視線を当てる。視線に気付き鞍馬天狗が振り向いた。
「?」
 にやりと二人は笑った。

「ええー俺に信長の代わりをやれって言うじゃん?」
「頼むよ。少しの間だけでいいから。開国してくれてればなんでもいいから」
 大樹がすがるように頼む。
「とりあえず、開国すればいいんじゃん? 他はどうなっても知らんじゃんよ?」
「ああ、それでいいから」
「わかったじゃんよ。まあできるだけやってみるじゃん。最近は、すげー暇だったじゃんし」
「よっしゃ! これで問題解決や」
 大樹と真白が手を取って喜ぶ。
「さっきからなに話してるんですかぁ。宴会の準備しましょうよ」
「せやな。豪華なもん作ったるで」
 その言葉どおりその夜の宴会は、豪華な料理と戦いの話で盛り上がった。

「それじゃあ、うちらは、行くわ」
 夜が明けて朝になり大樹と真白は、鞍馬達に別れを告げ山を降りることにした。一晩すると真白の姿も元通りになっていた。陽菜はもう少し山に残って今後を決めてからにするそうだ。
「ああ、なかなか楽しかったじゃん。あとは、任せろじゃん。ちゃんと開国してやるじゃん」
 自信満々の顔をしている。その自信に大樹はなぜか逆に不安を感じたが、理由が無いので特に何も言わなかった。
「いろいろ助かったよ。ありがとう。じゃあ」
 大樹は別れを言って、山を降りだした。
「ふう、ここらでいいだろう」
 辺りに誰もいないのを確認して、大樹はスイッチを取り出した。元の時代に戻るためのスイッチだ。
「よし、押すぞ」
 ポチッ。
『あと、30秒で現代に戻ります。ご用のない方は離れてお待ちください』
 スイッチからアナウンスが流れた。
「ほんま、やっと帰れるんやな」
「終わってみるとなんだか感慨深いな」
 二人が思い出に浸っていると、木の上から、何者かがしゅったっと降り立った。
「よっかたですう。見つかって」
 それは、さきほど別れたはずの陽菜であった。
「ちょ、いま忙しいやからあとにしてんか」
 慌てて真白が陽菜を遠ざけようとする。
「そんなつれないこと言わないでくださいよう。鞍馬天狗さんからお土産渡してきてくれって頼まれたんですう」
 とてとてと近づいてくる。
『あと20秒』
「あれ、なんの音ですか?」
「いいから、さっさとしい」
「そうですね。はい。お土産の生八橋です」
「はい、はい、ありがとさん。それじゃ」
 しっしっと、手を動かす。
「なんか冷たくありませんか」
『あと10秒』
「いいから、はよ帰りぃ」
「ひどい、いいですよもう」
 陽菜が飛び去ろうとして、転倒した。
「あはは、右足に左足引っ掛けちゃいました」
『ゼロ』
「もう駄目だああ」
 絶叫と共に辺りは光に包まれた。

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